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気のいいおにいさんがヤンデレになるとは聞いてない!  作者: 夜星 灯
おにいさん、ヤンデレの片鱗が見えてます
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おにいさん、色気でからかうのはやめてください!

 蘇芳さんの腰のあたりにしがみついて、その陰から朱羅を見る。朱羅は片方だけ口端を持ち上げて、挑戦的な表情を浮かべていて。


「どうした?そこに隠れても意味がないぞ。蘇芳は俺の味方だからな。言えば差し出す」


 そんなまさか、そう思いながら蘇芳さんを見上げると、蘇芳さんは眉尻をへにゃりと下げて。


「まあ、吾は同族を大事にする鬼だし?朱羅は目をかけてきたから、他よりも余計に可愛がってるわけで。そんな朱羅にお願いされたら差し出すよね。そもそも人間についてそこまでいい感情ある方じゃないし」

「えッ!私に親切なのは……?」

「朱羅がだぁいすきな人間ちゃんだからね。いずれ迎え入れるなら、いまのうちから良い印象を持たれたいよね」


 直感的に、蘇芳さんが言った迎え入れるという言葉に、何か含みがあると感じた。何かはわからないけれど、受け流してはいけないような。それを第六感のようなものが、伝えてきている。言葉の意味を問おうと口を開くよりも前に、話を戻すように朱羅が口火を切った。


「それで、今後のことだが」

「そうそう、そうだよね。今後のことを話しておかないと」


 私が何かを聞こうとしたのを感じたのか、朱羅の言葉に蘇芳さんが乗っかって。質問できそうなタイミングを押し流してしまった。


「まず、華は俺に心配をかけた罰として、倒れていた期間と同じ時間を俺の領域で過ごしてもらう。療養も兼ねてな。倒れていたのは4日。つまり4日間は俺と共にいろ」

「えーと、村の問題はその期間で悪化したりはしない?」

「吾の見立てでは、大丈夫かな。小春?とかいう人間が、人間ちゃんはそんなことしない〜って反論してくれてるからね。放蕩息子の日頃の態度とか、雪の態度とか、そういうのも後押しになってるみたい」


 4日という期間は短いようで長い。朱羅と一緒なのが嫌というわけではないけれど、村での立場がどうなるか不安で聞いてみると、蘇芳さんからフォローが入った。利市さんも雪ちゃんも、そこまで村の人からの評価が良くないことが幸いして、私の扱いについては膠着しているようだった。


「それなら良いよ。朱羅には心配かけちゃったし。それで朱羅の気が少しでも済むなら」


 それに、降って湧いた安穏とした時間だ。先送りにしようとしていた、朱羅へのきもちに向き直る時間としても使えるかもしれない。


 朱羅のことは、もちろん好きだ。男の人として。けれど、そのきもちを受け入れてこの世界に残る決断をするというのを決めるには、時間が足りていないから。だから、悩む時間として使いたいのだ。


 生まれ育った世界を捨てて朱羅を選ぶか、朱羅を選ばずに元の世界に戻るかを決めるために。


「それじゃあ吾は暇だから、村の様子でも見てようかな。朱羅と人間ちゃんがふたりっきりになれる機会を奪うのも年長者としてどうかと思うし?」


 おどけたようにそう言った蘇芳さんは、くるりと背を向けて、来たときとは違って静かに去っていった。

 その背を見送ってから、ハッと我に返る。朱羅への壁として使っていた蘇芳さんがいなくなってしまったのだ。となると、必然的に朱羅は私を捕まえるのは物理的にも簡単になったわけで。


「?!」


 そのことに気がついた私が朱羅の方へ振り向くよりも先に、するりと私の体に筋肉質な腕が回って肩が跳ねる。それを笑うような小さな吐息が、耳をくすぐってこそばゆい。咄嗟に抑えようとした手は、腕ごと抱きしめられているせいでまったく動かせなくて。慌てる私の耳元で、低く艶のある声が落とされた。


「それじゃあ、ふたりっきりの時間を存分に楽しもうな?」

「ひぅ」


 朱羅の声が吹き込まれた耳から、ぞわぞわと腰のあたりに違和感が走ったかと思うと、フッと力が抜けて。倒れるかと思ったけれど、抱きしめられていた状態が幸いして、朱羅の腕にしがみつくことで耐えられた。


「腰抜けた……」

「ふはッ、悪い悪い!」


 呆然と呟くと、朱羅は謝っているくせに申し訳なさそうなきもちなんて微塵も感じられないような、愉快さの滲んだ大きな声で笑って。朱羅が少し体勢を低くしたかと思うと、お尻の下に腕が差し込まれた。それを不思議に思う間もなく、ふわっと内臓が浮く感じがして、一気に視線が高くなる。慌てて朱羅の首元にしがみつくと、いつもは私よりも上にある朱羅の顔が少し下に見えて。


 それが少し新鮮ではあるけれど、いつもよりも朱羅の精悍な顔が近くてドキドキする。私をやや見上げているせいか、その瞳の色はキラキラとシトリンのような輝きを放っていて。いつもとは違う輝き方に目を惹きつけられる。見惚れているのに気がついているのか、朱羅は柔く目を三日月の形にたわませて。


「よし、それじゃあ行くか」

「え、どこに!?」


 朱羅は私の疑問に答えることなく、どこかに向かって迷いなく歩き出した。


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