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気のいいおにいさんがヤンデレになるとは聞いてない!  作者: 夜星 灯
おにいさん、ヤンデレの片鱗が見えてます
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穏やかな朝と寝たふり

 ピチチ、と声高にさえずる鳥たちの声がかすかに聞こえて、そのうるささに目が覚めた。

 まだ夜明けを迎えたばかりなのか、わずかに白んでいる部屋の中は少しだけ薄暗い。

 静かな部屋の中で、響いているのは私と朱羅の呼吸の音だけで。時折、旋毛を朱羅の寝息が通り過ぎていくのを感じる。


 ふと見下ろしたお腹には、眠る前と変わらず朱羅の腕が回っていて。もしやと思って足に意識を集中させてみると、足も絡んだままだとわかった。どうやら昨夜の状態をキープしているらしい。

 なんとなく体が固まっている気がして、もぞもぞと動いてどうにか寝返りを打つ。


「?!」


 そうして、突然視界に飛び込んできた肌色に咄嗟に視線を上に持ち上げた。朱羅の少しはだけた衿から胸元が見えていたのだ。視線をずらしたものの、目の前には朱羅の綺麗な顔が広がっていて。その顔の近さに、睫毛長いなあなんて現実逃避をしてから、もう一度寝返りを打とうとした、のだけれど。


「ン……」


 呻いた朱羅が寒そうにしながら私を強く抱き込んだせいで、少し空いていた隙間すら消え失せてしまった。そのせいで身動きが取れなくなって。胸元に手を置いて軽く押したけれど、状況は当然ながら変わらない。それどころか、朱羅の筋肉の感触に動揺して体がガチっと固まった。


(どうしよう……!)


 寝返りを打ったことを後悔して、視線を右往左往させる。私がこんなに焦っているのに、すやすやと眠る朱羅の顔は穏やかで。やつあたりだけど、その顔すら恨めしくなってきた。思わずじっとりと半目でその顔を見つめると、触れた手がかすかな揺れを伝えてきて。


「もしかしなくても朱羅起きてるよね?!」


 その言葉で朱羅は寝たふりをするのをやめたのか、くつくつと喉を鳴らして笑って。閉じていたまぶたをゆっくりと開く。薄闇のなかで、わずかな陽の光を反射した琥珀のような金の瞳が見えて、その美しさに見惚れた。


「流石に笑うとバレるな。華があまりに百面相するもんだから、愉快で笑いが堪えられなかった。おはよう」

「なかなか失礼だけど、そんなに顔動いてたかな。それと、おはよう」


 言葉の通り楽しげな声色が、朝の挨拶を告げる。朝の挨拶を返すと、満足そうにもう一度おはようと挨拶してくれた朱羅が髪の毛を梳くように撫でて。それが何度も同じ場所を往復するから、流石に寝癖がついているのだと悟った。


「朝の身支度しようと思うんだけど、どこで顔洗えばいい?」

「それなら俺も共に行こう」


 そう言葉が返ってきたので、二人して布団から起き出す。畳の部屋から板張りの床に踏み出したとき、あまりの冷たさにふるりと背筋が震えて、縮こまる。その様子を見ていた朱羅は、小さく笑って。


「っわ!?」


 突然しゃがみ込むと、膝の裏に手を回してそのまま私を持ち上げた。お姫様抱っこなんてされると思わなかったから、手の置き場所に困って胸元で小さく握りしめる。不安定に感じてガチガチに固まっていると、朱羅は安心させるように、落ち着いた声音で語りかけてきた。


「俺が華を落とすわけないだろ。それより首に手を回せ。その方が安定するし、掴まるところができて華も安心するだろうから」


 朱羅のその言葉に従って、そっと首に手を回す。思ったよりも筋肉で太い首周りに驚くよりも前に、その顔の近さに驚いて。思ったよりも近い距離にかあっと顔が熱くなる。


「華って照れ屋だよな。……そういうところ、かわいい」


 朱羅らしくない、追い討ちをかけるような言葉に惨敗した。隠すように両手で顔を覆ったけれど、きっと隠しきれないほど耳も含めて赤くなっているだろう。火照った体温を、冬っぽさが強くなってきた風が少しずつ冷やしていく。


 そうしてゆらゆらと運ばれているうちに、目的地に着いたらしい。朱羅は到着したことを知らせると、私を優しく床に立たせてくれた。目の前にある水場には、立派な鏡が置かれていて。それが私が元の世界で使っていた鏡と差がなくて驚く。たしか昔の鏡って、私の使っているものとの差がすごかった気がする。銅鏡とか、そういうイメージ。


「これ鏡だよね」

「ああ、そうだが……よくわかったな」

「だって、私が使ってたのと変わらないし」

「ほう?華のいたところはずいぶんと進んでいるらしいな」


 曰く、これは雲外鏡という妖怪が外つ国の技術を見て感動し、より良い鏡を追求した結果できあがったものだという。それゆえ人間界で使われているものと、妖が多くいるという妖の世界で使われているものと差が生まれたらしい。


「ん〜?それってもしかして、ここって俗に言う人間界じゃないってこと?!」

「そうなるな。まあそのことも含めて華に説明するつもりだ。昨日、何かと聞きたそうだったし。答えられることだけは答えるつもりだ」


 そう言って腕を組んだ朱羅は、なんだか気難しい顔をしていて。答えられないことってどういった質問なのかなあと考えを巡らせながら、鏡を覗き込んで頭を左右に動かして寝癖がないことを確認すると、朱羅に向き直った。そうして、最終確認のために朱羅に寝癖がないか聞いてみることにして。


「もう寝癖ないよね?」

「ああ」

「じゃあとりあえず部屋に戻ろっか」

「そうだな」


 とりあえず部屋に戻ろうと歩き出そうとすると、また朱羅に抱き上げられた。それに不満を全面に押し出した顔で見つめると、朱羅は切なそうに眉を下げて。


「お前が俺の腕の中で、元気に生きていることを実感したい。もう冷たくないと安心したいんだ。許してくれ」


 なんて言うから、心配をかけまくった自信のある私はおとなしく身を委ねた。


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