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気のいいおにいさんがヤンデレになるとは聞いてない!  作者: 夜星 灯
おにいさん、ヤンデレの片鱗が見えてます
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おにいさん、その力はなんですか?

 

 何を言えばいいかわからなくなった私は、呆然と朱羅を見上げた。怖いわけではない。朱羅が私を害することがないことは、今までの経験からわかっていたから。けれど、朱羅がここまで焦燥しているのは見たことがなかったから、どうしたらいいのかわからなくて。それだけ心配をかけてしまったということを、申し訳なく思うけれど。監禁をすると受け取れる言葉には素直に頷けなくて。


「もし私が朱羅に仕舞われるとして、それはいつまで?」


 試しにと聞いてみた質問に、朱羅は目を瞬かせて。

 それから、小さく笑った。


「俺の気が済むまで、と言ったら華はどうするんだ?」


 質問に質問を返した朱羅の雰囲気は、少しだけいつも通りの朱羅と同じものに戻っていて。私の髪を指にくるくると巻きつけて手慰みのようにしながら、流し目で私を見つめた。


「そうしたら、困るかなあ」

「……そうか。まあそう言われたところで出すつもりは――」

「だって、蛟のことも気になるし、村の様子も心配だし。それに、ずっと閉じ込められてたら、朱羅と魚獲り対決できなくなっちゃうから」


 朱羅は、私の言葉に嘘がないかをジッと観察するように見ていたけれど、仕方なさそうにため息を吐いて。そうして、私に覆い被さっていた体勢から離れると、私を丁寧に布団に寝かしつけた。


「病み上がりだろうから、まだ寝ておけ」


 お腹をポンポンと優しく叩いた朱羅は、そう言って襖に手を伸ばす。私のときはうんともすんとも言わなかったその襖は、当然のようにスーッと開いて。


「え、なんで?」

「言っただろう?華を仕舞うと。俺は華が寝ている間に、食糧をとってくる」

「それなら、私も――」

()()()()()()


 朱羅の言葉が耳から脳内に潜り込んだ途端、ぐらっと視界が揺れそうなほどの眠気が襲ってきて。そこでそういえばさっきもこの感じを味わったなあと思う。朱羅は私がゆっくりと眠りの淵に転がり落ちそうになっているのを堪えているのを見ると、もう一度口を開いて。


「聞こえなかったか?()()()()()()()()()()()


 重ねて襲いくる眠気に、今度こそ耐えられなくて。視界が真っ暗に染まった。


 *


 次に起きると、朱羅は既に部屋にはいなかった。襖を抜けて差し込む光の色は変わっていない。だから、朱羅が私になんらかの力を使って眠らせてから、そこまで時間は経っていないだろうと予想する。


(まあ、そうだよね)


 起き上がってから試しにと触れた襖は、朱羅のときとは違って、まったく動かない。さっき朱羅が眠っていたときと同じ手応えに苦笑して、布団の上で座って考え込む。


 朱羅は私が死ぬのが嫌で、護るためにこうしているのだとだいたいわかってはいるけれど、納得できるかどうかは別問題で。それに、ずっとこうして朱羅にお世話してもらうわけにはいかないから。なんとかして、朱羅を説得して村に戻らなければならないなと思う。


 それに、夢の中の影の言葉も気になる。人であるうちに、とはどういう意味なんだろう。人でなくなる可能性があるとしたら、それはどういったものなのか。それもまったくわからなくて。


 それに、もし、もしもの可能性だけれど。


 ここが朱羅の領域だというものだったとしたら。この世界のものを食べても、私はまだ元の世界に帰れるのだろうか。夢を見た段階では、村にいたときの私が元の世界に帰れる方法を教えてくれていた。けれど、ふと思い出したのだ。黄泉竈食(よもつへぐい)で帰ることができなくなった話を。もちろん、この話を忘れていたときに食べた村の食事で帰れなくなる可能性もあった。けれど、夢が私が元の世界に帰れると教えてくれた今、追加で不確かな要素を加えても大丈夫なのだろうか。


「うーん、どうしよ」


 ひとりごとをこぼして、首を傾げる。とりあえず今は、事情を説明して朱羅の説得をするべきか、黙ってご飯を食べないで村に戻ることを先決とするか、が喫緊の問題だと思う。前者は朱羅に納得してもらえなかった場合、帰る道を潰すリスクがあること。後者は、過保護で世話を焼きがちな朱羅がご飯を食べないことをよしとする可能性が低いから成功率が低そうなことが問題である。


「うーーーん、まあ朱羅が帰ってくるまでに決めればいいか」


 悩みすぎて楽観的な思考がポンと頭に浮かんだ。悩み続けてもわからないし、どうにでもなあれという状態に近いと思う。どうにかなるはず、という思考のもととりあえずどこにも行けないので再度布団に寝転がって。天井を見つめるうちに、また眠くなってきた。


「寝ていれば、ごはんたべなくてすむのでは……?」


 天才的なひらめきに従うように、重くなるまぶたに従って目を閉じた。

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