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気のいいおにいさんがヤンデレになるとは聞いてない!  作者: 夜星 灯
おにいさんがヤンデレになるまで
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おにいさん、様子がちょっとおかしいです

「っ!?」


 ハッと驚きから目が覚めた。まだ心臓がバクバクと音を立てている。夢の中にいた黒い影の言葉が、耳にこびりついて離れない。人間であるうちに帰れ、というのはどういう意味なんだろう。その言葉の意味を考えながら天井を見上げると、そこには見慣れない天井があって。


「知らない天井だ……」


 人生で使うことはないだろうと思っていた言葉を口にして、ひとりでくすりと笑う。そこで気が緩んだのか、他の感覚も脳に状況を伝え始めて。それまでは夢の中であったこととか、見慣れない天井に気を取られていて気がつかなかったけれど。腹部のあたりに何かが巻きついている感覚があって。見下ろすと、たくましい腕が緩やかに私を拘束していた。その腕の持ち主は、私のことを腕の中に閉じ込めながら、眉間に皺を寄せたまま難しい顔で寝息を立てていて。


 状況を理解した途端、ボンっと顔が熱くなる。脳内では、抱きしめられながら寝るなんて初めての経験だと騒ぐ私と、寒さで凍えて死にそうだったから人命救助でしょという酷くドライな私が、ばちばちと火花を散らしている。


(もしかして、つきっきりで看病してくれたのかな)


 目の下に隈があるのを見つけて、申し訳ないきもちになる。このまま寝かしておいてあげるべきだと思って、こそこそと起こさないようにその腕の拘束から抜け出すと、うんと伸びをする。まだ体は動かしにくいけれど、まったく動けないというほどでもない。


 見まわした部屋は教科書で見た書院造のようで。今まで住んでいた茅葺き屋根のお家とは、まったく違う趣がある。足元は畳が敷いてあって、イグサの香りが鼻腔を満たしていく。そういえば昔の日本では畳は高級品扱いだったはずだ。この世界は昔の日本に類似している部分が多くある。それに村で生活しているときは、この世界にも畳があることすら知らなかった。だからおそらく、ここでも高級品なんだろう。


 誰かのお家を無闇に歩き回るのは良くないだろうな、とは思うのだけれど。朱羅を起こすのは申し訳なさすぎるし。うーん、と悩んだ末に、この家の人を探して状況とか場所とかを聞く方向にきもちが傾いた。


(よし、探検しよ)


 そう思って外に続くだろう襖に手をかけたけれど、スライドすれば動くはずの襖は、うんともすんともいわない。それどころか、数秒後にぱちりと拒絶するような小さな音を立てて、手が弾かれた。


「……どこへ行く?」


 その問いかけが聞こえたと思ったら、肩を掴まれて布団に押し倒された。最大限に気を使われているのか、まったく痛くはないけれど、視界がぐるんと変わったことに驚いて言葉が出てこない。私を押し倒した犯人は、当然さっきまで眠っていた朱羅しかいなくて。


「朱羅?」

「質問に答えろ。()()()()()()()()()()()()()


 グルグルと獣が威嚇するような低い声で、朱羅が私の頬を撫でながら再度問いかける。それが怒っているようにも悲しんでいるようにも感じて。それを不思議に思ってどうしたのと聞こうとした口は、違う音を紡いだ。


「人を探すついでに探検しようと外に」


 さっきまで考えていたことが、するりと音になって外に出る。その奇妙な感覚は、まるで朱羅に考えていたことを言わされたのだと私に伝えてくるようで。


「そうか。だが、ここには俺しかいない。式はいるがな。俺の家は前に華に言った通り、辺鄙な場所にある。それゆえ人間は俺の許可なしに入ってはこられない」


 辺鄙な場所にあることと、朱羅の許可なしで入れないことは、イコールにはならないはずだ。謎かけのような答えが返ってきて、どこかすっきりとしない。けれど、朱羅はそれ以上教えてくれるつもりがないのか、そう言ったきり黙っていて。手だけがゆるゆると変わらず頬を撫でている。


「朱羅、一旦退いてくれる?それで、状況確認したいな」

「村の利市と雪が共謀して俺がいない隙を狙って、華を殺されそうになった。それを俺が助けた。それで終いだ。他に聞きたいことは?」


 退いて欲しいという願いは聞き届けられることはなく、朱羅は淡々と言葉を重ねた。朱羅らしくない様子に、ジッと朱羅を観察すると、不安げに朱羅の瞳がゆらゆらと揺れているのに気がついて。


「ごめんね、心配かけちゃった。朱羅のおかげで生きてるよ。ありがとう」


 村で気絶する前とは違って、温かな手のひらの体温を伝えるように、頬を撫で続けている朱羅の手に触れた。その途端、ポロポロと朱羅の目から涙が落ちてきて。


「俺が、悪かったんだ。大切なものは目を離した隙に、いつも無くなるのを忘れていた俺が。だから、仕舞っておくことにした」

「私を仕舞うの?」

「ああ。そうすればお前はいなくならないだろ?」


 そう言った朱羅は、ハイライトの消えた目で、うっそりと私を見つめて笑っていた。


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