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気のいいおにいさんがヤンデレになるとは聞いてない!  作者: 夜星 灯
おにいさんがヤンデレになるまで
33/88

ヨネさんの旅立ち

 そういえば、朱羅の許嫁発言訂正するの忘れたな


 朝起きてすぐ、昨日のことを思い出した感想がこれである。

 前回は利市さんを避けるためという理由があったので、肯定した方が都合が良いという朱羅の言い分に頷いたわけだけれども。


 今回は別にお相手はヨネさんの娘さんだったわけだし、一時的な滞在ということがわかっていたのに、言う必要はあったんだろうかと、ひとり布団の上で首を傾げる。


 もしかしたらこれは、周りの人みんなに信じさせることで、どこからも許嫁が嘘ということがバレないようにしていて。そして一時的な滞在であってもそこからバレる可能性はゼロじゃないから、例外はないとかそういうやつなのでは。


「華ちゃん、ちょっといいかい?」


 ハッとひらめきから結論を出しかけたところで、ヨネさんが居住まいを正して声をかけてくる。お手伝いを頼むにしては、緊張感の漂う雰囲気で。きっと、娘さん夫婦についていくかどうかの結論が出たのだろうと、私も姿勢を正した。


「それで、薄々華ちゃんも察していると思うけど」

「はい」

「……着いていくことにしたよ」

「はい!」


 嬉しくて、思わず声が弾む。これで、もし私が突然この世界からいなくなってしまっても、ヨネさんは独りで生きていかなくてすむ。


「前は迷惑だろうと思って、娘夫婦を見送ったんだけどねえ。まさか、わしのことが心配でたまらないから一緒にいてくれたほうがいいなんて言われるとは」

「愛されてるんですよ!私もヨネさんのことは好きですけど!」

「ハハハ、ありがとうよ」


 柔らかに笑ったヨネさんは、どことなく嬉しそうで。朱羅にも説得してもらった甲斐があったなぁと思う。そういえば、朱羅とは何を話したんだろうという疑問と、朱羅に近づかないほうがいいと言われたことを同時に思い出して。


「ヨネさん、突然朱羅が来て驚きましたよね。すみませんでした」

「…あぁ、そうさね。それに、華ちゃんには近寄らんほうがええって忠告したのに。関わりを続けてたなんて、騙されていたみたいで悲しいねえ」

「う……。それもごめんなさい。でも、どうして朱羅に近づいちゃダメなんですか?あんなに優しいのに」


 ヨネさんと朱羅がした話の内容も気になるけれど。でも、私は関わりを持たないほうがいいと言われたことがショックだったから、そのことが気になって気になって仕方がなかった。前回は言葉が出なくて聞けなかったけれど、いまなら教えてもらえるかもしれない。その期待から問いかけると、ヨネさんは突然笑い出して。


「そりゃ、あんな美丈夫で優しい男なんだ。華ちゃんが好きになっちゃあ大変だと思うたんじゃ。それが人間じゃないならなおさら、いろいろあるだろ?簡単に言えば、老婆心さね」


 それにしても同じところを気にするとは、似たもの同士なんじゃな、なんてさらにからからと笑われて。朱羅もそこが気になったんだ、と思って。


(あれ、私それ朱羅に言ってたっけ……?)


 小さな疑問が胸を過ぎる。けれど、それも私が覚えてないだけで、きっと朱羅に言ったんだろう。そうじゃなければ、ヨネさんとふたりだけでした会話を朱羅が知っているはずないし。そう自分を納得させて。


「おや、華ちゃん。何か気になることでもあったのかい?」

「ううん。大丈夫!」

「そうかい。まあ、このババは時期にいなくなるから、仲良くな」


 その言葉の真の意味を知るのは、ヨネさんたちが村を去っていった後だった。


 *


 ヨネさんが娘さん夫婦と村を去っていった次の日。


 トントントン、と軽い音を立てて扉がノックされて目が覚める。もう起こしてくれるヨネさんもいないのかあと寂しく思ったところで、ごそごそと布団から這い出て、軽く身繕いをして扉を開けた。


「えっ?!」


 予期せぬ尋ね人に思わず声が出る。誰がいるのかなあと、扉を開けた先では、背負い籠を持った朱羅が立っていたのだ。


「…?なんだ、ヨネから聞いてないのか?」


 私の驚いた表情に怪訝な顔をした朱羅が問いかけてくるので、こくこくと頷いて肯定を示す。本当に何も聞いてないので。その様子を見た朱羅は、仕方なさそうに笑って。


「ヨネが村を出る条件として、華の世話を俺が引き受けたんだ。華は、ひとりで生きていけないだろう?」

「そ、れはそうなんだけど」


 この間出た結論に、渋々頷くと朱羅も頷いて。だから俺が一緒に住むことになったと言った。


「ちゃんと事前に聞いただろう?俺と一緒に暮らせるかって」

「聞かれたけど〜〜!」

「往生際が悪いぞ。これからもよろしくな」


 にやっと笑った朱羅がそう言って私の頭を撫でる。これから、朱羅と一緒の暮らしが始まるらしいとどこか落ち着かない気持ちで、笑う朱羅の顔を見上げた。


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