おにいさんに、話した内容は秘密と言われました
ヨネさんの家へと向かった朱羅の背には迷いがない。
そういえば前にヨネさんは私に、朱羅には近づかない方がいいって言ってたけど、突然本人、本鬼?が現れて大丈夫なのかな、と少し心配になる。けれど、まあ。
「任せろって言ってたし、なんとかなるか〜」
自分に言い聞かせるかのように出た声は、少しだけ大きくて。
恥ずかしくなって咄嗟に周囲を見渡したけれど、小春さんが不思議そうに首を傾げるのが見えただけで、他に目撃者はいない。
にこっと愛想笑いを浮かべて小春さんに手を振ると、釈然としないままの様子だったけれど、、私の様子にこれといって変なところがないと判断したのか、ひとりごとだったのね、とでも言いたげな顔で頷いて去って行った。
それすら恥ずかしくなる要因の上乗せにしかならなくて、そそくさと娘さん夫婦のお家へと向かった。
「あらあら、いらっしゃい〜!早速来てくれて嬉しいわ!でも今ちょうど娘がお昼寝はじめたばっかりで、この隙に家事をしたいから手が離せないのよ〜」
「あ、娘ちゃんのお相手は自信なかったんですけど、家事のお手伝いならできるので、私にやらせてください!」
「そう?じゃあお願いしちゃおうかしら」
小声でひそひそと、気持ちよく寝ているお孫さんを起こさないように会話をする。すやすやと寝息を立てて寝ているところは、何度見ても可愛くて自然と頬が緩む。
そういえばタイミングが悪いのか、お孫さんが起きてるところ見たことないな。そう思ったところでその子は、ごそごそと寝返りを打って体勢を変えて。
「…うぅん」
そう言いながら、ぱちっと目が開く。その様子を、2人して話し声どころか呼吸まで止めそうな勢いで、ジッと黙って見つめていると、またまぶたが眠たげにとろんと落ちて。そうしてまたすー、すー、と安らかな寝息が聞こえて来てホッと胸を撫で下ろした。
「なるべく、こっそり、静かにやりましょうね」
その言葉に、こくこくと首を縦に動かした。
*
「これは、こうで大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ」
あまり全部手伝ってもらうのは悪いからと言われて、料理の下準備だけお手伝いすることになった。
指示されるままに、皮を剥いたり、葉っぱを切ったり、お湯を沸かしたりして忙しなく動いていると、だんだんいい匂いがしてきて。
「ふふ、今日はいい蕪を手に入れられたから、蕪づくしなの」
すん、と鳴らした鼻の音に気がついたのか、くすくすと笑われてしまう。出来上がったのは、蕪の餡かけみたいなものと、蕪の葉が混ざっているお粥。素朴だけれど、美味しそうだった。
「お手伝いしてくれてありがとう。良かったら華ちゃんも食べていく?」
そう聞いてくれるのは嬉しいけれど、元々3人分のはずのご飯だ。育ち盛りの子どもがいることを考えると、御相伴にあずかるわけにはいかなくて。
首を横に振って、大丈夫ですとお断りした。
「もしかして遠慮してる?私たちのことなら気にしないで。遠慮しなくていいのよ」
「そういうわけにはいかないですし、ヨネさんが1人寂しいご飯になっちゃうので!」
優しさからか、そう言ってこちらの様子をうかがっていたけれど。ヨネさんのことを持ちだすと娘さんもこれ以上は言えないみたいで、仕方なさそうに微笑む。そういえば朱羅の話し合いは終わったのかなぁ。そう考えると、タイミングよく軒先から朱羅の声がして。
「華、迎えに来たぞ」
「朱羅!話し合いは無事に終わったの?」
とたた、と小走りで駆け寄りながら問いかけると、朱羅はこくりと頷いて。その顔が気難しそうな感じでもないから、話し合いは特に問題なく終わったのだろうと予想する。
「ああ。俺なりに言葉を尽くして納得してもらった。あとはヨネ次第だが、おそらく娘夫婦に着いていくはずだ」
「さっすが朱羅!それでそれで、ヨネさんにはなんて言ったの?」
「……秘密だ」
いじわるな笑みを浮かべた朱羅は、そう言って私の頭を乱すようにぐしゃぐしゃに撫でまわした。やめてよ、と直してもすぐにまた撫でまわされる。そうやってきゃあきゃあとじゃれていると、軒先が騒がしくなってしまったのか、娘さんが顔をのぞかせて。そういえば寝ている子がいるんだったと、申し訳なくなる。
「あらあら!もしかしてその方は華ちゃんの好い人?」
「いいひと……?朱羅はいい人ですけど…?」
「そうなる。華は許嫁なんだ」
口元に手を当てて、少しだけ頬を染めて興奮した様子の娘さんにそう尋ねられて、不思議な言葉選びだなと思いながら頷く。すると朱羅が私の言葉を補足するようなことを言って。
いい人って、もしかして恋人とかそういう…?とひとりで混乱しているうちに、世間話的なものは終わったらしい。
「帰るぞ、華」
「え、あ、お邪魔しました!!」
その言葉とともにゆるく手首を掴まれて。先導するように歩く朱羅が、立ち止まっている私の手を軽く引っ張るので、慌てて娘さんに別れを告げて歩き出した。その横顔はなんとなく、面映そうで。何を言われたんだろうと疑問に思いながら、並んで歩いた。




