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気のいいおにいさんがヤンデレになるとは聞いてない!  作者: 夜星 灯
おにいさんがヤンデレになるまで
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問題は次々と

 そしてその数日後、ついにヨネさんの娘さん夫婦が村へとやって来た。


「母がお世話になっております」


 ほぼほぼお世話されている側の私に、私のお母さんと同じくらいの女性はそう言って微笑んだ。

 5歳になるという彼女の子ども――つまりヨネさんの話で何度か聞いていた孫――は、歩き疲れたのか父親の腕の中ですやすやと寝息を立てていて。


「かわいい〜……」

「ふふふ、ありがとうございます」


 思わずこぼれた言葉に、声を潜ませながら笑う姿は、はっきりいうと失礼だろうけれど、あまりヨネさんに似ているとは思えなくて。本当に血のつながりがあるのだろうか、とまで考えてしまう。


 豪胆で大雑把なところが目立つヨネさんと、お淑やかで上品なこの女性とは結びつかない。それを視線で語っていたらしく、ヨネさんが少しだけ不機嫌な顔をして。


「わしの若い頃は、娘よりも引く手数多じゃったんじゃ!そのなかでも爺さんがいっとう素敵でな。これが一目惚れっちゅうやつかと――――」

「はいはい。まったくもう。お父さんのことになると話が長いんだから。えーと、華ちゃんだったかしら?」

「はい!」

「少しの間よろしくね」


 ヨネさんの家に私が居候をしていることを予め知っていたからか、一緒に過ごすことでヨネさんに一緒に暮らそうという圧力をかけたくなかったのかはわからないけれど。娘さん夫婦は、村の貸し家のうちのひとつに泊まるという。


「娘も喜ぶと思うから、ぜひ気軽に遊びに来てね」


 そうひとこと言って、彼女たちはヨネさんの家から去って行った。挨拶の間というわずかな時間だったのに、旦那さんと娘さんとお孫さん、その3人がいなくなるだけで、なんだか静かになったように感じる。


「……さて、夕餉の支度にでも取り掛かろうかね」


 よっこいしょという掛け声と共に立ち上がったヨネさんの後ろ姿は、私の憶測が入ってしまうせいか少しだけ(わび)しく見えて。


 けれど、その姿を見て私はひとつ、気がついたのだ。


 あのときヨネさんは、私が帰るか、ヨネさんが亡くなるまで面倒を見るのが筋だ、と言った。

 それはつまり、娘さん夫婦の申し出を蹴って私といることを選んだ場合。ヨネさんは家族に看取られることなく死んでしまうか、もしくは、私がいなくなった後にひとり寂しく死んでしまう、ということだ。


「それ、は……」


 嫌だと思った。

 もしこれが私のわがままだとしても、ヨネさんには家族のいる場所で、いつか迎えるときがくる最期を過ごして欲しいと思った。ヨネさんは今だって元気に動いているけれど、この世界においては高齢なのだ。

 今回がきっと最後のチャンスだろう。


「ん?華ちゃん、何か言ったかい?」

「何にも言ってないよ!」


 だから私は、ヨネさんを娘さん夫婦と一緒にこの村から送り出さなければいけないのだ。私が重荷になってしまったなんてことがあったら、絶対に後悔するから。


 *


 次の日のお昼ぐらいの時間。

 本日も天気は晴れ。複雑な胸中を抱えている私とは裏腹に、太陽の光がゆるやかに降り注いでいる。

 朱羅から特に報告は聞いていなかったけれど、どうやら蛟の神饌横取り事件に進展があったらしく。

 突然村長から前と同じくそこそこ豪勢な膳を持たされて。


「お雪ちゃんには、もう頼まないことにしたんだ。これを運ぶ仕事は前にも頼んだだろう?よろしく頼むよ」


 村長は矢継ぎ早に言葉を重ねると、額の汗を拭いながら、そそくさと去って行ったのだ。残されたのは膳を持って呆然とする私だけで。

 とりあえず埒が明かないので、神饌を御供えしようと例の場所に来た。そうしたらそこでは朱羅と蛟が、剣呑な雰囲気で顔を突き合わせて何かを話していて。

 ここからでは、話の内容までは聞こえない。自分でも映画とかの見過ぎとは思うんだけれど、この話を聞いてしまった人間は消す、みたいな内容だったらと思うと、足を踏み出す勇気も出ない。


「こんにちは……?」

「わーい、ボクのご飯だ。朱羅のお気に入りちゃん、ありがと〜」

「お勤めご苦労さん」


 結果として、少し大きめな声で挨拶をしながら近づくことにしたんだけれど。予想に反して、剣呑な雰囲気は声をかけるとパッと霧散して、蛟にはにこにこと上機嫌に迎え入れられた。


「ちょうどいいから朱羅のお気に入りちゃんにも教えてあげるね〜」


 むぐ、ごくん。むぐ、ごくんとほぼ咀嚼せずにご飯を食べ終わった蛟は、満足そうにお腹を短い手でさすりながら、そう口火を切った。


 曰く、私の予想通り雪ちゃんが神饌を横取りして食べていたのだという。ついでにその雪ちゃんには、天邪鬼という低級妖怪がついていて。現在、(そそのか)されるままに色々やらかしているのだそう。


天邪鬼(あまのじゃく)は、最終的に唆した人間に取って代わるんだ。心を入れ替えたって言ってな。そうして、周りの人間に善意のある人間のふりをして、あることないこと吹き込む。心を入れ替えた、に沿うように人間として善とされる行為をいくらか積み重ねてからするから、天邪鬼は信用を得ている。その状態でやると人間はあっという間に対立する。天邪鬼たちは、それが面白いんだとよ」


 天邪鬼について説明をしてくれていた朱羅が顔を歪めて悪趣味だ、と吐き捨てる。それには同意しかないのだけれど、これを聞いてしまったからには、そのままにしておくのもどうかと思う。

 見逃したらあの村に住む人たちが大変な目にあってしまうのだろうし。特に、私に良くしてくれている人たちがそうなるのは見たくない。


「それって、どうにかなったりしない?」

「手段はある、が……」


 朱羅は煮え切らない返事だけを返して、黙ってしまった。蛟はといえば、我関せずと言った様子で。


「あの人間使って解放してくれるなら考えるけど?」


 と言って、ニマニマと笑う。朱羅に会ったら、ヨネさんのことについて相談しようと思っていたのに。

 それよりも重要度の高い問題が出てきてしまって、私は頭を抱えた。


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