美形のおにいさん、蘇芳
聞き間違い、とかかなぁと淡い希望を持って聞き返してみる。半分以上聞き間違いであれ、という気持ちも混ざっているけれど。
「あれ〜?聞こえなかった?吾は人間ちゃんに、朱羅のこと弄んだのかって聞いてるんだけど」
「なんか酷くなってませんか!?それにご存知かと思いますが、朱羅ってすごい美形なんですよ??弄ばれるなら私の方では???!」
「そこは吾も同感」
ものすごい風評被害に、わっと捲し立てると美形の鬼はそれな、という顔で頷く。ならなんで聞いた?と、思わなくもないけれど、この美形がそう思った理由があるのだろうと思う。知らんけど。
「だってさ〜、最近の朱羅ってなんかこう、前より楽しそうなんだ」
「すぐ死にそうな人間がおもしろいだけとかでは?」
「それだけは絶対にないし、朱羅には絶対に言うな」
「アッ、すみません」
スンっと表情を削ぎ落とした美形の迫力に反射的に謝る。おそらく、この美形の鬼は朱羅との付き合いが長いのだろう。それできっと、私の知らない朱羅の過去を知っている。だから、朱羅が傷つきそうだと断じる発言をしてしまったのを見咎めたのだ。
「ふーん?なるほどね。その感じだと朱羅は人間ちゃんに過去の話はしてないんだ」
そう言った美形の鬼は、にんまりと楽しそうな笑みを浮かべた。けれど、目は見定めるように細められていて。綺麗だけれど、どこか恐ろしい。
「……知りたい?朱羅の過去」
「大丈夫です。貴方からは聞かない」
聞かれるまでもない質問に、彼が言い終わったと同時に返答する。もちろん、朱羅の過去を知りたくないといえば嘘になる。けれど、それは朱羅自身の口から聞くべきであって、私が他の人の言葉で聞くべきではないと思うのだ。
「へえ?いいんだ。今なら吾は、なぁんでも話してあげるよ?」
うっとりとするような甘い声音が、誘惑をするように言葉を重ねる。蠱惑的で、耽美な声色は、人間が堕落しやすい生き物だとよく知っていて。誘いに乗った人は悪くないのだと思わせるような、妖しい説得力がある。
「それなら……」
「お?いいねいいね、そうこなくちゃ。それなら、なぁに?人間ちゃん」
「貴方のお名前聞いてもいいですか?」
「えッ?!」
美形の鬼としか形容できない現状を変えたくて名前を聞くと、芸人のトークのひな壇とかで見るようなずっこけるリアクションが返ってきた。ノリがいいタイプなのか、拍子抜けしすぎるとそういうリアクションをしてしまうものなのかわからないけれど、それがおもしろくてくすくす笑う。
「いや、まあいいけどね??朱羅のお気に入りの人間ちゃんに名乗るくらいは。吾は蘇芳。鬼神で朱羅の名付け親みたいなものだよ」
はぁ、とどこか安堵と満足を滲ませた息を吐いて、美形の鬼こと蘇芳さんが名乗るので、私も自己紹介をするべきかと口を開く。
「蘇芳さん、ですね。よろしくお願いします。私は――」
「おいこら、名乗るなって言ったろうが!?」
「っ?!」
ズザザっと二人しかいないこの場に朱羅が駆け込んできたことで、自己紹介は叶わなかったけれど。




