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たすけてください、おにいさん

 朱羅と蛟のところに行ってから、はやいことにもう数日が経った。毎日同じようなことの繰り返しで、ヨネさんのお手伝いをするか、森に食糧を調達しに行くかしかしていないけれど。


 それにヨネさんのお手伝いで村にいる日は、蛟の祭壇に捧げられる神饌についてとか、いつから蛟が祀られているのかとか、色々調べたかったのに、まだまだ村に馴染んでいると判断されていないのか、儀式をしていることすら伏せられているような状況で。


 小春さんが教えてくれなかったら、今もそんなことしているとはわからなかっただろうなと思う。


 そんな毎日を繰り返す間も、朱羅はなにかと私のことを気にかけてくれていて。事前に言ったりしていないのに、何故か森に行く日には人化の術と目眩しの術を使って村にやって来てくれるので、一緒に色々採ってまわっている。


 この数日、一緒に森で採ったなかで1番印象的だったのが、ヘビイチゴだ。朱羅が食べられると言って渡してくれたんだけれど、正直にいうと何を食べているかわからなかった。無味に近くて、草の匂いはするけどぺそぺそですかすかの食感だった。しわくちゃの顔でまずすぎると朱羅に文句を言ったら、私の顔を見て大笑いしながら美味いとは言っていないと返されたので、今度から美味しいかどうかは事前に確認しようと思う。

 とにかく、ヘビイチゴは個人的にめちゃくちゃ美味しくなかったので、二度と食べない。


 森では朱羅に意地悪をされたけれど、反対に川では朱羅のおかげで釣りができるようになった。

 いつも川に来ると朱羅が鬼の姿になって魚を獲ってくれるので、それをすごいなぁというきもちでジッと見ていたのだけれど。

 ある日、朱羅が何かを片手に村へと迎えにやって来て。


「なに持ってるの?」

「釣り竿だ。華にじっと見られるのも落ち着かんからな」


 お前にやる、と前に誰かから貰ったという釣り竿を手渡されて。朱羅が私にと持って来てくれたのは、リールとかルアーとかもない、針と糸と竿だけのシンプルな釣り竿。だけど、ちゃんと自分でも魚が獲れるかもというわくわく感があって。その日は早く川に行こうと、朱羅の手を引いて川へと向かった記憶がある。エサがミミズで叫んだけれど。


 今ではお互いに獲った魚の成果比べを罰ゲーム付きでしてたりもする。相変わらずミミズには触れないので、釣り針には朱羅がつけてくれているし、それに甘えているが。


 ちなみに朱羅が連勝していて、私は一回も勝てていない。罰ゲームはだいたい頬に触られるか、髪を撫でられるかである。前者の頬を選択した場合は、つまむのもありということになっている。


 どちらも過去に触れられたことがあるので、どうやら朱羅はお気に召したらしい。個人的には罰ゲームというほどのことではないので、おとなしく受けている。できれば頬を撫でまわすよりかは、髪を撫でて欲しい。褒められている気がするので。


 そして森に行く日は必ず来てくれているから、当てずっぽうに来てるのかと思ったけれど、そうでもなく。村の中でヨネさんのお手伝いをする日には、姿を見せるどころか、気配すらない。不思議に思って、釣りの合間に朱羅に直接聞いたこともあるのだが。


「なんで森に行く日だけわかるの?」

「さぁな。それより、釣り針に魚がかかってるぞ」


 そう返答を濁されてしまって、よくわからなかった。本当に朱羅にずっと見張られていると言われても信じられるレベルで、森に行く日だけ現れるのだ。なにかしらのからくりがあるのだろうと予想はしているものの、まったく検討がつかない。


 それより困っているのが、利市さんのことだ。

 私が村の中にいるのを見かけると、毎回利市さんが嬉々として話しかけてくるのだけれど。


「あ、雪ちゃんがあっちにいますよ」

「そうなんだ。でもオレは今、華ちゃんと話したいから。……綺麗な髪だね」


 サッと伸ばされた手を避けて、小さくため息をひとつ。最近はいつものように雪ちゃんに押しつけることで回避しようとしても、指し示した雪ちゃんのほうに目線すら向けないのだ。しかも、ことあるごとに触ろうとしてくるし。変に女慣れしてるというか、女なら自分が好きになるだろうと思っているというか。利市さんへの嫌悪が増す一方で。


 こんな男といるより、朱羅の方が比べるのも烏滸がましいくらいにかっこいいし一緒にいて楽しいので。利市さんに費やす時間があるなら朱羅と一緒に釣りでもしたいなぁと思いながら、相槌を返す。


「――でね、君に似合いそうな髪飾りを隣町で見つけたんだけど、どうかな?」

「いらないです。私より雪ちゃんにあげたらどうですか?」

「オレの気を引きたくて照れ隠しかい?」


 気持ち悪すぎてゾワっと鳥肌が立つ。誰か助けてくれないかと思ってサッと周囲を見渡しても、基本的にはみんな見て見ぬふりをしている。よく考えてみると、助けに入ってくれるのは小春さんと三郎さんだけで、他の人は助けてくれたことがないなと思い至る。村長の息子、という立場がそうさせているのだろう。


「じゃあ、オレの家に来なよ!華ちゃんにすごく珍しい物見せてあげるからさ」


 助けを求めるために周囲を見渡すあまり、利市さんへの警戒を怠ってしまったらしい。腕をパシっと掴まれてしまって、そのままグイグイと引っ張られる。というか、家に連れ込むつもりか、この男!?突如訪れた貞操の危機に、足を踏ん張って堪えようとしても、ずるずると引きずられて。足元が砂なのも良くないな、と現実逃避する。どちらかといえば嫌いな人間に、初めてを奪われるのだけは嫌で。


「だれか…!」


 誰か助けて。そう口にした癖に、頭を過ぎったのは誰かという不特定多数じゃなくて、朱羅だった。

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