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おにいさんと川で魚獲り 2

 衝撃的な光景を見た気がする。ゆっくり深呼吸して、もう一度朱羅の手元を見る。そこにはやっぱり首からすっぱり落とされた魚があって。


「元から用意してたとか?」

「いや?水中で殺した」

「水中で……?」

「ああ。一時的に人化の術を解いて、妖力で爪を硬化して切れ味をあげた。こういうとき、便利だからな」


 ほら、と示された先。この魚の頭だろうものが川底をころころ流されていく。それは肉眼で見えなくなるところに流されるよりも前に、岩の下から出てきたカニが掴んで消えていった。


「なんか、グロい」

「ぐろい?」


 生きた状態で突然首を落とされるというのはなんというか、グロい。グロいという言葉しか思いつかなくて、首を傾げた朱羅には申し訳ないが説明できないけれど。


 イメージしていたのが、熊が川でザバっと魚を獲るところだったのも良くないかもしれない。あれはほとんど魚を陸に向かって弾いてるだけだから、首からすっぱりいくこともないので。


「もうちょっとこう、血を見なくて済む方法で魚獲れたりしない?」

「あるにはあるが……人化の術を解かねば無理だ。昨日言いそびれたが、人化の術は文字通り人間に化けることだ。それゆえ、五感はおろか、力も牙も人間と同じくらいまで弱くなる」


 そういえば今日の朱羅は人間の姿をしているな、と思った。昨日は鬼の姿を見せてくれたし、人化の術は疲れるとも言っていたのに。


「解かないの?」

「……逃げないか?」


 ちらりと伺うように顔を見られて、ぱちぱちと目を瞬く。逃げるもなにも、昨日ばっちり見たし、かっこいいって言ったのに?なんならやり返されはしたけど、めっちゃお触りしたのに?


「昨日は、森の中でここより少しだけ暗かったろ。明るいところで見たら、印象が変わるかもしれない。いまさらになって、華に化け物と罵られるのは少し、堪える」

「そんなこと思わないよ?」

「……どうだかな」


 自嘲の笑みを浮かべる朱羅は、自分で言ったくせに、どこか傷ついているような顔をしていて。私の中では朱羅の見た目どうこうで逃げ出す段階は、既に通り過ぎているので、特に気にはならないのだけれど。もし、朱羅の中で折り合いがつかないのだとしたら、好きにすればいいと思う。


「じゃあ鬼の姿になりたくないなら、魚を獲ったときみたいに一時的に戻すとか、部分的に戻すとかは?」

「っ…俺は制御が下手だから。一部だけというのはできない。一時的に戻すと、全部鬼に戻る。先程は水飛沫で隠れただろうが、華の望むような獲り方だとそういうわけにはいかない」


 朱羅に鬼の姿にならないようにする方法を提案すると、やっぱりな、というような諦めの色が瞳を彩って。それは一瞬のうちにまぶたに覆い隠されて、次に瞳が覗いたときにはそんなことは微塵も感じさせなかったけれど。


「悪いが、今日のところはここまでにして帰ろう。ほら、魚は華にやるから」


 微かに諦念の滲んだ元気な声が耳を打つ。朱羅の本当に楽しそうな声を何度か聞いているので、こんなので私が騙されるわけがないのに。


 きっとこれで朱羅の言う通りにしたら、あんな約束を持ちかけてきたくせに、二度と私の前に姿を現すつもりはないんだろうなと、漠然と理解する。


「もーーーーーー!!朱羅!」

「…なんだ?」


 昨日までは躊躇なく手渡しだって、なんならノリノリで頼んでないあーんだってしてくれた朱羅が、岩の上に魚を置いているのを見て我慢ができなくなって名前を呼ぶ。朱羅は岩から顔をあげて私を見てくれるけれど、ちゃんと私を見てくれていないような気がして。


 言いたいことはぐちゃぐちゃになってまとまってないけど、でも何か言わないと朱羅がいなくなってしまう。そう思った私は、やり場のないきもちを抱えたまま、朱羅との距離を詰めて、その目をまっすぐに見上げて。


「いいの?!朱羅がいなくなったら死ぬけど!」


 言葉選びを盛大に間違えた。

 どメンヘラみたいなことを言ってしまった。いまさら後悔している。後から悔やむから後悔とはよく言ったものだ。それはそれとして数秒前の私をぶん殴りたいし、タイムマシンに乗ってどうにかしたい。


「は?」

「いやごめんそう言いたいきもちはよくわかるんだけど、追い打ちはかけないでほしい」


 たぶん朱羅がいなくなったら生存確率が下がるのは事実だけど、いまそういうこと言うタイミングではなかった。こう、鬼の部分も含めて朱羅のこと友だちだと思ってるとか言うべきだった。間違っても別れる恋人に縋るメンヘラみたいなこと言う場面じゃなかった!


「…俺がいないと困るのか?」


 私が頭を抱えているところを困ったように見た朱羅は、聞きながら小さく微笑む。事実は事実なので、頭を抱えながらも首を縦に振って首肯した。


「なら、約束しろ。俺が鬼の姿になっても変わらず接する。逃げない、と」

「約束しなくても変わらないけど。そんなに不安ならまたツノ撫でまわしていい?」

「そうしたら俺はまたお前の頬を摘むぞ」


 鬼の姿で昨日触られまくったことを持ち出すと、ここでようやっと朱羅の雰囲気が緩む。これで一安心だと、朱羅にバレないように息を吐いた。


 昨日も今日も、鬼である朱羅に対して恐怖を抱くようなタイミングはなかったのに、朱羅はなんで私が逃げていくと思ったんだろう。



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