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プロローグ

 桃野(ももの)市、というところが私が生まれ育った街だ。


 都心まで約2時間半の場所にある、ちょっぴり……

 ではなく、そこそこな田舎。そしてその名前のとおり桃の生産が多い。


 この街には、桃を作っている桃園がたくさんある。

 春になると桃の花があちらこちらで咲いているのが、すごく綺麗で。取材の人が来ることもしばしばある。


 それに桃が旬の季節になると、ふわりと風に乗って桃の香りがしてくる日があって。

 桃が苦手な人には大変だろうけど、私は桃が好きなので、この街に産まれてきて良かったと思う。


 そして本当に突然だけれど、桃の実が金色に輝くことはあるのだろうか。


 ちなみに竹は光る、はずである。なぜなら竹取物語では、かぐや姫がインしている竹が光っている描写があったはずなので。


 それにくらべると桃太郎の桃はありえない大きさみたいな絵だったけれど、それって金色に光っていたっけ?


 そもそも、どうしていきなりこんなことを考え始めたのか。その理由は、ただひとつ。


「うそみたいに、ぴかぴか金色に光ってるんだよなあ……」


 この状況を信じられないあまりに、思わず口から言葉がまろびでる。


 あからさまに嘘みたいだと私も思う。

 金色の桃とか言ってる人がいたら私だって疑う。

 その桃はあぶないおくすりでもキメているから見えていると考えた方がよほど信憑性がある。

 ふつうに一ミリも信じられない。


 でも、ほんとうなのだ。


 私こと野々原華(ののはらはな)は、18歳にもなって夢物語のような現象に遭遇してしまった。


 客観視するためにも、もうちょっとだけ詳しく状況を確認してみることにする。


 まずこのあたりは桃園の近く。

 桃園には収穫しやすいように、少しだけ木の背が低めになっている桃の木がたくさん植えられていて。

 その桃園の木に、桃の季節はとうに過ぎているのに、ひとつだけ桃の実ができていた。

 そしてその桃の実が、金色に光っている。


 状況確認おしまい。


「ハッ!もしかしてカラス避けのおもちゃだったり!?」


 一瞬、天才的なひらめきを得たと思ったけれど。

 収穫を終えて木だけしかないなら、カラスを避ける必要って、あるのかなとも思う。

 それに、もしカラス避けだとしても、ひとつだけしかないというのは違和感がある。


 まわりの誰かに聞きたくても、こんなときに限ってそこそこ人が通るはずの道には誰もいなくて。


 これが私の見間違いか、もしくはカラス避けのおもちゃかどうかすら確認できない。


 その木があるのは、いつも桃狩りのときにお世話になる農家さんの所有している桃園であるので、不法侵入するなんて考えただけで恐ろしい。


 靴に付いていた土とかから、木が病気になってしまう可能性だってゼロとは言えないのだから。

 というよりもどこであろうと不法侵入は犯罪なのだけれども。それはさておき。


 今はとりあえず金色の桃があった証拠として、敷地の外からスマホで写真を撮るしかあるまいとカメラを起動した。


「うわ、めっちゃぼやけてる。ピント合わない〜。もうちょっと前か?」


 そうして起動したスマホのカメラは、撮りたい桃だけなぜか綺麗に写してくれない。


 敷地内に無断で立ち入るのもどうかと思うので、ズーム機能を使っているのだけれど。


 ちゃんと桃だとわかるように写そうとするせいでぼやけてるなら、いっそのことズームを諦めて引きの構図で撮るべき?それとも私が少し下がってみたらピントがあったりするのかな。


 少しでもこの状況をうまく伝えられるような写真を撮りたいと考えて、カメラ画面を見つめたまま足だけ動かして、後ろに下がる。


「うぇ…?!」


 けれどなぜか硬いアスファルトが迎えてくれるはずの足は、スカッと空気を蹴って。


 重心はとっくにその足にかけていたせいで、踏ん張ることもできずに身体が後ろに倒れていく。


 視界が桃の葉の緑から、青空へと切り替わる。


(これがほんとのおそらきれい)


 そんなくだらないことを考えて、やってくる痛みに備えて、強く目をつぶった。

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