2.有名人の彼
次の日学校に行くと、友人の朝霧比奈が話しかけてきた。
「おはよう、理乃。どうよ、作品は。順調かね?」
「いや、全然」
ニマニマしながら聞いてくる比奈に対して、淡々とそう返すと、鞄の中身を机にしまい始めた。
「去年は何のテーマにしたんだっけ?」
「春。桜並木だったりとかを描いたんだけど、顧問の白木先生からは酷評だったよ」
「あ~あの人、結構厳しいもんね。しかも美術部員が理乃しか会えないから余計しわ寄せいってんだよ」
「まあでもあの作品は私も納得しないまま完成したからね。酷評されても仕方がないっていうか」
去年は春をテーマにして描いたが、白木先生からはありきたりだとか、個性がないだとか酷評されてしまった。今年こそ頑張ろうと意気込んでいたのに、何も思いつかないときた。だからこそ理乃は焦っていた。
そろそろイメージを固めて下書きでも描き始めなければならない。とくに描き上げるのが遅い理乃は、期日までに余裕をもって仕上げなければならないのだ。
「そういえば、聞いた?弓道部のイケメン、退部するらしいよ」
「弓道部のイケメン?」
「え、知らないの?蒼井千景。うちらと同じ年じゃん。イケメンだから有名なはずなのにな」
蒼井千景。確かに名前は聞いたことはある。学年でもイケメンだと噂をされている。しっかりと姿を見たことはないが、何人もの女の子が彼に告白して玉砕しているというのは知っていた。あまりにも冷たくあしらわれるというので、最近はもっぱら鑑賞用になっていると聞く。それでもアタックする女の子はいるらしいが。
「蒼井君実力があるから、今弓道部のみんなで引き留めてるんだって。もったいないよね、実力あるのにやめるとか」
比奈がそう言うのを聴きながら、昨日のことを思い出す。もしかして、彼が蒼井千景ではなかろうか。
弓道部にあんなイケメンが二人も三人もいるはずがない。
「理乃ってイケメンに興味なかったっけ?」
「いや、そんなことはないけど。でも私、年上が好みなんだよね~」
「でた。理乃の年上好き」
比奈と会話していると時間が経つのが早い。ホームルームが終わり、授業を受ける。
放課後になり、比奈は「たまには、うちの部活も見においでよ!」と言いながら、部活へと向かった。




