とある死神の物語
ここは幻想郷、その人里では人々が幸せな日常を謳歌する場所である、その里の一角に生まれた死神の物語。
ある日、とある一軒家で子供が生まれた。
名は████と名付けられた、幼い女の子である。
だが、その女の子には一つ周りの人間とは違う点があった。
それは左目が青色であることだった。父親と母親は初めて見た瞬間こそびっくりしたが、大事に愛情を持って育てていくことを決めた。しかしこれが幸せな日常がカケラとなって割れたガラスの如く散っていくとは誰も思いもしなかった。
生まれて数年、少女は両親からの愛情を受けすくすくと成長していった。周りの友達もできて時々泥だらけになって帰ってくることもしばしば。元気な女の子になった。
父親「全く、████は元気だな〜」(ナデナデ)
父親が仕事から帰ってきて母親がその日の出来事を話し、父親にそう言われつつ頭を撫でられるのが日常になりつつある。
母親「本当に、誰に似たんでしょうね」
と、2人揃って笑いながら言った。その女の子の両親は夫婦円満そのもの、周りからも『いい夫婦だ』『あんな家庭を持ちたい』と周りから言われる程であった。そんな幸せな家庭だがとあることがキッカケとなり崩れ去ることになる。
次の日、帰ってきた父親の様子がおかしい事に気づいた2人
いつもは帰ってきて開口1番に「ただいま」と言うはずが今回はなかった。開口1番に言ったのは「飯」ただそれだけ
母親はおかしいと思いつつも夕飯の支度をし、父親の前に出した。
父親「なんだこのまずい料理は!!」
そう言いながら父親は料理を蹴り上げた。父親の豹変ぶりに驚きを隠せない████と母親、昨日までの父親とは打って変わって暴力的になっている。すると突然母親に近づき殴り始めた。突然殴られたことによりガードも何もできてない母親、そんな中████は足がすくんで震えて見てることしかできなかった。父親は気が済んだのか馬乗りになって殴っていた手を止めると襖を開けて自室へ入った。すぐに少女が母親に駆け寄る。母親は突然の出来事にも関わらず、顔に深刻な傷を残していて、激しい痛みも伴ってる。だが少女を泣かないように抱きしめた。
母親「怖かったでしょう」
と言いながら少女の頭を撫でる、だがそれでは払拭し切れないほどの恐怖を目の前で見てしまったのが故に撫でられても何とも思わない。。今日だけ特段に疲れてたんだ、そう願うばかりであった。
だが次の日も、また次の日も同じ様なことが続いた。
繰り返される悪夢、それと同時に痩せ細っていく母親、少女は何もできなかった、目の前で繰り返される惨状をただ見ていることしかできなかった。そして日に日に酒に溺れて、暴力が増していく父親。天国から地獄へ、上げて落とすという言葉がピッタリな日常。そんな中少女は育っていった。
とある日、少女は外で遊んで帰ってきたら母親がまとめた荷物をそばに置いて草鞋を履いてる現場に居合わせた。それと同時に母親も少女が帰ってきたことに気づいた。幼い少女にはそれな何をしてるのか分からない、母親はおもむろに頭を撫でた。それも泣きながら。幼い少女にとってはこれが何を意味するのか分かる訳がない。
母親「ちょっと長い買い物に行ってくるね」
そう言って母親は涙を拭い、笑顔で言った。
それっきり母親が長い買い物から帰ってくることはなかった。
母親がいなくなった為、怒りの矛先は母親ではなく少女に向いた。そして父親が仕事から帰ってくる。
父親「全部お前のせいだ!お前が青い目で生まれてきたせいで!」
そう言って父親は少女に暴行する。父親が変わってしまった理由、それは少女の左目が生まれつき青かった事で近所の人たちから悪魔の家だの悪魔の子供だの噂され、距離を置かれる事が多かったのだ。
次の日少女はいつも通り遊びに出ていって皆んなと待ち合わせた、いつもの集合場所には誰もいない。
???「悪魔の子供だ!!やっつけろー!」
辺りに響く声だった。その瞬間、少女が振り向くといつも遊んでる友達に加え、他の子供が少女に向かって石を投げ始めた。
顔の前に手を出して顔を守る。それでも構わず投げ続ける子供達、みんな笑っていた。
少女はその場から逃げ出した、無我夢中でひたすらに走った。
そして家と家の間の路地にたどり着いた。そこには一枚のゴザが捨てられていた。少女は家に帰っても父親による暴力を受け、里に遊びに出ると悪魔の子と罵られる。そうならもう家にも帰らず、この路地にいた方が良いと考えた。
雨の日も風の日も少女は一枚の布きれで過ごしていた。
もうあれから何日経ったであろうか、何日も食べてない幼い少女の体は痩せこけ、まともに水分も取っていない為、体は弱っていてまともに動ける状態ではなかった。
ある雨の日、少女はゴザの上で寝転んでいた。
まともに飲み食いしていない為、栄養失調で動ける状態ではない。そこに非情にも打ち付ける雨。少女は死を覚悟した。
そして目を閉じていたその時、少女は今まで自分に当たっていた雨が当たっていないことに気づいた。
ゆっくり目を開けてみると、そこには唐傘を持ち、緑色の髪で正装を身に纏った女性が1人。
女性が少女に話しかける。
???「お嬢さん、もう大丈夫ですよ」
そう言うと少女を抱っこして歩き始めた。
普段なら警戒心を抱くが何故か今回は抱くことはなく、むしろ何故か安心できた。そしてその人は言う
???「紹介が遅れましたね、私は四季映姫、楽園の最高裁番長。分かりやすく言うなら閻魔ですかね。貴方のお名前は、、?」
少女「、、ない、、」
もちろん嘘だ、だがあんな親によって名付けられた名前が少女は嫌だった。
映姫「ないですか、なら名前を与えないとですね、、、性は私の四季から取るとして、名は、、」
そして閃く様に言う
映姫「永く続く四季の夜の様に美しくあれ、、永く続く四季の夜、、、四季、、永夜、、四季永夜、、なんてどうですか?」
少女(コクリと頷く)
この日から少女は四季永夜と名乗る様になる。
是非曲直庁に着いたらまず体を洗い、綺麗な服を着させてもらった。何を思ったのか映姫は永夜に是非曲直庁の空き部屋を永夜の部屋とし、住処をプレゼントした。この時、少女は6歳である。
そこから永夜は映姫に愛情を沢山貰いながら育った。永夜は映姫に拾われた恩を返す為に部下として働き、20歳になった頃には永夜は過去からは想像ができない程美人となっていたが同時に永夜は無口無表情である事が多くなった。彼女は6歳の頃に映姫の血を飲んでる為、正式に映姫の娘となる。
永夜「四季様、、こちらの書類はどちらに、、?」
映姫「それはあちらにお願いします」
ある時、永夜はふと幼い頃を思い出した。
力任せに母親を殴る父親、身を守ることしかできない母親、それを見ていることしかできない自分。
永夜「、、、力がないと何も守れない、、」
業務の休憩の間に永夜は是非曲直庁の外に出て、しばらく歩いたところにある森の奥にいた。永夜は地面に魔法陣を描いて蝋燭を数本立てた後に火をつけて下がり、呪文を詠唱した。
すると、魔法陣が光り風が起こり悪魔が出てきた。
悪魔「俺様を呼び出したのは貴様か」
永夜「、、そうよ、、」
悪魔「何が欲しい?金か?富か?男か?」
永夜「、、、力が欲しい、、相手が誰でも戦えるぐらいの力が、、、」
永夜の手に自然と力が入る
悪魔「いいだろう、力を与える代わりに貴様には身も心も闇に染まり、堕ちた死神になってもらう。」
永夜(頷く)
悪魔「ただ俺も非情じゃない、慈悲として死神界における上層の立場にさせてやろう、それでいいか?」
永夜「、、大切な人を守れるなら何でも良い、、」
悪魔「契約成立だ、望み通り力をくれてやる」
永夜はその時自分の体の中に何かが大量に流れ込んでくるのを感じたが、それと同時に気を失った。
永夜が目覚めるとそこは是非曲直庁の自室の中、映姫が呼んだる声が聞こえ、すぐに向かう。
映姫「永夜これをおねが、、、、」
こっちを見た瞬間に映姫の動作が止まる
永夜「、、どうされました、、?」
映姫「どうしたんですか、、その見た目は、、」
永夜はそばにあった三面鏡で自分を見る。そこには銀髪で右目が赤くなり、着ている衣装が黒く染まっている。
明らかに見た目が変わっていた。永夜は主人である映姫に理由を話す。
永夜「、、力がないと大切な存在も守れない、、だから私は、、悪魔に身を売りました、、」
映姫「闇に、、堕ちたんですか、、?」
永夜「、、そうなります、、」
映姫「貴方からは闇の妖気が感じ取れます、、、本当なのですね、、体の組織も変わってしまってる、、」
この時、永夜は自分の手を見て初めて自分の体の変化に気づいた。手は黒い粒子が集まって肌色になって構成していて、それが体全体に構成されている。更に黒い粒子は一粒一粒が生きてるかの様に自由に動くが、体を構成している時は動かない。これは永夜が堕ちた時点で人間としての永夜の実体を失った事を意味していた。
永夜「、、、四季様、、がっかりさせてしまったかもしれません、、、ですが、、私が人間だったとしたら、、四季様も守れるのに力がなくて守れない、、そうなってしまうのが嫌なんです、、」
永夜がそう言った後に映姫は少し黙り込んだ。
映姫「外見と存在が変わっても、中身は永夜なのですよね、、?」
永夜「はい、、もちろんです、、」
映姫「、、なら、永夜は永夜です、永夜が自分の意思で堕ちたのなら、私は何も言いません、今までの永夜ではないのは少し悲しいですが、、」
永夜「、、それでも以前の通り愛して頂けますか、、?」
映姫「ええ、もちろんですよ、どれだけ存在と外見が変わろうと中身が永夜なら永夜ですから、、」
永夜「、、ありがとうございます四季様、、改めて、、忠誠を誓わせて頂きます、、、」
映姫「ええ、お願いしますよ、、堕ちた死神こと、、永夜、、」
永夜「、、はい、、四季様、、」
こうして堕ちた死神であり、閻魔の部下である四季永夜が誕生した。彼女の存在は後に幻想郷中に広まる事になる。
読んで頂きありがとう御座いました。
短編小説ですが目を通して見て頂いて感謝です。