「よし、ちみっこ。準備はいいか」「じゅんびなんてうちにはいらない」
「諸君、今日は外で"かくれんぼ"でもして隠密力を高めようではないか」
「外見てから言って下さい」
遊戯部部室。ある日の放課後に、私は部室棟二階にある遊戯部という部活の部室でひとりジェンガで遊んでいる時、部長であるとも先輩からバカの提案をされた。
するとめっちゃ不満そうな顔でこっちを見てきた。
なんでやねん。外めっちゃ雨やぞ。梅雨だっちゅーの♡
「みかん。よく聞け」
「え……。はい」
「子供は風の子、大人は火の子。だ」
「意味は分かりませんが、私は風の子に例えられる程子供だとは思えません」
その言葉って冬に使う場合が多くない?
しかも冬はコタツでみかん(私のことではない)と雪見だいふくで優勝&惰眠でキマリって共通理解でしょう。
古事記にも載ってた。
「というか、私今ジェンガやってるんですよ。行くならとも先輩お一人でどうぞ」
「…………寂しい奴だな。なんだひとりジェンガって」
「だってしょうがないじゃないですか!!アレ見てくださいよ!」
私が指差す方向には二人の人物がいた。
私と同じ学年で、この遊戯部のレアキャラである鴨志田りんかちゃん。
もう一人は学年一つ上の高校二年生、小宮山黒鳥先輩。
二人は何というか……。有体に言えば仲が悪い。
「おいちみっこ。今なら許してやる。俺がお前を傷つけなくてもいいように、今すぐ渡せ」
「こんなにおいしいのに、手放すわけがない」
「いい度胸だ。よっぽど俺のこめかみグリグリが怖くないらしい」
「そもそも、つかまらない」
どったんばったん。おおさわぎ。うー、わお!
顔を突き合せればいつもこうなんです。
基本的には鳥先輩のお菓子を奪うりんかちゃんが悪いと私は思う。でも可愛いからいいの、見逃します。
「チッ!ともか、手伝え!」
「馬鹿者。小娘一人に手間取るなど、それでも[時計館]メンバーか!」
[時計館]メンバーうんぬん言うならりんかちゃんもそうだと思いますよ。
あとここはそんな中二病的名称ではなく遊戯部だと思います。
「ふむ、確かに。……しかし実力は拮抗しているのか……。勝負のつけようがないな」
「冗談じゃねえ!俺の貴重なカロリーだぞあのチョコボーは!」
「(モッキュモッキュ)こんなに美味しいものをもってくる、デカノッポが悪い」
「食うな!」
身体の大きい鳥先輩に比べて、というか一般的な女子高生と比べて結構背の低いりんかちゃんだが、その身のこなしはとんでもない。
2ステップで大ジャンプ、教室のドアの上の小さい窓に手をかけてそのまま出て行ったりする。
もうほとんどアスリートだよねそれ。
体育の時のドッチボールでも最小限の動きで全てを回避していた気がする。
「よし、では闘争だ!」
とも先輩がいきなり手を叩いて大声で叫んだ。
大きな男が小さい女の子を襲っているような、一歩間違えば事案の状況で二人はピタリと静止した。
「互いに身体能力、特に純粋な身体を動かして動き回ることについては、同じくらいの実力のようだな」
「マジ納得いかねえ」
「うちはけっこう、うごけます」
「うむ、二人とも自信があるようだな。では、その方向の戦いだ。競技は…………これだ!」
ドゥルルルルル。
とも先輩のスマホからドラムロールが流れ出した。
それと共に画面の中のルーレットが回り出す。
「これだ!」のセリフと共にバーン!とSEが流れ、止まった箇所を見ると……。
「1on1……?」
「イエス!では体育館に向かうとしよう」
え、バスケ部とかバレー部とか練習してるんじゃ……。
★
「オーケー。分かった、分かったから。絶対にバラすなよ」
体育館に移動し、案の定バスケットコートはバスケ部が使用していた。
そこで、とも先輩がバスケ部のボウズ先輩になにかしらの耳打ちをしたところ何故か十五分だけ譲ってくれることになった。
この人いろんな人の弱み握ってるのかなぁ……。
「バスケ部!全員休憩だ!コートには絶対入るなよ!邪魔すればバスケ部に未来はないと思え!」
そんなヤバイ秘密握ってんの!?
「ふふふ。みかん、この学校の秘密を知るのはまだ早い。死にたくなければ知らぬ方が良い」
何でこんな人のいる部活入っちゃったんだろう……。
「よし、ちみっこ。準備はいいか」
「じゅんびなんてうちにはいらない」
「後で言い訳したって聞きやしないぜ」
「デカノッポこそ」
こっちはこっちでバチバチだぁ!
「ではルールの説明を行う。……みかん!」
「あいあいさー!」
ってことで説明タイムです。
バスケットボールの1on1。きっとボウリングのピンが有名な屋内アミューズメント施設でやったことがある人が多いのではないでしょうか。
ローカルルールも含めることができ、人数が少ないながら出来るスポーツとしては中々に奥が深いです。
時間は十分。フルで十五分動くのはキツいと思うので。
まず、ディフェンス側がボールを持ちスタートと共に対面にいるオフェンスへボールを投げ渡します。
次に、オフェンスはディフェンスの守備をかいくぐりながらゴールリングにボールを通せば一ポイント。
ローカルルールとして、ポイントが決まってもディフェンスが成功しても、オフェンスとディフェンスは入れ替わります。
時間いっぱいまで交代交代でボールをゴールリングに入れ続け、終わりのブザーと同時にストップ。点数がより多かった方の勝利となります。
また、ゴールが決まらずバックボードに弾かれてオフェンス側が再キャッチした場合は交代とならず続行となります。
他の細かいルールに関しては基本的にバスケットボール本来のルールに準拠します。
「説明は以上です」
パチパチパチパチ。
お、おおおう!
気づいたらめっちゃ人が集まって来ていた。
バスケ部だけでなくバレー部とかバドミントン部もいる!
「あの鴨志田とあの小宮山が1on1やるらしいぜ」
「え、あの小さな女の子と人相の悪い男が?」
「バスケで身長の差は実力以上にキビシイものがあるぜ……」
「鴨志田と……カラス!?あいつらがやり合うのか!」
「どっちもがんばれー!」
うわぁ、結構なイベントになってきた。
そんな喧騒を鎮める様にキーン!とマイクのハウリング音が響いた。うるっさ!
「諸君!両者を見よ!」
そこに居たのは長い髪をたなびかせ、マイクを握る我らが部長だった。とも先輩……、恥ずいっす。
「片方は身長も高く、人相も悪い悪人面の男、小宮山黒鳥!」
「「「うぉおおおお……」」」
「片方は身長は低いがプリティな女の子、鴨志田りんかだ!」
「「「うぉおおおお……!」」」
「諸君らはどちらを応援する!」
「りんかちゃんに決まってる!」
「カラスくん、負けないでー!」
三者三様の反応。
とも先輩が酷評しているのになぜか人気のある鳥先輩。やっぱり顔だけ見たらイケメンだもんなぁ……。
「ちみっこ、悪いがこの勝負は俺が貰った」
「バスケは、得意」
二人とも会場の熱気に毒されてカッコいい事言い始めた!
「実況はバスケ部部長、丸山が務めよう」
実況までついた!
「開始のゴングは我が忠実なる僕である粟田みかんが行う。二人とも、用意はいいか?」
「いいぜ」
「うん」
え、なに、開始のゴング?そんなのないよ?
ゆ、ユーチューブで検索……!
「勝者には名誉とチョコボーが与えられる!命を燃やして戦い尽くすと良い!先攻・りんか!」
ボールがりんかちゃんの手に渡り、ゴール前に鳥先輩が陣取る。
よ、よし、音量マックスにして……。ゴングは、鳴らせます!すたっぷさいぼーは、あります!
「レディ、ファイッ!」
<カァアアン!>
なんか格闘技じゃない?これ。
それはさておき。
さてさて、りんかちゃんはダムダムとボールをその場で跳ねさせている。
それを鳥先輩は奪いにはいかないようだ。
「鴨志田は動かないか。確かにあの身長差を超えるのは難しいからな」
「しかし小柄な分、スピードは間違いなくカラスよりは上だ」
うん、そうだよね。
鳥先輩からすれば一度ボールを奪っちゃえさえすれば、自分の攻撃の時に身長を活かしてゴールを決めちゃえばいいんだから。後は守るだけ。その守るための時間をこの膠着状態で消費し続ければより盤石になる。そう考えてるんじゃないでしょうか。
「ちっこい方ー!抜いちまえー!」
「小宮山くーん!決めちゃってー!」
野太い応援と黄色い歓声。
チラリととも先輩を見ると、ちゃっかりと満足そうに「フフン」と実況席(いつのまに?)に座っていた。
先輩ノリノリっすね。
「試合は四十秒を過ぎたが依然として動きはない!どうした鴨志田どうした小宮山ぁ!」
「ふ、丸山とあろうものが見抜けないというのか。残念だな」
「む、飯田。何がいいたい?」
「見ていればわかる」
マイクに拾われた声が体育館に響き渡る。
ダムダムとボールが体育館の床を叩く音はずーっと変わらない。
この状況に飽き飽きしてきたのか、周りからも不満の声が上がっています。
うるさい!りんかちゃんを拝めないでしょうが!
「……いくよ」
「……!」
小さな声と共についにりんかちゃんが仕掛けた!
右手でのドリブルで鳥先輩は翻弄される。右手左手と交互に入れ替えながらの細やかなステップで、鳥先輩はディフェンスが困難になっている!
りんかちゃんすっご!
ドリブルが早くなったと思ったら……。ま、股抜きーっ?
そのまま背後に回り込んでシュート。
ぱすっと軽い音を立ててポイントが入った。
超上手いじゃん……。
そんなスーパープレイに会場が沸く。こ、これは沸いても仕方ない!
あと鳥先輩の顔がすごい。口開いちゃってる。
「ききききき決まったー!!どうしたんだ小宮山!体育でやった時はそんなディフェンス甘くなかっただろう!」
「丸山、私には今の流れがどういったものなのか……」
「交代の間に説明しよう。あれはチェンジオブペースで小宮山のディフェンスを崩しにかかり、股抜きで直ぐに背後に振り向くことが出来ない状況からロールターンの応用で小宮山を軸にし旋回、からのシュートだ!分かったか!?」
「専門用語ばっかりだな!」
「バスケってのはそんなもんだ!」
そんなもんなんだ……。
にしてもりんかちゃんのあの動き方、バスケ部だって言われないと信用できないんだけど……。
専門用語はともかく、体格差を利用した股抜きっていうのもなかなか凄いことを思いつくなぁ。
「スラムダンクを読めば、よゆう」
「スラムダンクはいいよなぁ!」
「丸山うっさい」
スラムダンクは別に教本じゃない。
まあでも、人生の教本みたいなモノだよね。世界が終わるまでは。
「ちみっこにこんな才能があるとはな」
「身長だけのびてもうちにはかてない」
そんな応酬と共にディフェンスとオフェンスの交代。
攻めるのは鳥先輩。りんかちゃんがどう対抗するのかがポイントです。
「……ふっ。小細工は、いらねえよな」
「おおーっと!?スタート地点から動かず、そのままシュートかぁー!?」
そ、そりゃそうだよね……!
腕を上にあげたらりんかちゃんは飛んでも跳ねても届かない!もし外れてもボードに跳ね返ったボールをりんかちゃんの届かない上空でキャッチできるんだもん!
鳥先輩がここで決めればあのスーパープレイも帳消しだ!
バスッ!
「「「うおおおおおお!!」」」
りんかちゃんの時よりも重い音でゴールが決まった。
これにはさすがのりんかちゃんも冷汗が。
「これは分からなくなってきた!」
「ああ。りんかの手の内は既にバレた。だがりんかにはカラスのシュートを止める手立てはない」
冷静な解説助かります。
うーんこの勝負、流石に鳥先輩が有利だよね。やっぱり技術力がすごくても身長差ってのは凄く重要なファクターだし。
試合時間は残り六分弱。
りんかちゃんは腰を落としてその場でドリブルを続ける。
「なんで鳥先輩は取りに行かないんだろう」
「そこの茶髪のふわふわちゃんの疑問は俺も同感だ」
それ私のこと?
「それについては私が答えよう」
「知っているのか、飯田」
「りんかの足をよく見てみろ」
足?うーん細くて綺麗。きちんと見るとかなり引き締まってる。美味し…………カッコイイ。
「バカモノ。踵だ、かかと」
かかとですか。
うーん、よく見れば……ちょっとだけ、浮いてる?
「そうだ。あればバスケットボールという常に動き回るようなスポーツには取り入れることが少ないスタンスだな。爪先だけの状態がキープ出来て自分から行動する、となれば受け身の時よりも駆け出しの速度は段違いに早くなる。テニスで使われることが多い"技術"と云うべきだろうか」
へぇー。そうだったんだー。
そんな分かり易い解説にみんなも感心している。
たしかにテニスでレシーブ側は踵が浮いてた……………気がしなくもない。分からない、そこまで見ることあんまりないし。
「そして、ここに体格差というアドバンテージが生まれる」
「アドバンテージだと?バスケ部の部長としてハッキリさせておきたい。バスケにおいて身長は最重要項目だ。技術に並ぶと言ってもいい」
「それはあくまで試合の話だろう。今ここで行われているのは、仲間同士の1on1だ。状況が違う」
なんだか難しい話になってきた。何が言いたいんだろう、とも先輩は。
「つまりだな、ヤツラは仲良しだってことだ」
「は?」
解説が進む中勝負も進む。
今回も鳥先輩は手を出せずにりんかちゃんに翻弄され……あ!
「ふ、みかんは気づいたようだな。そうだ、カラスは手を出さなかったわけではなく、出せなかった」
「下手に手を出せばスピードを活かされて抜かれる可能性が高いからか!」
ものすっごいボール捌きで焦らせ、焦らして、シュート!
りんかちゃんはまたしてもゴールを決めた。
歓声が溢れる中、鳥先輩は本気で悔しい表情をしていた。
「鴨志田りんか、凄い子だ……。二回連続で、レイアップでもないのにシュートを決めるとは。女子バスケ部があれば彼女はエースだろうな」
「どうだろうな」
「なんだ、飯田も鴨志田のことは認めているんじゃないのか?」
「無論だ。だがな、何度も言うが状況が違う」
バシュッ!
「また決まったぞ!」
「スリーポイントをこんな緊張感で二回も決めるか!?」
緊張感を出してるのはギャラリーの皆さんだと思いますよ。
そもそも勝った方の商品はチョコボーだし。
「やはりどれだけ養護したところで身長の差は埋まらん。それに加えてカラスのあの抜群のコントロール」
「確かに多少筋肉は足りんように見えるが、素晴らしいコントロールだ。是非我が部に来て欲しい」
「バカモノ。アレはうちのものだ」
「「「ひゅ~」」」
あ、顔赤くなった。ああしてれば可愛いのに。
そこからはもう二点互いにポイントを奪い合った。
変わらずにスピード&ファイアのりんかちゃんとコントロールの鬼、鳥先輩。
残り時間は三十秒にまで短くなっていた。
互いに四点を持っているが、今度の攻撃はりんかちゃん。
ギリギリまで時間を稼ぎ、シュートが決まれば勝者はりんかちゃんに確定するだろう。
時間も無くなって応援の声も最初よりも大きくなっている。
「ここまで上手いとは思わなかったぜ」
「はぁ、はぁ………。の、ノッポ、こそ……!」
左右に動きながら隙を伺うようにドリブルを行っているが、息は圧倒的にりんかちゃんが乱れている。
一方鳥せんぱいは全然息が切れていない。そりゃそうだ、運動量が違うんだから。
そして、汗で滑ったのか仕掛けたタイミングがズレたのか、状況に変化が現れた。
「……あっ!」
「っしゃ!」
跳ねた最高地点を鳥先輩がかっさらっていった。
ディフェンス、成功だ。
「「「わぁあああああ!」」」
怪気炎!
こ、こわ!うるさ!なんでこんな盛り上がってんの!?
「キミ、一年生でしょ。部活一緒なのに知らないの?小宮山くん、チョー人気なんだよ!?」
なんでこの先輩私の思考読めるの!?
あれなのかな、学年が進むと人のモノローグを読める能力が手に入るのかな。今から楽しみだ。
「状況は一変んんん!ナイス小宮山!それでこそ俺たちの小宮山だぁ!ついでに白鳥ちゃんは俺にくれぇ!」
「ぶっ殺すぞてめぇ!」
「ひい!!?」
雰囲気に飲まれて要らないことを言った丸山さんがガチギレを喰らってた。
シスコンにそういうのだめですよ先輩。
さて残りは十秒もない。
鳥先輩なら三秒だってあれば十分だろう。
左手はそえるだけ。
勝利への軌跡を描いてゴールリングにボールが飛び込む…………かと思われたが、バチンッ!と後ろのボードに弾かれた!
「ち、ちみっこ!」
「させない」
私は見ていた。
りんかちゃんでは、先輩がシュートのモーションに入った時はブロックが出来ない。だから……。
「パンチングで軌道をずらした!?」
先輩の右手から放たれる瞬間、ゴールリングしか見ていなかった目にはりんかちゃんからボールにパンチングを繰り出される瞬間は捉えられなかった。
ゴールへ向かうはずだったボールは角度がズレてバックボードに激突した、ということだよね。
そのボールを取りに行こうとしたとき、ブザーがビーーーーッ!と鳴り響いた。
この勝負、引き分けです!
…………………ブザーあったんかい。
★
「勝者無し。また、敗者も無し。よって、互いの実力は定まらなかったものとする」
「「なっとくいかない」」
「うるさい!私も困ってる!」
バスケ部顧問の先生が怒鳴り込んできたのでとも先輩がバスケ部に全て責任を押し付けて帰ってきた。
秘密が握られている丸山先輩が可哀そうでした。
やっぱこの人やべーですわ。
このあと、結局商品のチョコボーは五本ずつ配られ、ホクホク顔の鳥先輩と無表情でほおばるりんかちゃんと併せて四人でジェンガをした。
やっぱりジェンガは複数人いないとね!
いがみ合ってばっかりの二人だけど、どっちもすっごい二人だってことが分かりました。
とも先輩もノッてくると凄い。
今日も遊戯部は平和です。




