5.「当たったらあげる」「任せておいて!」
「夢はでっかく」
「でもこれはやりすぎだと思うの」
遊戯部部室。ある日の放課後に、私は部室棟二階にある遊戯部という部活の部室でスクラッチくじをゴリゴリと削っていた。
部室においてあるちょっと高めの、バーとかに置いてあるような机でちっちゃい女の子と向かい合って削っているのだ。
私はギリギリ胸の高さで見下ろせるくらいの高さだけど、この子からすると完全に見えなくなるので椅子の上に乗って伸長をかさ増ししている。かわいいねえ。
とても高校生とは思えないくらいお人形さんなこの子の名前は鴨志田りんかちゃん。
この子はめっちゃレアキャラ!私とはクラスの違う子だからそもそもあんまり会わないけど、遊戯部にもたまにしか顔を出さない。
入学してから二か月くらい経つけどまだ今回で五回目くらいだ。エンカウント率がはぐれメタルくらい。
「経験値はあんまりおいしくないよ」
らしいです。
「というかこのくじなんでちゃぶ台で削らないの?移動しようよ」
「高みから人を眺める。これ愉悦」
私とりんかちゃんのふたりしかいないけどね。
今週は月曜から一人ずつ違う人と遊んだなぁ。誰かの策略としか思えません。
「…………(ゴリゴリゴリ)」ぺいっ。
無言で削っては横(床)にポイ捨てしてる……。
「そもそもなんでこんなに大量にスクラッチくじを?」
「うちのママが」
「なるほどねぇ」
情報量が極端に少ない。
察するにりんかママが大量に仕入れてきたけど、処理しきれなくてりんかちゃんに預けたってことなんだろうね。多分恐らくきっと知らないけど。
「当たったら何食べたい?」
「え、食べ物おんりー?」
うーん、食べるなら渋谷で体に悪そうな色のオムライスとか食べたいかなぁ……。
あれってなんで青とかピンクに着色してるの?ばえ?いんすたばえ?私もばえたい!
「ちいさい」
「それをりんかちゃんに言わるとは思わなかったよ」
あの極彩色オムライスめっちゃ高いんだよ?味は変わらないどころか色のせいで食欲消えるのに。
じゃありんかちゃんは何食べる気なのさ。
「五メートルくらいの極大プリン」
「でかい!」
「中にはいろんな味のするジェルを入れて味変」
「うまい!」
「適度な弾力で食べ応えばつぐん」
「すご……いけどそれパクリじゃない」
暗殺〇室の。
あれ多分五メートル以上はあったけど、特注で作らせるにしても食べきれないよね。物理的に。
でも想像したら何だか嬉しい気持ちになります。ぬるふふふふ。
「中にバクダン仕込んで食べ進めたデカカラスが爆発する」
まんまじゃん。
そういえば、今更ですけど。
今日はゲームしません。おしゃべりだけです、ハイ。
りんかちゃんって遊戯部員なのにあんまり遊んでくれないのよね。
「りんかちゃんって、なんで鳥せんぱいのことそんなに毛嫌いしてるの?」
「あほだから」
アホなのは認めるけどさ。それで嫌いになるのはかわいそうな気がしますよ。
「この前もプリン食べてたら怒られた」
それって鳥せんぱいが買ってきたプリンでは……?
「チョコボー奪うとキレる」
そりゃそうでしょうよ。
「最近のキレる若者。おそろしい」
私には段々と恐ろしいのがりんかちゃんな気がしてきたよ。
「だからこのくじ当ててデカカラスから奪わないようにする」
奪う発想捨てませんか?
「ちなみにこれどれくらいの額が出るの?」
そう質問するとりんかちゃんはスマホをぽちぽちして画面を見せてくる。
なになに?
最高額は一千万、末賞として三百円だった。三百円のスクラッチにしては最高額低くない?そんなことない?
「一千万、これで等身大グミほしい」
「二週間でダメになるよ……」
最悪一週間で異臭騒ぎになるかもしれない。等身大とか絶対糖尿病になる。こわい。
「夢はでっかく」
「夢の前に最悪死ぬって」
この子はだいぶおかしいのかもしれない。
そろそろ二人して三分の一くらい削った頃。(当たった二枚はどっちも三百円でした。最低保証!)
「疲れた」
そう言ってぴょんと足場から離れてちゃぶ台へ移動してみかんを剥き始めました。
みかんを剥くって言っても私のことじゃないですよ?
もっきゅもっきゅと口を動かすりんかちゃんは可愛いですが、ちょっと奔放過ぎませんか。
「あのりんかちゃん?くじは……」
「みかんさんがやっといて」
ええー……。飽きちゃったの?人任せは
「当たったらあげる」
「任せておいて!」
友達の頼みだもの。やらない訳にはいかないわ!
けど流石に指が痛くなってきた。削りの相方の十円玉さん(平等院鳳凰堂がキュート)も心なしか疲れが見える。
「全部で何枚あるの?」
「ひゃく……?」
百枚は多いよ!それ三万円くらいじゃない!
「五十」
総数百五十枚。微増どころじゃなかった。百枚で終わるかと思ったら、りんかちゃんのカバンから追加で五十枚の増援がひしめくようにざらざら出てきた。
くじって五十枚でそもそも十分だよね。十枚でもいいよね。
「りんかちゃんママが買ったのにいいの?」
「存在忘れてジャンヴォ買ってた」
削りのいらないやつ!
「聞いたらめんどいからあげるって」
三万五千円のくじを高校生にあげるのは良くないと思いますよお母さま。
それにしてもそのみかん美味しそうだね。あとで私にもちょうだいね。
私が無心になりゴリゴリしてるとりんかちゃんはGBを取り出してピコピコやり始めた。
え、それいまだにやってる人いるんだ……。
ピコピコパク。ピコピコパク。ピコパク。ピコパク。パクパク。
ゲームより食に偏って行く、だと……?
りんかちゃんってなんでそんなに食べて一切太らないんだろ……。
「ブラックホール内蔵型」
地球が滅ぶ。
でも本当にブラックホールが内臓に内蔵されてないと、あの食欲と比例しない細さは理由が見つからない。
笑って?今のは笑いどころだよ?
人間にはブラックホールが内臓に内蔵されてないぞう?
笑えって!
その細さを体験すべく私はアマゾンの奥地(ちゃぶ台)へと足を運んだ。
「失礼します」
「……ん?」
ひょいっ。
わきの下辺りを掴んで持ち上げる。なんと軽い!
ま、まあ流石に三十キロ以上はあると思うので持ち上げるのは三秒も保てませんがね。
腕の限界から解き放たれたりんかちゃんを床に着地させると、妙な達成感と共に敗北感が私を襲う。
アニメだったら暗転してスポットライトが差してる。
「軽すぎる……」
「人によっては悪口」
痛い。項垂れた私のつむじぐりぐりしないで痛いです!
「大きくなるため食べるの」
その食べた分が慎重にも贅肉にも表れないのが不思議ですよね。
私だったらむしろ憧れる体質だよ?というか女子全般憧れだと思う。
「危なかったね。これで身長も高かったら四方八方からラチェットハンドルでタコ殴りだったよ」
「なんでそんなマイナーな工具で……」
マイナーだと購入者から足がつきやすいとか、そういう考え方かな?
あの工具、極小のパイルバンカーみたいでかっこよくない?
「ふつうはパイルバンカーをしらない」
私は普通じゃないから……(中二病)。ってあれ!?ともせんぱいが移ってる……!?
つまり私がともせんぱいになることだ!ってことですか?違うです?違うです。
実際パイルバンカーって実際には本当に使えない武器だと思う。剣でいいじゃない。斬ったら死ぬし。
つまりロマン!ロマンは大事です。昔のアニメでもロマンティックあげてたらしい。意味が違う?そうですか……。
そんなくだらないことを考えてる間にもゲームに戻ってしまった。ていうかやるとしてもDSじゃない?
まあいいけど。あたしゃ削り作業に戻りますよっと。
立って作業するのも疲れたので、りんかちゃんのいるちゃぶ台へとわっせわっせと運んできた。
そしてゴリゴリ。
「なかなか当たらないよねー」
「くじは当たらないもの」
そんなこと言ったらもう"くじ"という全ての根底が覆るよね。天変地異ですよそりゃあ。新世界の紙にでもなれますよ。神(紙)だけに。
って言ってたらあれ?
「あらま、一万円出ちゃいましたよ」
「おめでと」
ありがと☆
「え、もらうよこれ」
「ん」
いいんかい。
「いやいや良くないよ。一万円って大きいし。三百円ならまだしも一万円は良くないよ!」
「じゃあママに渡しておく。きっとご飯食べてきていいって戻される」
うわ、なんだろう。りんかちゃんママのこと全く知らないけど予想がつく。
三万円分買ってそのままメンドイからって娘に渡すママさんだもんね……。鴨志田家はひょっとしてお金持ち?
ななせんぱいとキャラ被りしてるけど大丈夫かしら。あっちは金髪縦ロールだけど。
いわゆる、無意識系お金持ちハーレム無双なろう主人公?違うか。違うな。
りんかちゃんはチート手に入れても、最大限活かして片田舎を征服した後そこで一生を引きこもって生きてそう。
私なら魔王に君臨して勇者と世界をはんぶんこする。その場合勇者が条件に乗っちゃってる。
このあと結局りんかちゃんと一緒に最後まで削って(というか最後の一枚だけかっさらっていった)、結果は三百円のやつと、一万円のやつ一枚、千円のやつ七枚の結果に終わりました
次の日はお休みだったので、りんかちゃんのおごりでパンケーキ食べに行きました。
私はパンケーキとホットケーキの違いが分からない派でしたが、とにかくあまあまのうまうまでしたよ。
鴨志田りんかちゃんはめっちゃ食べるのにちっちゃくてかわいい。
どうやら実家はお金持ち?鳥せんぱいと会う度に争っています。おもにりんかちゃんが鳥せんぱいのチョコボーを奪って食べてるからなんだけどね。
今日も遊戯部は平和です。