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4.「入園は有料ですけどね」「夢がねえな」

「紙って意外と美味いのかもしれないな」

「せんぱいの頭、その名の通り鳥レベルまで低下しました?」

遊戯部部室。ある日の放課後に、私は部室棟二階にある遊戯部(ゆうぎぶ)という部活の部室で一人七並べをしていると、正気を疑うようなびっくり発言が飛び出してきた。


そんなヤバスギ発言の主は小宮山黒鳥(こみやまからす)先輩。

左目が隠れるような黒髪の高身長イケメン。我々遊戯部では常識人枠ではあるけれど、やはりそこは遊戯部クオリティ。そこそこにおかしい人だし、名前がヤバイ。


「俺は黒鳥(くろとり)黒鳥(カラス)だ。決してタダの鳥じゃない」

と言っている。まあ親からの名前を蔑ろにしようとしないところは素敵ですよせんぱい。

それで、「紙、美味い説」についてはなんなんですか。返答次第では貴方の脳ミソの詰まり具合が推し量れますよ。


「それがな、この前妹と動物園に行ったんだ」

「ほうほう。あの貧乏で有名な(とり)せんぱいがですか」

「妹(12)に「動物園に連れっててお兄ちゃん」って言われたら自身の身を切り出してでも連れ出すのが兄だろう」

「さすが。キモいレベルのシスコンで私は安心しました。私が狙われる心配がないですからね」


全く、その気持ち悪さは凄いですね。目を見張ります。


「それでな一通り見回った後『ふれあい広場』なる無料で動物たちと(たわむ)れるという、夢のような空間に行ったのだ」

「入園は有料ですけどね」

「夢がねえな」

夢のような空間から帰還して現実に戻った人間が言いますか。


「そこで柵越しではあるがヤギに餌をやれるというコーナーがあってな」

ヤギ。ヤギですか。私ヤギって結構苦手なんだよね。なんか怖くない?

って思って調べてみたら、結構同じ考えの人が多いらしい。

色々とその場所とか考え方によるものが大きいらしいけど、神聖な動物『ヒツジ』の対比としてヤギが悪魔的に書かれていたり、普通に怖いから「コイツ悪魔みたいだな!せや、悪魔のシンボルとしてやろう」って考えに至った人もいるんだとか。


つまり私の感性は普通、普通ですよ!

YES!平均値!

新しいプイキュアかもしれない。

「そのコーナーに白鳥(スワン)が惹きつけられてな」

うん?すわん……?まさか黒鳥(くろとり)の妹は白鳥(はくちょう)白鳥(すわん)なの……?

すみませんせんぱい。私はせんぱいのご両親が心配です。


「白鳥の悪口言ったら殺す」

目がマジじゃん。別に妹ちゃんの悪口じゃないですよ。せんぱいのご両親の方です。

「ならいい」

いいんかい。


「で、そこには結構な種類の餌が売っててヤギ用の餌として食える紙が置いてあったんだ。もちろん、ヤギが食えるように食用として生産した特別な紙だぞ。普通の俺らが使うような紙はインクとか、植物由来ではないものが沢山入ってるから食わせちゃダメだからな。絶対だ」

「誰向けですかその発言」

怖いわー。


「買って、食わせて、その様子を見て思ったんだ。白鳥は可愛いな、と」

妹自慢(のろけ)はよそでやってもらっても?話が前に進みません」

「間違えた。違う、紙をもしゃもしゃ食ってるヤギを見てな……。なんか、結構一生懸命かじりついてるんだよ、紙に。それだけ美味そうならワンチャン俺が食っても美味く感じるのでは?と思ったわけだ」

「私、鳥せんぱいだけは遊戯部の常識人だと思ってました。妹ちゃんが絡むと誰よりも酷いですね」


更に言えば紙食べてるヤギをみて「紙美味そうだな」とか思える感性も怖い。

え、食事取れてないの?

もうお弁当でも作ってきてあげた方がいいのではないだろうか。何食べたい?タコさんウインナーさん?


「タコにもウインナーにも敬称付ける奴始めて見た」

「タコだって敬われてもいいでしょうが!」

タコだって生きてるんですよ。タコさんウインナーさんはウインナーですけど。あれ、なら敬う必要もなくない?

贅沢な名だね!

今日からあんたの名前はタナーだよ!ジョンコナーの親戚かな。あいるびーばっく。


「ともかく、そういう経緯で冒頭の会話に繋がるわけだな」

「なるほど。すみません、私ずっとせんぱいがバカなんじゃないかなって思ってたんですけど。判明しました貴方はバカです鳥です鳥頭です」

冷静に考えて紙が食えるならこの人は食事にお金を使う必要もないのでは。そしたら将来お金に余裕出来ますね。

「紙ってカロリー少ないし食わないがな」

そういう問題ではない。


「はあ、とりあえずは分かりましたけど。結局何が言いたいので?」

「紙を食うのは流石に人間ぽくないから飯をくれ」

「寝言は寝ながらいうモノです」

なんで私がせんぱいにご飯を食べさせなきゃいけないのか。コレが分からない。

というかせんぱいお金ないのに仕送りだけで生活してるからお金ないんだよなぁ。バイトすればいいのに。


前にもお金ないならバイトしたら?って話をしたら、

「バイト中妹から連絡があったらどうする。直ぐに駆け付けなれば、だろう?」

と結構キツめのことを言われた。その時は妹ちゃんは病気か何かで直ぐに駆け付けたいのだろう、と思ってたんだけど。

最近気づいた。この人はシスコンなんやなって。


「別に金を貸してくれと言ってるわけじゃない。みかんが今食べてるそれをいただけませんかと聞いてるだけだ」

「丁寧なのか不遜なのかハッキリしてください」

別にあげるのが嫌なわけじゃない。ただ、ちょっとムカつくだけだ。無償であげることが。

あ、そうだ。ここは遊戯部。遊びでバトルで結果を奪い取ろう。


「じゃあせんぱい。ここは賭けですよ。ゲームで私に買ったらこのおせんべい全部あげます」

「なに!本当か!?それまだ三枚も入ってるぞ!?よしその勝負買わせてもらう、なにでバトる?」

ノリノリじゃないですかー。そんなにお腹減ってるなら私が勝っても一枚くらいなら進呈しましょう。

さっきと言ってることが違う?知るか!


「では簡易的なポーカーでどうでしょうか。互いに交換は二回、相手より役が強ければ勝ちというシンプルなルールです。もちろん役の強さだけで測るのでコールもレイズもなしです。勝負は3R(スリーラウンド)で、相手より強い役が揃った数が多い方が勝ちです」


「よし、それでいい。ちなみに二回交換ありなのは意味があるのか?」

「やってみれば分かると思いますけど、二人でやると結構沼るんですよ。一回交換したけどブタのまま、なんてことも結構あります」


総数が五十四枚に対して受け取る枚数が五枚×二人で十枚。結構そろわないものだ。


ポーカー。

恐らくトランプで遊べるゲームの中ではババ抜きに並ぶほどに有名ではないでしょうか。

簡単に説明すると、"役を揃えよう"。というゲームですね。死ぬほど簡単。

五十四枚(私はいつもジョーカー含めてますが、本場では含めるんですかね?ギャンブルしないので知りませぬ)のカードから成る役は全部で八つ。

ワンペア、ツーペア、スリーカード、ストレート、フラッシュ、フルハウス、フォーカード、ストレートフラッシュ。

この順番で作れれば強くなる。

あとは数字そのものの強さもあり、Aが最強で2が最弱になる。

そんなかんじです、分からなかったネット見れば大抵書いてあります!先人の知恵!


早速トランプを取り出してちゃっかちゃっかとトランプを切って、鳥せんぱい→私→鳥せんぱい→私……と互いに五枚になるように配る。


「………ううん」

手札を見た鳥せんぱいの顔は渋めだ。

ふふふ、こういうところから勝負は始まってるんですよ?もし手札が悪いことを察することが出来てしまえば、私の役がワンペアだったとしても勝負に勝つことが出来ますからね。

……まあこのルールの場合フォールドはないけど。


さてと、私の手札は……、と。

ハート2・クラブ8・ハート9・ハートK・ダイヤ9

難しい判断だ……。

クラブ8とダイヤ9を捨ててハートを揃えてフラッシュを狙うのもあり、だけどそれだとハート9とダイヤ9で1ペアを捨てることになるから、もしかしたらブタのまま終わるかも。それを避けるために1ペアを残して他三枚でフルハウスや2ペアを狙った方が建設的とも言える。


「俺は二枚交換だ」

パサリと机に放られた二枚はダイヤQとクラブ4。これだけでは流石に何狙いかは分からない。

捨てたあと、山から二枚めくってせんぱいはまた悩み始めた。


私も勝負に出るべきか。

うん、3R勝負なら最初は強気に出た方がいい。せんぱいもそう思ってるはずだよね!

「私も二枚交換で」

せんぱいが捨て札にした場所の二枚投下し、山から二枚手札に加える。


来たカードはダイヤ4とクラブA。

うっ。悪化した……。でもチャンスはもう一度ある。

二枚捨て、二枚とる。

ダイヤKとスペードJ。手札はこれで、

ハート2・ハート9・ダイヤK・ハートK・スペードJ

となった。


あぶない、ワンペアだ……。

せんぱいはどうだ?

「……二回目はチェック。このままでいく」

トントンと机を小突くせんぱい。こ、小慣れてるなぁ。


「では、ショーダウン!」


私→   ハート2・クラブ8・ダイヤK・ハートK・クラブA Kの1ペア


せんぱい→ハート1・ダイヤ10・スペード10・クラブK・スペード8 10の1ペア


ゾクッ。

K(13)と10だと数字を比べて私の勝ちです。

「せんぱい、いま私変な汁出ました。前頭葉に」

「気持ち悪っ!女の子がそんなこと言うな。ともかく1Rはお前の勝ちだ」


あいむうぃなー。

でもあの時、9の1ペアでひよってたら負けてた。つまり勝負には出るべきなんだよね、私詳しいんだ。


「じゃあ二回目だ。カードを寄越せ、俺が混ぜてやる」

捨て札と私のカードをまとめてせんぱいに手渡す。

しゃかしゃかしゃかしゃか。

はっや、なんか手慣れてる感あるし結構遊んでるんですねせんぱい。


そのまま無言でペチペチと交互にカードを置く。

さてさて、私の手札はどんなもんですかい!

ハート6・スペード6・クラブ6・ダイヤ5・ダイヤ9


……激つよじゃあないかッ!

おいおい、せんぱい。あんた死んだぜ?

私はスリーカード(そういえばスリー・オブ・ア・カインドってのが正式名称らしいですね。最近知りました)ですよ?

これに勝とうってのは無理があるのでは?ふふふ、すみませんね。まさか私のストレート勝ちとは。


「……ずいぶんいい手札だったようだな(ぱさっ)」

おやおやおやおや。交換する余裕があるんですね羨ましい。私も交換して強い役を揃えようと愚考する時期もありましたよ。

けれどもうそんな暗黒時代は終わりを迎えたのです、終焉なのです。

「私に勝とうってのが間違いです、諦めてヒナからやりなおしてママ鳥さんからエサを貰っては?」

「お前今日の悪口(どく)一層強いな大丈夫か情緒(ぱさっ)


ふふ、また交換ですか。いいでしょう、どんな役が来てもこの交換回数なら強い役も無いでしょうから。

ではショーダウンと行きましょうか?


「一応聞いておくがいいんだな?交換せず」

「必要ありません。私は生まれた瞬間から強者だったのです」

「じゃあ、行くぜ。ショーダウン」


私→   ハート6・スペード6・クラブ6・ダイヤ5・ダイヤ9 6のスリーカード


せんぱい→ハート3・ダイヤ3・スペード3・ダイヤJ・ジョーカー フルハウス


「ばかな!」

「クハハハハ!俺は忠告したぜ?変えなくていいのかとな!」

フルハウス!?ジョーカー含めたとて私がスリーカード揃ってるのにそっちで揃うことある!?


「油断したな!ダイヤの5と9を変えておけばフルハウスやフォーカードの可能性もあったろうに!」

いやいやそんな簡単に揃わないですよ!

「む、無知を晒したみたいじゃないですかぁ」


「無知を晒した挙句ムチムチでもな痛いっっ!」

「おおおおお女の子になんてことを!殺しますよ!次言ったら!」

反語。

じゃなくて。


私だって女子です、女子高生です!言っていい事と悪い事があります!

もうやめた、コイツには私が勝ってもせんべい一枚もあげない。鋼の意思が完成しました。

「シスコンだとかなんだとかすげぇ言うから仕返しだコノヤロウ!」

「ヤロウじゃないですアマですぅ!無知なのはそっちもじゃないですか!」

「言葉のアヤだろ揚げ足取りばっかりしやがんな柑橘類!」


ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃいぎゃいぎゃい。


閑話休題。


「……じゃあ配るぞー」

「……あいー」

数分言い合って体力が尽きた。

でも私は悪くない、だって悪くないんだから。

まあ勝てばよかろうなのです。そうすればうんともすんともぎゃふんとも言えません。

今度は油断しませんよ。


クラブJ・ダイヤ6・ダイヤQ・ダイヤK・スペード6


ん、んんんんん?

むずかしい、だいぶむずかしいぞ!?

と、いうのもストレートもフラシュも可能性があるかだ。

今はダイヤ6とスペート6の1ペアだけど、ハートJとスペート6を捨ててダイヤでフラッシュを狙っても良し。

ダイヤ6とスペード6の1ペアを捨ててストレートを狙っても良し。


けど狙うにしてもストレートの方がフラッシュより強い。どっちを狙うにしても1ペアを捨てるリスキーな手ではあるんだけど。

それでも、この状況下で1ペア残して日和るのはちがう。

狙うのは確実性の高い方。


「む……」

捨てたのはクラブJとスペード6。

ダイヤのフラッシュを作る!

全然低い確率じゃない、ジョーカーもある。いける!


新しく引いたのは………。

クラブの2とハートの7!

うわぁ、掠りもしてない。


「では俺も交換だ」

な、三枚!?勝負に出ている、やはり最終決戦。暑いですわ!

捨てられたのはダイヤの10とダイヤの7、最後はハートのA。

関連性がないですね、どうしましたせんぱい。まさかブタですか?


せんぱいが三枚新しく引いたのを見て私も捨……え、今ダイヤ二枚捨てられた?やば、めっちゃ確率落ちてる。

でもいまはもうワンペアも無い。勝負に出るしかない……!


さっき引いた二枚を捨てて、二枚引く。

ハートのKと……ダイヤのA!裏切ったな沢村ぁ!


これで手札は、

ハートK・ダイヤ6・ダイヤQ・ダイヤK・ダイヤA

となり、Kのワンペア。


これは厳しい。

さて、せんぱいは……さっきの三枚捨てで終わり?


「俺はこれでチェックだ」

トントン。

私もそれやりたい。

「同じくチェックです」

トントン。

かっくいい!


では。

「「ショーダウン!」」


私→   ハートK・ダイヤ6・ダイヤQ・ダイヤK・ダイヤA Kのワンペア

せんぱい→スペード5・クラブ5・ダイヤJ・ハートJ・スペードA 5とJのツーペア


「しゃおらぁ!」

「ショボイ勝利ですねぇ!?」


一回目と二回目では信じられないくらいしょっぱい結末。現実は劇的じゃないネ。


「ふう、ちみっこにもこの完璧な勝利を見せつけてやりたかったぜ」



このあと一緒にコンビニでお菓子を買って二人で食べました。

ぽてちと、チョコのクッキーと、ポップコーンとせんぱいの好きなチョコボ―。

もちろん残ったせんべいはあげましたよ。


最近ちょっとだけブルジョアジーな私が全部払いました。約束だしね。ちょっと泣いてたよ、量が食べれて。


小宮山黒鳥(こみやまからす)先輩は貧乏なイケメンヤロウ。

シスコンでデリカシーの無い事ばっかり言うけど、一応はこの部活の常識人枠。ホントだよ?


今日も遊戯部は平和です。

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