3.「わたくしを誰だと思っておりますの?」「さすがお嬢様ですわ!」
「うら若き女子高生がなにをやっておりますの?」
「勉強ですが?」
遊戯部部室。ある日の放課後に、私は部室棟二階にある遊戯部という部活の部室で数学の勉強をしていた。
ちょっと前回の点数はヒドかったから……。
金髪縦ロールがふわりと手で払われて、その先端が私に直撃した。痛……くはないけど。
豊満な胸!キリリとしたシャープなお顔!目を見張る美しき金髪の縦ロール!
そう!彼女は一番ヶ瀬ななえ先輩!人呼んで「量産型お嬢様」!
「ですわ!!」
モノローグに介入できるのはデフォルトなのだろうか。ならもう電話とか要らないじゃん。ビバ天然電波。
ですわとか言っちゃうし、金髪縦ロールだし、巨乳だし。どこにでもいる普通の量産型お嬢様です。
量産型は学校の主役です。って前にななせんぱいが言っていた。ちなみに私はジオニスト。
「お嬢様はどこにでもはいませんわ」
いないけどアニメにはデフォルトでいるものですわ。
そして普通にお金持ち。実家はすごいらしい。私は一番ヶ瀬って苗字はななせんぱいで初めて遭遇したけど、なんか有名らしい。世間知らず?関係ないです今私の中でホットなのは数学なのですわー!
そして、そんなななせんぱいはホットでクールな数学が大変お嫌いらしい。
「数字を見ただけで吐きますわ」
生活できない程の難病を抱えていらっしゃるようですわ。
家庭教師もいるらしいけど、結構な苦労されている事でしょう。
「そんな下劣な文化を捨て去ってわたくしと遊びませんこと?」
先人たちになんてことを。
しかし遊ぶことには賛成です。もうそろそろ疲れました、数字と向き合うのは。あれ、感染した?
ななせんぱいはバッグから一枚の紙を取り出した。白紙だ。
「"ヒット&ブロー"をしませんか?」
なるほど。二人で遊ぶなら知力を使う勝負がお好きな、ななせんぱいらしい選択だ。
「私に勝てるとお思いで?」
「勘と勝負強さ、ここぞという判断力が試されるゲームですわ。わたくしに並ぶものなし、ですわ」
ヒット&ブロー。
聞き覚えの無い人も結構いると思います。正式名称は"ヌメロン"というらしいですね。ネットにはなんでも書いてあるなぁ!
ルールはちょっと複雑だけどかなり面白い。
まず、紙に三桁の数字を書きます。もちろん相手に分からないように。三桁の中に同じ数字を含ませることは禁止です。[123]はいいけど、[112]はダメ。そんな感じです。
次に先攻と後攻を決めて、先攻の人から順番に相手が決めたであろう数字を当てるよう三桁の数字を言い合います。
言われた数字と自分の設定した数字を見比べて、位置が合ってないけど数字が含まれている場合は「ブロー」、位置が同じな上に数字もあっていたら「ヒット」と宣言します。
順繰りにそれを進めて行って、最終的に先に相手の数字を当てたら勝利となります。
理解できました?私は初見では無理でしたが、今は元気にやっています。見てますか田舎の両親、娘は立派に育っております。
「では紙をあげます。お書きになって?」
フー!ブルジョア!
ルーズリーフ一枚を受け取り、いつもやっているように半分に千切る。
千切った半分には自分の数字を書いて、もう半分には予想した数字を当てるためのメモにするのだ。
私は折り目を付けてから千切るけど、せんぱいは目測で頑張るタイプらしい。それで綺麗にイケるからすごい。
「せっかくですし、賭けません?」
で、でたーっ!常套句やつー!お決まりですー!
私も時々やるけど、ここの部の人はゲームしたら何か賭けないと死ぬの?死ぬんだろうなぁ。地球人ではない説が出てきた。
「そうですわね……勝ったらなんでもいうことを聞く。でどうです?」
それ、俺以外の男に言っちゃあだめですよ。←ここまでテンプレ。→ここから天ぷら。
「いいでしょう、受けて立ちます!けど、私しかいないからいいですよけど、こみちくんと鳥せんぱいがいる時は言っちゃだめですからね」
「?なぜですの?」
男はオオカミです。なぜオオカミになっちゃうの?男子高校生だからさ……。
私もななせんぱいも、ガンダムオタクです。
「とにかく、始めましょう!」
サササッと紙に数字を書く。それぞれ後ろを向いて。書き方で分かる可能性もあるからね。
もし隠されなかったら全力で盗み見て推察すると思う。クズ?勝てばよかろ(ry
さて、私が書いた数字は[498]。これを見破れるかな?ななせんぱい。
じゃんけんタイム。ここから勝負は始まっている。当然、先攻が有利だからだ。
「「じゃんけん!」」
ぽん。
私←グー
ななせんぱい←パー
くっ、ここで後手に回るのか……。でもいい、当てれば勝ちなのだから。
「そうですわね……。[801]はどうでしょう?」
言い忘れていましたが、ななせんぱいガノタ(ガンダムオタク)であり腐女子です。腐ってるのはこの人だったか……。
え?なんでここでその情報が出てくるって?そりゃあ、想像とネットにお任せします。
今回、[498]に対して[801]の数字が出た。位置は違うけど、[8]があっているので、1ブローとなる。
「1ブローです」
「あら、掠りはしましたのね」
次は私の番だ。
「では……[513]はどうでしょうか」
「1ヒットですわ」
っ!
初回から1ヒットを当てられたのは大きい。これから三回のチャンスで一つは確定できる上、1ヒット-0ブローだったから必然的に[5]、[1]、[3]の内二つはななせんぱいの設定した数字には含まれない。
「ふふ、運がいいですわね。ではそうですね……。[673]」
1ヒットしてきたものを含めず、全く関係のない三桁の提示。戦況が裏返ったッ!
こ、これはキツい……。なぜなら……。
「ノーヒット-ノーブローです」
「!ふう、二回目にしては上出来ですわねわたくし」
なぜなら、ブローもヒットもしていない、というのはその数字三つは完全に除外できるから。
計算はそう単純ではないけれど、簡単に考えれば私は十分の三で当てなければならないのに対して、ななせんぱいは七分の三に考えを絞ることができてしまう。
このゲームは嘘が許されないため、ブラフをかけるという心理的負担を相手に押し付けることが出来ない。
完全に自分の脳を信じる以外は勝ち目がない!
き、きつい……。まさか二ラウンド目でここまで追いつめられるとは……!
「さて、わたくしが勝利した暁には何をしていただきましょう」
「……もう勝ったおつもりで?」
「……まだ勝てるおつもりで?」
バチバチバチバチ。
目の前で火花が散る。まぶしっ。
あれ、結構目に優しくないな。あのバチバチ。戦闘モノの漫画だとアレに耐えて読者に感動を与えていたのか。すごいよみんな!
閑話休題。
まず、当てることを考えよう。
私の最初の数字は[513]で、このうち一つがヒット。定石通りに攻めて、勝とう。まずは[5]を軸にする。
「じゃあ、[524]」
「……1ヒットですわ」
あ、あれ!?[5]は変えずにヒットが変わらない……?ってことは確定か![5〇〇]、これが完成した。
その上で、[1]、[3]、[2]、[4]はブローもない。…………あれ、すっごい有利?
つまり私は[6]~[0]の五つの数字から後ろ二つを当てればいい……?
「(まっずいですわね)」
めっちゃ聞こえてますわ、せんぱい。私が有利なのは自明ですけどね。
ななせんぱいは三十秒の熟考の末に三桁の数字を提示してくる。
三ラウンド目、開始。
「…………[284]」
ふむ、せんぱいは[8]を軸に展開してきてる。
「2ブローです」
「あ。やりましたわね……!」
あっれ、やっばくなってきた?
「これはこうして、こうで。はい、これで一つ確定しましたわ」
強い、これは強すぎる!確実に私を追い込んで来る!頭の回転が尋常じゃない程に早い!
「[〇〇8]、これは確定、ですわね」
しかし私の表情は揺らがない。これは相手の顔で判断できる可能性もあるから。
私は石の仮面をかぶってやり過ごします。
わたしは人間をやめるぞ、ななえーッ!おまえの血でな!
やっぱり一手で戦況が逆転するこのゲームは面白い。
これでななせんぱいは私の数字、[〇〇8]の前二つの内、どちらかが[2]か[4]であることが確定した。
きつい、きついけどチャンスはまだまだあるんですよ、せんぱい!
「[508]っ!」
「まあ、当ててきますわよね。確率三分の一は低くないですもの。1ヒット1ブローですわ」
やった、1ブロー引いた。次のターン、[580]を選択すれば2ヒットは確定。[8]か[0]、どっちに転んでも数字は判明する!
だが、勝利の女神ってやつは誰に微笑むのか人間には分からないものです。
「[428]ですわ」
や、やられた!ここでせんぱいの勘の良さが光っちゃった!嵐のなかでかがやいーてー。
「つ、2ヒットです……」
「あらあらあら。わたくしの勘も捨てたものではないですわね」
ここからはどっちが先に当ててもおかしくはない!
さあ、最終決戦ですわよ!
「[580]!」
「2ヒット。流石に苦しくなってきましたわ」
うん、[508]から[580]に変換して2ヒットってことは[58〇]が正解。
で、私はブローのない[6]、[7]、[9]の内どれかを最後の正解に当てはめられれば勝ち。
つまり純粋な三分の一……!
けどせんぱいは[4〇8]な上[5]と[9]の二択。
頼みます神様。私は人生で三回目くらいの本気の祈りを捧げております。勝利した時にはイケニエとしてこみちくんを捧げますのでどうか……!
「ううん……[498]」
「踏み絵じゃーっ!」
「悔しがり方に癖がありすぎますわ」
あ、ななせんぱいはすぐわかったぽいけど。
思考回路としては、神は死んだ→神など信じぬ→神を崇拝するなど私が許さん→炙り出しを行います→踏み絵。
これが分かったらみかん検定三級を差し上げます。
「実は、わたくしの勝利は最初から八割方決まっていたのですわ。あくまでわたくしの予想では、ですが」
その割には苦戦していませんでした?結構ギリギリでしたよね?
けど私は結果として敗者の身。甘んじて敗者としての振る舞いをしましょう。
「な……なんでですか?」
「みかんさん、貴女はわたくしが勝負を仕掛ける前に何をしておりましたの?」
「数学の勉強ですが」
ピンとこない。それでどうしてせんぱいの価値の確率が跳ね上がるのだろう。
「そのノート、圧倒的に特定の数字が多いですわ」
「それがどうしたのでしょうか」
「人間、数字を決める際に自身に近い数字を避けてしまう傾向があるそうですわ」
なにそれ知らない。そうなんですか。
え、てことはなに、あの一瞬でノートと参考書の数字を記憶して、どの数字が多いかどうか見極めたうえでそれが有利に働くであろう『ヒット&ブロー』を選択した、ってこと!?
数字を見るだけでも吐くって、あれは嘘も方便ってやつ?
「に、人間技じゃないですよ」
「わたくしを誰だと思っておりますの?」
「さすがお嬢様ですわ!」
「おほほほほほ!」
「にしては大分手こずってましたね」
口が滑った。
「おほほほげほげほほげほ……」
ゲシュタルト崩壊しましたか?私はしました。目がいたいー。
てことで。
「罰ゲームですわ」
「いやですわー」
何命令されるんだろう……度を越えてたら逃走しようかな。
「……わたくしと、ラインを交換しなさい」
なんですと。
え、ラインですか。スマホの。メッセージプリの?
「それ以外ないでしょう」
すっごい真顔で言われた。
なにこのイキモノ!かわいっ!
私のラインが欲しくて策を弄して、罰ゲームで交換しよう?乙女じゃん!
「うっ、数字のせいで頭痛がして参りましたわ」
乙女だけど数字嫌いは嘘じゃないのね。
「こんな姿カラスくんに見られでもしたら、また数学を教えに来てしまいますわ……」
この後ラインを交換して、お茶を嗜みましたわ。なんかすっごい高い紅茶らしいです。美味しかった。
え?他の方?知らないですわー!どうでもいいですことよ。
一番ヶ瀬ななえ先輩は、金髪縦ロールで、「ですわ!」なお嬢様。
ガノタで腐女子でお嬢様で巨乳で乙女。ちょっと属性盛り込み過ぎじゃないですかね?
小話ですけど、金髪縦ロールは普通に校則違反ですが金の力で校則をこじ開けてるそうです。かわいい!
今日も遊戯部は平和です。
モノローグがイカれてますが、粟田みかんちゃんは一応栗毛ショートボブの美少女という設定です。
なんでかって言うと、私が好みだからです。




