2.「待ってなさい凡人。私自ら編み出した最高の問題を出題しましょう」「口わる!」
「みかんさん」
「なに?こみちくん」
遊戯部部室。ある日の放課後に、私は部室棟二階にある遊戯部という部活の部室でチョコを食べながらマンガを読んでいた。
そんな贅沢タイム中に、私の同級生の天ヶ谷こみちくんが話かけてきた。
ぎるてぃ。ぎるてぃだよこみちくん。クラウンを下さい。
「なんで今日は僕とみかんさんだけなの?」
「知らんがな」
本当になんでいないんだろう……。
基本参加自由な部活だし、来たくなければ来なくてもいいけどみんなバイトもしてないし、居残り授業をしなきゃいけない程頭が残念な人もいない。
みんな暇人だし放課後はここに集まるものだと思ってたんだけど。
「りんかさんはともかく、ともか先輩もすみこ先輩も、カラスも来ないなんて」
きっと今日は暇じゃないんだろうね。
ちなみにカラスってのは人名ですよ。本名です。
「みかんさんは何読んでるんですか?」
「じゃんぷ」
「へえ」
興味ないなら聞くなって。
珍しいかな、女の子が少年誌読むのって。今は男子でも少女漫画を読む時代ではなくって?
「そーゆーこみちくんは何読んでるのよ」
そういい私はブックカバーのついている本を指差す。紺色のブックカバーでなんかオシャレで腹立つ。
ちなみに私も同じカバーつけて小説を読んでる。無印で買いました。やっぱりこみちくんのは腹立つ。
するする、とブックカバーから本を外して表紙を見せてきた。
なぞなぞだ…。
"超難問150選!"と書かれてる。
「結構難しくていいよ。僕も一問解くのに時間かかると逆に嬉しい」
マゾタイプのナゾナゾニストだ!
「なにナゾナゾニストって」
にしてもなぞなぞか……。マンガもひと段落したし、やってみたいな。
「ね、こみちくん。問題出してよ」
「うん、いいよ」
「あ、一問交代で出し合おう。私はネットから拾ってくるね」
「ふ、ネットにある問題はこのナゾナゾニストからすれば既に通った道だよ?」
ムカつくなコイツ。
なぞなぞ。
英語ではRiddleと言うらしい。え?興味ない?あ、そうですか。
普通に知識頼りの問題だけでなく、知識にプラスして応用力を使わなければならない高度な遊びです。
きっと日本で知らない人はいないでしょう。(二回目)
「とりあえず問題出してよ」
「うーん、じゃあ……」
問題。
増えることがあっても減ることはないものとはなに?
増えるけど、減らない?
むむむ、なかなか哲学的ですな。
「なぞなぞに哲学を持ち込まないでよ」
シャラップ。考えているので黙っとれい。
多分、概念的ななにかなんだろうな……。物理的に減ることがない、というのは専門的な知識を必要としそうだし。
概念的……。
「ヒント要ります?」
「ここまで来てるから!」
喉まで!喉の辺りまで来てるから!
「ここまで来てるって言ってるひと、基本来てないよね」
うるさいわい。
……………あ、ホントに来た。
「答えは年齢、でしょ」
「お、正解。簡単だったかな」
余裕よ。
じゃあ次は私の番ね。
ネット なぞなぞ 難しい 検索。
ぞろぞろと出るなぞなぞたち。さて、こみちくんをぎゃふんと言わせることの出来るナゾはどの子かな?
適当にでてきたサイトにいい感じのやつが出てきたので出してみる。
問題。
タクシーの運転手が道路を反対向きに走っています。
しかし、それを見た巡回中の警察は何も言いません。なぜでしょう。
「うん……?問題文に違和感があるタイプのなぞなぞだね」
最初に気づけなかった私はバカなのだろうか。たしかにちょっと変だな。
こういう問題はその変な部分を注目すれば正解に近づけるんだろう。観点を変えるのはいいことだと思うので、次からはその戦法をパクります。え?みんなそうやって解いてる?人は成長するものだよワトソンくん。
「道路を反対向き……。逆走って言わないのは……あ、そういうことか」
はっや。十秒くらいですよこみちくん。
「正解は、道路を走っているのはタクシーの運転手であって、タクシーという車ではないから。これが答えだ!」
グワーッ!やられたぁ!
「ぐぐぐ……。正解です」
「甘いね」
次の問題はなんだ!一瞬で答えてやるぞ!
決意の目を目の当たりにしたこみちくんは迷いなくパラパラとページをめくり、最後の方に目を付けた。
………それ難しいヤツじゃん。
「では問題!」
「どんとこい!」
問題。
ある国際会議が開催されています。
その会議には日本、カナダ、ドイツ、イタリア、アメリカ、イギリス、フランスの七ヵ国の重役が出席していました。
日本の某所で行われた際にテロリストが会議室に侵入し、「全員手を挙げろ!」と叫びました。
一番初めに手を挙げた人間はどこの国の重役でしょう?
「さて、解けますか?」
「むっず」
なんだこれ。
ポイントが見つからないんですけど!
さっき学んだ違和感を見つけろ!の違和感がない!
あえて言うなら国を限定したところかな……?でも普通にG7のヤツだし。違和感を持たせないように補完しているようにしか聞こえない。ってことは別に国は関係ないのかな?
泥沼だ……。答えが見えなくて深みにハマってる。
くっ、これはどうすれば………うっわ超ニヤついてる!やだ!やっぱこみちくん性格悪いよ!
「ヒント欲しいぃ?」
なんだその言い方ムカつくな!
「まだいけるから!しゃらっぷ!」
その後三分進捗なし。
ぐぬぬ、悔しい。解けないのもそうだけど、こみちくんが暇そうにし始めたのが更に悔しい。
「あと一分で何にも出なかったら強制ヒントね」
施しを受けてなるものか。
頭を回せ、私は天才だ。この程度で倒れるほどヤワな訓練は受けてなくってよ!
ポイントは、やはり国だ。限定されているのは意味がある。例えばパキスタンとか言われてもどこだよってなるし。
一番初めに手を挙げた人間はどこの国か?一番臆病な国を挙げればいい?それならなぞなぞである意味がない……。
つまり国民性、ってやつは関係ないよね?じゃなかったらこみちくんをぶっ飛ばしてからクレーム入れてやる。
「なんで一回殴るフェーズが必要なの?」
国、というなら国際会議が行われた日本某所。某所ってことは日本のどこでも成立す……………日本でやる意味?
アメリカでもイギリスでも、どこでもいいのに"某所"ではなく"日本の某所"っていう日本に限定した意味があるはず。
暗闇の荒野に一筋の光が差したぞ!
「ヒントたーいむ」
うわ!だめだったか!でもヒントすらなく解けないよりはマシか……。
「テロリストは、『全員手を挙げろ!』と叫びました」
はえぇ。そりゃあテロ起こす人間は皆殺しor投降の二択を迫るでしょうよ。
全員手を挙げろ、全員手を挙げろ………。
ん?ん??
ああ、あああ!なぁる程ね。この勝負、私の勝ちです。
悔しいが、やはり天才はいるものだよこみちくん。
「その天才とは私のことですけどね!」
「うわうるさっ。分かったら答えてみなよ」
刮目せよ。これが私の答えだ。
「答えは、日本!」
「なるほど。理由は?」
「テロリストの叫んだ『全員手を挙げろ!』は、日本語だよね。確かに国際会議である場では日本語の分かる人が日本人以外にもいるでしょう。でも、そんな突発的なことで直ぐに判断できるのは母国語の日本人!故に答えは『日本』!」
弾丸によって論破するが如く、私は叫ぶように答える。今日も元気です。
それを聞いたこみちくんは「ふっ」とニヒルに微笑んだ。
次やったら殴る。
「正解」
「絶対は、私だぁ!」
歓声が聞こえる。私以上の天才は、きっとスパコンくらいでしょう。
「次はみかんさんの番だよ」
「待ってなさい凡人。私自ら編み出した最高の問題を出題しましょう」
「口わる!」
スパコンの次に天才である私から生成された問題を解ける訳ないもん。
それから苦節五分。ついに完成した。
「ふふふ、これに五分以内で正解できたらジュース一本進呈しよう……」
「つ、強気だね。よし、受けて立とう!」
その元気さも、次の瞬間には消えるんだよ!覚悟しな!
問題。
みかんちゃんはキャンプに行きました。
焚火をしようと森から葉っぱ、細い木の枝、太い木を持ってきました。
手元にはライターと新聞紙、そして酷い点数だった数学のテストがあります。
最初に火がともるのはなに?
「さあ苦しみ悶えよ!」
「答えはライター」
「なんでだああああ!」
惨敗した。
「誘導が見え見えだよみかんさん」
ば、ばかな……!
元気さが消えたのは私の方でした……。
「ななえさんだったら数学テストって言ってただろうね。あの人数学苦手らしいし」
その後、こみちくんには要望のあったコーラを。私はホットココアを飲んで一息つきました。
天ヶ谷こみちくんはザ・普通を体現する男の子。身長も成績も普通です。
でもちょっと賢いし、ちょっとウザい。そーゆーのもなんか普通。いいお友達なんだけどね。
今日も遊戯部は平和です。