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1.「遊戯部では?」「違うぞ?」

「せんぱい、暇です」

「暇は良いぞ。それは世界が平和という証拠だ」

今日も世界は平和です。私も平和でうれしい。でも平和は心を腐らせます。


「腐らん腐らん。人間はそこまでヤワじゃない」

「私は暇で腐りかけてます」

絶賛腐敗化進行中。

そんな私は粟田(あわた)みかん。花の女子高生です。

そしてお話相手は飯田(いいだ)ともか先輩。彼女もラフレシアの女子高生です。


「腐っているからと言って私を腐敗臭のオンナに仕立てるな」

時々こうやって私のモノローグを見透かしてくる中二病です。


では中二病のせんぱいに合わせて私も漫画の様に今の状況を説明しましょう。

「時は放課後!堅苦しい学校生活の六限目を終え、私は今部室棟二階にある遊戯部にて放課後の貴重な時間を使って部活をしています!ですがなんということでしょう、遊び相手はともせんぱいお独りだというのに、そのともせんぱいは私と遊んでくれないのです!これからどうなっちゃうの~!?」


と、いう訳です。分かりましたか?

このままでは腐り落ちて後世に残る巨大な樹木の肥料になってしまいます。それはよくない、死にたくないし。

しかし人は暇で死ぬこともあるのです。


「しかし、まだ私とみかんしかいないのでは遊びようもないだろう」

「そんなことありませんよ?ほら、トランプです。貴重な時間をスマホだけで潰すわけにはいきません」

だってここ遊戯部だし。遊戯部で遊戯してないのはそれはもう部活じゃない。

サッカー部がサッカーしてなかったら監督さんは怒るでしょう。それと同じ原理であり、私は頭がいい。


「分かった、私も[時計館(とけいかん)]のリーダーだ。付き合おう」

遊戯部(ゆうぎぶ)では?」

「違うぞ?」


驚きです。"遊戯部"と確かに教室のプレートには書かれているハズだったのに遊戯部じゃないらしい。

「まあ、[時計館]は秘密の組織であるため俗世での名は"遊戯部"だがな」

「俗世て」

俗世て。

あ、モノローグが声に出てしまった。やはり中二病は恐ろしい。

しかし怪我の功名というべきかキチンとこの場所が遊戯部であることの言質は取れた。怪我もしてないけど。


「ではみかん。二人でトランプとはなにをする?」

「ここはやはり、ババ抜きでは?」

「ほう。私にババ抜きで勝負しに来るとは。キサマ、チャレンジャーだな」

「勘違いしないでください、チャレンジャーはともせんぱいですから」

「………ふっ」

ゴゴゴゴゴゴゴ……。


さておき。

ババ抜きです。簡単なルールで、最悪の場合二人でやるなら一組+ジョーカー(または別の数字カード)があれば出来る、お手軽且つ戦略性が多く存在する奥深きゲーム。

きっと日本で知らない人はいないでしょう。


「せっかくですし、賭け、しませんか?」

「ほう?ではチャレンジャーである私が決めるが?」

「ええ。あまり奇抜でないものをお願いしますよ」


せんぱいが賭けの内容を決める間に私はトランプからハートとダイヤのA(エース)、そしてジョーカーを引っ張り出した。

裏向きにして、三枚をシャッフルシャッフル。

三枚机に並べます。


じーっと賭けを考えるせんぱいは可愛い。黙ってればモテるのに。

「よし、では負けた方はコンビニでエロ本買う!」

一生黙ってればいいのに。


「奇抜じゃないものじゃないじゃん!」

「ええい一文に否定語を何個も織り交ぜるなややこしい!ともかく!チャレンジャーはお前、と言ったのはみかんだぞ!やってもらうからな!」

「えーえーいいでしょう!せんぱいもちゃんとやって下さいね!」


こうして始まったババ抜き対決。

負ければ女子高生としての尊厳と自信、そして自由(学校生活)が奪われる。負けるわけにはいかない!


「ではこの並べた三枚から、一枚or二枚引いて下さい。もし二枚引いてそれがペアだったらシャッフルしてやりなおしです」

「分かった。では引こう」

ともせんぱいが引いた枚数は二枚。

つまり"受け"に回ったということだ。先攻で引ける私からすれば一撃KOも狙えるリスキーな選択。


「せんぱい、強者の余裕ってやつですか?」

「キミの思考を鈍らせるには最適だろう」

確かに……。鈍ったとは言えないけど、混乱はしています。

ですが、あまり意味がない気がするっ!


「一発で引かれる可能性を考えなかったので?」

「ふっ……私のポーカーフェイスを見破れる自信がおありか?」

くっ……質問を質問で返す、だと……?

意図は分からないけど、ともせんぱいにはそれなりに勝利するための材料があるって事だよね。


なら引きますよ?せんぱい。

私の手元にはハートのA。右と左、どちらかがジョーカーであり、どちらかがダイヤのA。


勝つか負けるかの真剣勝負。生き残るには相手を倒すしかない。負けちゃだめだ。気持ちで負けちゃだめだ。って沢村も言ってた。

使い方あってる?多分あってない。


とにかく勝利の確率は二分の一、たった五十%で勝負が決まる。

ゴクリ。まずい、プレッシャーだ。ここで引き負ければ、次にはこれ以上のプレッシャーが私を襲う!


「気づいたか?」

「…………っ」

最初の"受け"は、長期戦を見越しての圧!なんてこと、私が押されている……!

けどよく考えたけどあんま戦況変わらないなこれ。


「こ……っち!」

まるで勝負師(でゅえりすと)の様に私から見て右側のカードを引いた。

乱れる呼吸、溢れる手汗。ハァ、ハァ。息が詰まりそう…。

けど、見なきゃ分からない…。ちらりと右目の端が捉えたのは……………ジョーカー。


「まだ楽しめそうだな!」

ともせんぱいが、大きい……。魔王の如き大きさです!

「クハハハハ!早くその(カード)を構えよ!魔王ともかが直々に裁きを下して(カードを引いて)やる!」

こうなったら、やるしかない!


前に突き出したカードには左にジョーカー、右にハートのA。いつでもこい、魔王・ともか!

迷いなく手からカードが引かれた。


「ふん、ジョーカーか……」

落胆の様子が見て取れた。そうか、長期戦で精神を減らすのは私だけではない、ともせんぱいも同じなんだ。

そう思うと余裕も出てくる。

ちゃっかちゃっかと後ろ手でカードをシャッフルし、私に向けてくる。


さっきはすぐ取っちゃったけど、今回はじっくり行きますよ。

ともせんぱいの目を見ながら左、右、左、右と順番に指で触っていく。

ううん、表情に変化がない……しっかり私を見ているハズなのに……。


あっ……。気づいちゃった……!

ふふふ、この私の勝利ですよ!

正解はこっち、右だぁ!

「なにっ!」

振り抜かれる手と、宙に舞う血飛沫(※舞ってない)。


「これで私の勝ちです!」

ドン!そんな効果音が聞こえた気がする。多分背後に大きく文字が出てる。


「な、なぜだ……!私のポーカーフェイスは完璧だったはず!なぜあんなにも確信を持った表情で……!」

ふふふ、不思議でしょう。教えてあげますよ。私が気づいた、ある一点の勝利への光を。

「完璧でしたよ、せんぱいのポーカーフェイス。微動だにしていませんでした。ですがそれが敗因!」

「なに!?」

「完璧過ぎたんですよ。そう、眼を一切逸らさない程にね!」

「はッ!」

「そうです、その瞳に映っていたんですよ!カードの表の絵柄がね!」

「な、なんだとぉぉおおおー!」

ズドォォォン!再起不能(リタイア)ッ!


敗者には勝者からの屈辱(おくりもの)が相応しいので、悪役然とした私は揃ったAを項垂れたともせんぱいに落とした。

けど、せんぱいは往生際が悪かった。


「そ、それは反則じゃないのか?みかん!」

「勝てば……」

そう、勝てば。

「勝てばよかろうなのだーッ!私の視力は1.2です!瞳に映ったカードを見抜けるなど造作もないことなのです!ポーカーフェイスもカードの片方を上げて誘う行為だって、勝負がつくまではすべてが戦略!相手をよく見る、これが反則な訳ないでしょう!」

カンカンカンカン!

ああ、勝利のゴングの音色が私を包む……。(※鳴ってない)


「さあ、審判の時間ですよせんぱい。勝者には天国(ファンファーレ)を、敗者には地獄(えろ本)を!」

「ぐううううう!お、覚えてろよ!ばかー!」

ふはははは!敗者の悲鳴は心地が良いわ!

けど正直暴論だと思う。


廊下を走り抜けるせんぱいに私は叫ぶ。

「こみちくんが恥ずかしがるやつお願いしますね!」

「わかるかばかーー!」



その後ほんとに買ってきました。

制服着てないせんぱいは大人っぽいし、出来るもんなんですね。


「う、うわぁ」

その後中身見て赤くなってました。


飯田ともかせんぱいは、黙っていればモテるタイプの美人さん。けど中二病なのでモテません。

頭はいいのにね。


今日も遊戯部は平和です。


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