第18話 無の世界で
座ったソファーは、思ったより三倍はふかふかだった。
しかもなんか、いい匂いがする。
すん、と鼻をならしたキャロが呟く。
「これって、シナモン?」
彼女の言葉を聞いて納得。
………どうりで腹がすくと思ったら。
商店街にあるいきつけの店のシナモンアップルパイを思い出して、お腹がなりそうになった。
すると、コスモスが指をパチンと鳴らす。
ソファーの前にテーブルが出現。
「うわっ」
「きゃっ」
「なっ」
俺やキャロ、クオンが驚いている中で、更にアップルパイや紅茶をらしき飲み物まで出てきた。
今度はクオンが鼻をすんとならして、「アールグレイ?」と呟いてる。
…………なんだか二人とも、気が合いそうな気がするな。
なんて、そんなことを考えている場合じゃない。
俺は、ティーカップに入った飲み物に口をつけているコスモスに向けて口を開いた。
「それで、ここはどこでどういう場所なんだ? いい加減に教えてくれよ」
自分がいる場所かどこか分からない事は結構な不安だ。
まずその疑問を解消しておきたかったので、真っ先に現在地に対する質問をした。
のどを潤したコスモスが一呼吸おいてから、口をひらく。
「ここは、君達の世界を押し潰そうとしている壁の向こう側さ」
その内容には、俺たち全員が息をのんだ。
特にキャロの反応が大きい。
「壁の向こう側ですって! 嘘でしょ。そんな空間存在するの?」
俺達の世界を滅ぼそうとする壁。
その壁の向こう側の情報は入ってこない。
あの壁に触れた物はみな、消えてしまうのだから当然だ。
壁に触れてもただ透過するだけだと言う奴もいるが、俺達は今までにあの壁に触れて分解されていく人間や動物達を何度も見ている。
壁の向こう側なんてものが存在するとは思えなかった。
「まあ、正確に言うと何も存在しない無の空間しか広がってないんだけどね。でも僕程のものとなれば、そんな無の中に無理矢理空間を作り出す事は可能なのさ。建物一つ分程度だけど」
「建物一つ分……。駄目、……考えても可能かどうかなんて分からないわ。私達専門家じゃないんだし」
俺も詳しいわけじゃないからな。
頭のできも良くないみたいだし。キャロにしょっちゅう怒られてるくらいだから。
俺はクオンの方を見た。
クオンがたじろぐ。
「な、何ですか」
「分かるか?」
「い、いえ……」
ぎこちなく首を振られる。
仲間の存在にちょっとほっとする思いだ。
どうやら、この場にいる誰もがコスモスの話の正確性を測る事ができないようだった。
…………これ、騙されてたらまずいんじゃないか?
都合よく利用されてとんでもないことの片棒を担がされるのは避けたい。
かといって用心しすぎて気を損ねるのもまずい。
これだけのことができるんだから、敵対するのも避けたほうがいいだろうしな。




