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抑えられない気持ち。

 

 夕食後。私は緑水さんとテレビを見た。


「こういった映像を中野さんは作られているんですよね?」

「そうですよ。この映像は違いますけどね」

「中野さんが作った映像が見たいです」

「じゃあ、録画してあるの見ますか?」

「是非!」


 緑水さんが前のめりにそう言うので、私は録画しておいた旅番組を再生する。


「すごいですね。これを作られたんですか!」

「もちろん全部をではないですよ……。企画する人、撮影する人、タレントさん。たくさんの人が関わっているんです。私はこういう部分のデザインをしたり、テロップを入れました」


 直接画面を指さしながら説明する。


「すごいですね。まるで職人技だ」


 緑水さんがえらく感心してくれるので、私は嬉しくなってきた。


「えへえへ」


 特に謙遜もせず、えへえへしてみせた。



「緑水さん、ゼリーがあるんですけど食べます?」

「いいんですか? いただこうかな……」

「ぶどうと桃とみかん、どれがいいですか?」

「うーん。では、ぶどうで」

「はーい。私は桃にしようかな」

 

 こうして緑水さんと居間でゼリーを食べ、くつろぎながらテレビを見ていると、まるで彼と家族になったかのように錯覚する。

 そうなれるのではないか、と思ってしまう。


 こんな感覚を、きっと以前は別の人に対して抱いていた。

 だけど……私はもしかしたら、同じ過ちを。


――化かされているうちは幸せでも、化けたもんと一緒にはなれねぇんだで。



「それではそろそろおいとましましょうか。ついつい長居をしてしまいました」


 録画の旅番組が終わったのを見計らって、緑水さんはそう言って立ち上がった。

 時計を見れば午後九時を過ぎていた。


「時間ってあっという間ですねぇー」


 私もうーんと伸びをしながら立ち上がる。

 土間で草鞋を履く緑水さんの隣で、私もサンダルを履く。


「えっ、ここまででいいですよ」


 驚いたように言う緑水さんに私は首を振った。


「外までお見送りしますよ。ちょっと星が見たくなって」

「そうでしたか」


 緑水さんは微笑んだ。



 玄関の引き戸をガラガラと開く。

 この小気味よい音も、すっかり私の日常になった。

 外のひんやりとした空気が気持ちいい。夏草の香り、虫の音、都会では感じることのなかったほどに深い夜の闇。


「今日は星がよく見えますねえ」


 緑水さんと私は星空を見上げる。こんなにたくさんの星が肉眼で見えることも、今では私の日常になりつつある。


「では、そろそろ帰りますね。あまり長く外にいると虫に刺されてしまいますよ……」


 ふいに私は緑水さんの腕をつかみ、彼を見つめた。緑水さんはそんな私の挙動をじっと見守っているようだった。


 私はそのままゆっくり顔を近づけ、緑水さんと唇を重ねた。

 

 ……なんだ、人間みたいにあったかい。

 そんなことを考えながら、ほんの少し背伸びをしたままキスをする。

 

 それから唇を離し、瞳を近づけたまま彼に言う。


「緑水さん、私のお嫁さんになっていただけませんか?」

「お婿さんの間違いでは?」


 そう言って彼は笑った。

 私は彼の笑顔を見ると、せつなくて涙が出そうになる。


「どちらでも。ただ私は、ずっとあなたと一緒にいたいんです」


 私は彼の存在を確かめるみたいに、彼の肩に触れた。

 不安で胸が苦しくて、助けて、と叫び出したくなる。


「ですが、中野さん……」


 ふわりと温かい空気が流れ、光の粒が舞う。

 緑水さんの肩に触れていたはずの両手はふわふわした白銀の毛の中に埋もれていく。

 寄せていた顔は形を変え、次第に人間の顔ではなくなっていく。


「気づいておられるでしょう。私は妖狐なのです」

「それでも、私は!」

「もう、一緒にはいられません」

「どうしてですか!?」


 ひらりと身体をかわし、妖狐は足音も立てずに暗闇の中へ走り去っていく。

 私は腰が抜け、その場にへたり込んだまましばらく動けなくなってしまった。



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