東京ばな奈とシーグラス。
程なくして、私は東京ばな奈の箱を持って囲炉裏部屋に戻った。
「はい、どうぞ」
「えっ、こんなにたくさんいいんですか?」
「ええ。大したものじゃないんですけど……」
「じゃあ、せっかくですから今一緒にいただきましょう。こんなに食べきれないですから」
「そうです?」
緑水さんがそう言うなら、とビリビリ包装紙を破いて捨てた。
「ああっ! そんな……せっかくの包装紙がっ」
なぜか緑水さん、破けた包装紙を残念そうに見つめている。
――あっやばっ。ズボラなのがバレた。
「ごめんなさい、どうせ包装紙はいらないのかと思ってしまって……」
「あ、いえいえ、いいんです。ちょっと編んでかごにでもして再利用しようかと思っただけなので」
包装紙を編みかごに……。
なんだか緑水さんって田舎のおばあちゃんみたいなところがある。
「今度から包装紙は綺麗に外してお渡ししますよ! ささ、東京ばな奈をどうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
はむっと東京ばな奈にかぶりついた緑水さんは目を丸くした。
「なんですかこれは……」
「お口に合いませんでした?」
本当はもっと気の利いたものでも買ってこられたら良かったのだけれど、なんだか久々の東京に疲れてしまっていて、駅構内でぱっと目についたのが東京ばな奈だったのだ。
そうだよな、グルメな緑水さんだもの。こんなありきたりな東京みやげじゃ……。
「こんなに美味しいものは初めて食べました」
信じられない、といった顔で緑水さんは言う。
「えっ」
そっち?
「なんですか、この中に入っている黄色くてしっとりとした……」
「バナナ味のカスタードクリームですかね」
原材料の表示を見ながら私は答える。自分もひと口。あ、久々に食べたけど結構おいしいなあ。
「バナナ味のカスタアドクリイム……」
まじまじと東京ばな奈を見つめる緑水さん。
そっか、きっと緑水さんはあんまりこういうお菓子、食べたことがないんだ。
「また来月東京に行くので、その時に買ってきますよ」
そう言うと、緑水さんは瞳を輝かせた。
「ありがとうございます!」
「いえいえ……」
こんなことでいつもお世話になっている緑水さんのお役にたてるのなら安いものだ。
「あ、そういえば私もお渡しするものがあったんですよ」
そう言って緑水さんは懐に手を入れ、何かを取り出して私の手のひらに乗せた。
それはシーグラスを編んだ麻紐でつないで作ったブレスレットだった。
「わあ、綺麗。これって緑水さんが作ったんですか?」
「ええ。中野さんが東京に行かれている間はやることがなくて、河原で綺麗な石を探して過ごしていたんですよ。そうしてよく見ていたら、こうした透き通った空色の石が落ちていたもので、夢中になって探してしまいまして。で、せっかくだから腕輪にしてみました」
「えー嬉しいです。これから暑くなるから、涼しげでいいですね」
窓のほうに手首をかざすと、シーグラスがキラキラと輝いた。
「今日のおひつじ座のラッキーカラーが青だったので、ちょうどいいのではないかと」
「ほんとですね」
なにより、私がいない間も緑水さんが私のことを考えてくれていたんだってことが、とっても嬉しい。
「えへへ……」
そうやって飽きもせず、手首に掛けたブレスレットを日にかざしてじーーーっと眺めていたら、段々緑水さんが焦り始めた。
「河原で拾ったもので作ったものを、そこまでお気に入りいただけるとは思っていませんでしたが……。麻紐はちゃんと編めていましたでしょうか? なんだか気になってきました」
「綺麗にできてますよー。几帳面な緑水さんが作ったんですから!」
「中野さんは、私に対する評価が高すぎますよ」
緑水さんは照れ隠しのように、ずずっとお茶をすすった。




