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ずっとがいいんですが。

 すべてのおまんじゅうを包み終えたら、蒸し器に並べていく。


「こうして十分程蒸せばできあがりですよ」

「わ~、たのしみです」


 蒸し上がるまでにコーヒーの準備。

 ドリッパーで木製のマグカップにコーヒーを落としていく。


「そういえば、今度上野スカイブリッジというところに行くことになったんですよ。緑水さんは行ったことあります?」

「いえー、私は人の多いところが苦手でして。そうした観光名所には行かないんですよ。でも存在は知ってます」

「そうだったんですね。確かに緑水さんには昔ながらの場所のほうが似合ってる気がします」


 ふふ、と緑水さんは微笑む。


「でも、おひとりでいかれるわけではないでしょう? どなたと行くんです?」

「えっと、新井大和っていう男の子……知ってますか?」

「ああ、大和くん」


 緑水さんは知っているらしく、うなずいている。


「そうか、あの子ももうそんなに大きくなりましたか」

「そっか、緑水さんからしたらずっと年下ですもんね」


 そう答えつつも、緑水さんの言い方は十歳から十五歳年下というニュアンスではないなと感じた。もっと自分とはずっと離れた存在を慈しむような言い方だ。


「大和くんは、いい子ですよ」


 緑水さんはそう言った。


「そうなん……ですね?」


 今のところ私はそこまで大和くんを信用できているわけでもない。なんだかチャラい気もするし、ヤンキー文化の彼と基本インドア派のオタクだった私の気が、果たして合うのかどうか。


「楽しんできてくださいね、デート」


 緑水さんにそう言われて、私はとっさに「はぁ!?」と声をあげてしまった。


「デートじゃないです! ただ車を出してもらって、観光名所を案内してもらうだけで」

「それがデートなんじゃないですか?」


 ハッハッハ、と笑っている緑水さん。きっと私を軽くからかっているつもりなんだろう。


 でもなんだか私は……。

 少し寂しかった。


 緑水さん、私が大和くんとデートに行ってもいいの?

 私と大和くんがくっつけばいいって思ってるの?

 もしも緑水さんがそう思っているのなら、残念だ。


「あ、十分経ちました。そろそろ蒸しあがるころですよ……」


 緑水さんは立ち上がり、おまんじゅうを確認しにいく。

 私はちょっぴりシュンとしたまま、その後についていった。


 できた~。

 酒まんじゅうとドリップしたてのコーヒー。


「いただきまーす」


 すごいなあ。本当にちゃんとおまんじゅうになってる! もちろん、ほとんど緑水さんのおかげだけれど……。でも私もおまんじゅう包んだもの。そう思うとちょっと嬉しい。


「おいしいですね。今日はずっと見ていたから、もう一人でおまんじゅうが作れるようになったんじゃないですか?」


 緑水さんにそう言われて、私は大きく首を振った。


「全然無理ですー。一人でなんてできないですー」

「そんな子供みたいな言い方をして」


 緑水さんは笑っているけれど、私はちょっとイライラしていた。

 どうしてもう一人でできるだろうなんて言うの?

 さっきの大和くんとのことだって……。


「どうしたんです? 虫の居所が悪そうな顔をして」

「私は……」


 言葉に詰まる。

 ほんの少しためらってから、私は言葉をふりしぼった。


「私は、もっと緑水さんと一緒にいたいんです」

「中野さん……」


 緑水さんは手にしていた木製のマグをゆっくりとテーブルに置く。


「ご心配なさらずとも私は超がつく暇人ですので、これからもこちらにおうかがいしますよ」

「……そうですか?」

「そうです」

「ずっとがいいんですが」

「まあその……永久にうかがえるかはわかりませんが。でも中野さんのご迷惑にならない限りはずっとうかがいますから」


 照れたような困ったような顔をしながら、緑水さんは言った。



「それではまた」


 ぺこりと会釈をして、緑水さんは去っていく。

 その姿が見えなくなるまで、私はずっと彼を見送っていた。


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