1告白までの経緯
大陸の中央に位置する内陸の国、アントレル王国。
その首都には政をつかさどる王城のほかに、二つの巨大な塔がある。
ひとつは、シヴィ様の勤める魔法協会の塔。生まれながらに特別な天資を持ち、魔法を使える者は、大抵ここで働いている。
もうひとつは、魔法協会の管理下にある「魔法具研究所」。私の職場だ。
ここでは主に魔法使いが戦闘で使う武器の製造や開発。国の祭儀に使われる法具の受注と製造を請けっている。いわば職人たちが働く工房だ。
今年で十六になる私、カヤ・オムミディアは、五歳のときに記憶を失い、それ以来この研究所で育てられた。親には捨てられたんだと思う。
一般的に孤児は、孤児院に連れて行かれるものだが、私にも生まれながらに天資が備わっていた。見極めるのは簡単で、身体のどこかに不思議な紋様があるのだ。
天資は別名〝精霊の加護〟ともいわれていて、どんな加護を授かっているかは、紋様を見ればわかる。
火をあらわす紋様があれば、火属性の魔法がうまく使えたり、光をあらわす紋様があれば、癒しの魔法が得意だったりと、人それぞれだ。
私の天資は珍しいもので、それが研究所に勤める天才法具職人のセルジュ・エジリンの目に留まり、助手として働くことになった。
そして、そのセルジュ・エジリンこそ——私の長年の片想いの相手でもある。
シヴィ様への告白がうまくいってしまったばかりに、これからどうしようと頭を抱えながら、私は塔の回廊を歩いていた。
すると突然、目の前の空間にパァッと光が溢れる。
「な、なんなのッ!?」
さらに床から浮き出るように出現した魔法陣から、見覚えのあるピンクブロンドの髪の美少女が飛び出してきた。
「わっ、ミスリルライラ!?」
そういえば彼女は「転移」の天資に恵まれていたっけ。急に出てくるから驚いた。
ミスリルライラは親友で、私の恋の相談役……。
拗らせた片想いの末に、緊張してセルジュへの告白ができない私に「それなら練習すればいいのよ」と、シヴィ様を連れてきた張本人だ。
「ちょっと、ミスリルライラ! 貴女のおかげで大変なことになったのよ!」
「なになに〜、もしかして告白がうまくいっ…………ちゃったの!? ぶはっ」
「もお、笑いごとじゃないんだからね!」
本気で笑ってる場合じゃない。
それなのにミスリルライラときたら、大口を開けてゲラゲラと大爆笑している。
見た目が〝儚げ美少女〟なだけに、残念すぎるギャップだ。
「あはははっ、まさかあのシヴィが、ねぇ……。いったい、どんな口説きかたしたのよ?」
「それは……、セルジュが相手だと思ってたから」
仕事熱心なところを尊敬してるだとか、なんだかんだで面倒見がよくて優しいところが昔から好きだったとか……言った気がする。
シヴィ様は、そんな私の話を真剣に聞いてくれてたっけ。
「それで……そのままのアナタが好きだから、弟子じゃなくて、恋人にしてって言ったのよ」
「へ〜、ふぅ〜ん」
にやにやしながら、ミスリルライラが何かを悟ったような顔をしている。
「な、なによ、その顔」
「カヤは、外見とか家柄については、なにも言わなかったんだ」
「当たり前でしょ。相手はセルジュよ?」
セルジュは研究一筋で、見た目は悪くないけど外見を磨くような質じゃない。天才といわれながらも、生まれは庶民だ。
それを言ったら、私だってぱっとしない容姿だ。髪はくすんだ赤毛で、瞳はよくある琥珀色。親には捨てられ、天資持ちじゃなかったら終わってるのでは?
「ふ〜ん……カヤの想いが、シヴィの心にぶっ刺さったのだけは分かったわ」
「えっ、どこが?」
「まあ良いんじゃない? せっかくだし、シヴィと付き合ってみれば? もしかしたらセルジュに、やきもち妬いてもらえるかもしれないわよ?」
「そんなこと、できるワケないでしょっ!」
だって私が好きなのはセルジュだ。
シヴィ様は、確かに素敵で、近づいたら良い香りがしてクラクラしたけれど、そういう問題じゃない。
「どうしよう、ミスリルライラ……」
「嫌なら、正直に言うしかないんじゃない?」
「そう、だよね」
「シヴィは、本当に忙しい人よ。もしかしたら、やっぱり付き合えないと言われるかもしれないし」
「たしかに!」
魔法協会所属の魔法使いは、基本忙しい。
国からの要請をうけて、魔物討伐にしょっちゅう駆り出されている。シヴィ様ほどの魔法の使い手なら、とくに多忙だろう。
親友のミスリルライラも協会所属だから、会えない日が続くこともある。
「そうだね、次に会ったらもう一度話してみる。本気で私を恋人にするとも思えないし……」
シヴィ様にはちゃんと謝って、それから改めてセルジュに告白しよう。
そう決意をかためた私は、セルジュの待つ研究室に戻ることにした。
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