16 男の正体は。
ブクマくださった方、有難うございます!
「やっと会えたね」
「ええっ……、と?」
一体、どこの誰なのか。
知り合いではないはずだ。たぶん。
太陽のように眩しく輝く金髪に、深海をイメージさせる青色の瞳。「完璧」という言葉がぴったりなほど、なにもかもが端正すぎる容姿の男性だ。
こんな美しい人なら、一度会ったら忘れるわけないと思うんだけれど。
「あの……人違いでは?」
「まさか。エスペランサが間違うわけない」
「エスペランサ、というのは——……」
私はネコの姿をした精霊に視線をうつす。
クッキーを咥えたまま、トテトテと青年のもとへ駆け寄っていく姿は愛らしい飼いネコそのものにしか見えない。
けれど……本物のネコでないことが今の私にはわかる。しかも人間と意思疎通ができるようだ。
普通であれば人間と精霊が言葉を交わすことは無理だ。それなのに目の前の男は、ペットのごとく精霊を操っている。
「何故……精霊を使役しているのですか?」
「エスペランサが精霊だって分かるんだね。その感じだと、天資も取り戻したというところかな?」
「!」
何故、それを知っているのだろう。
私を含めて数人しか知り得ないことなのに。
驚きと同時に、どうしたって怪しいと勘繰ってしまう。
「……あなたは一体、誰なんですか?」
「ボクは、」
言いかけで、言葉は遮られた。
「カヤ! その男から離れて!」
「っ、シヴィ様!?」
なにもない空間に突然魔法陣が浮かび、光のなかからシヴィ様が現れる。
「ゼファ! カヤに近づくな!」
ゼファ?
シヴィ様が呼んだ名前に私は驚いてしまう。その名は、この国の第一王子の名前ではなかったか。
まさかの本人だったりする?
たしかにウワサで聞いていた容姿と合致している。
困惑する私の前に、険しい表情をしたシヴィ様がやってきて背中に庇うようにして立つ。
「カヤには指一本触れさせない!」
威嚇するように言い放つシヴィ様の背中越しに、ゼファ様の表情が歪んでいくのが見えた。
同時にエスペランサが、シャーッと鳴く。
「おや、まだ生きていたのですね義兄上」
「えっ……」
この二人、兄弟なの!?
だとしたらシヴィ様は……。
「お前に義兄と呼ばれる日がくるとはね。縁はとっくに切れているものだと思ったが」
「そんなの嫌味に決まってるじゃないですか無能な義兄上。……それなのにお姫様はボクじゃなくて義兄上を選んだ……許せない」
仄暗い微笑みを浮かべ、ゼファ様がこちらに向かって歩いてくる。
嫌な予感しかしない。
私の周りに漂っている精霊達も、逃げるようにどこかへ行ってしまう。
「さあ、お姫様は渡してもらうよ」
「駄目だ。絶対にカヤは守る。カヤの天資は、おまえだけには渡さない!」
シヴィ様が風魔法で、ゼファ様を遠ざけようとしたものの一瞬で破られてしまった。まるで魔法を吸収したかのように掻き消えたのだ。強すぎる。
さらに、反撃をするようにエスペランサが爪を立ててシヴィ様に飛びかかってくる。精霊になんてことをさせるのか。
私を背に庇うシヴィ様の腕が、鋭い爪によって引き裂かれてしまった。
「っ、シヴィ様!!」
「僕のことはいいからカヤは早く逃げるんだ、セルジュ・エジリンの元へ!」
「……っ」
「早く!」
「そんなっ、シヴィ様をおいて逃げ、」
逃げるなんてできない、そう言おうとした瞬間、頭がズキリとひどく痛む。
見たこともない映像が、次々と脳裏に浮かんでは消えていく。
これは私の失っていた——記憶?
「カヤ!?」
「っ、こんな、ときに……」
シヴィ様の心配そうな声が聞こえてくる。
心から私のことを思っているのが伝わってくるようだ。
大丈夫だからと言いたいのに、痛みで、うまく言葉がでない。このままでは駄目だ。
……誰か……誰か、——助けて!
祈るような気持ちで、強く、そう思った時だった。
辺りが影が落ちたように薄暗くなる。
どこからともなく、バッサバッサと風を斬る豪快な音が聞こえてきて、頭を抱えながら私は上空を仰いだ。
「えっ、うそでしょっ……」
まさかの光景に私はギョッとする。
驚いているのは私だけじゃない、エスペランサはブルブルと震え、ゼファ様も目を丸くして空を仰いでいる。
無理もない。
だって、力強くはばたきながら、こちらに向かってくるのは、二体のドラゴン。
そう……私がつい先日、魔物を倒すために喚びだしたアセンデッド・ドラゴン達だ。
私の危機を感じて駆けつけてくれたのだろう。
「てっきり元の場所へ還ったと思っていたのに、そうじゃなかったのっ!?」
お久しぶりです。
仕事が忙しすぎて滞っておりますが、ゆっくりでも更新していきますので、宜しくお願い致します!