15ネコの正体
「精霊と対話できる天資、か……」
私の背中の紋様を観察しながら、セルジュはただただ驚いていた。シヴィ様が持っていたスキルが、もともと私が宿していたものだということも……。
「二つのスキル持ちとは、珍しいな」
「そうだよね。前にくらべて魔力量も増えているみたい」
「だろうな。だからこそ魔法使いになるべきだというのも理解はできるが」
「……」
「だが、道理と感情は別だ」
「……うん」
なにが好きか。なにがやりたいのか。
その気持ちは変えられない。
私は心から職人でいたいと望んでいる。
「安心しろ、おまえは根っからの職人だ。協会長には一度、オレのほうから掛け合ってみる」
「っ、セルジュ、ありがとう!」
なんて頼りになる保護者だろう。
これまでの不安が嘘のように和らいでいく。
私は心からセルジュがいてくれたことに感謝した。
□□□
今日は一日お休みをもらった。
また明日からは職人として働くつもりだ。
日が暮れる前に、私はシヴィ様に会いにいくことにする。
昨日ぶりだが、元気にしているか心配だった。
魔物討伐で魔力をかなり消費しただろうし、私に天資を返したことによって、なにか不調が起きていないかも気になるところだった。
お見舞い用に、クッキーを焼き、よく冷ましてから缶に詰めていく。
シヴィ様は甘いものが好きだろうか。もしも嫌いだったら持ち帰ってミスリルライラにあげよう。
職人達のいる塔と、魔法使い達がいる塔は、同じ敷地にあるため歩いていける距離だった。
だけど、それぞれが外部には漏らせない機密を抱えているため警備は厳重だ。身分証の確認と身体調査をされることになっている。
私は魔法具の納品で何度も足を運んでいるため、警備員に怪しまれることもないだろう。
さっそく職人の塔を出て、魔法使いの塔まで敷かれている石畳みを歩いていく。
すると、どこからともなく、が細い鳴き声が聞こえた。
『みゃあ』
「ん? ネコ?」
立ち止まって辺りを見回すと、するりと小さな影が動く。
真っ白な長い毛足に、ふさふさの尻尾。愛くるしい大きな金色の瞳。とても可愛いらしいネコだった。
「もしかして迷いこんじゃったの?」
ここではペットを飼うことは禁止されていた。
きっと散歩をしている途中で、敷地内に迷い込んでしまったに違いない。
『みゃあ』
私のまわりをクルクルと動きながら、大きな瞳で見上げてくる。たまに鼻をひくひくさせているから、もしかしたらクッキーの香りが気になっているのかもしれない。
「お腹空いてるのかな?」
缶をあけて一枚だけクッキーを取り出す。
おそるおそる口元にさしだすと、ハグっと勢いよく食いついた。
「かっ、可愛い〜!」
動物を飼ったことのない私は、この愛くるしさの虜になってしまいそうだ。
「撫でてもいいかな? いいよね?」
幸い、ネコは今、クッキーに夢中だ。
この隙に……と、私は和毛に手を伸ばす。
だが、触れた瞬間に気付いてしまう。
——あ、このネコ……精霊だ!
同時に、背後から声がした。
「よくやったエスペランサ。やっとボクのお姫様に会えたよ」
驚いて振り向くと、そこには目が眩みそうなほどの美貌をもつ青年が立っていた。