14きっと、もう大丈夫。
ブクマくださった方、有難うございます!!
「……シヴィ様の言ってたとおり、私達は、出会っていたんだ」
やけに鮮明すぎた夢の内容を思い出す。
多分、これは過去の出来事だ。
忘れているだけで、やはり私はシヴィ様と知り合いだったみたいだ。びっくりだけど、この数日で色々あったせいか、すんなりと受け入れている自分がいる。
「それにしても……、なんであんな所にシヴィ様が……」
痩せっぽちの少年。
まるで犯罪者のように投獄されていたシヴィ様。
重い鎖が擦れる音がよみがえって、胸がずきりと痛む。
過去の出来事とはいえ、いったい、シヴィ様の身になにが起こったのだろうか。
「それに、私はあのあと何をしたんだろう」
夢の続きが気になって仕方ない。
もう一度寝たら、見れるかもしれない?
ならばと、上掛けのなかに潜り込んだ瞬間、扉をノックする音が響いた。
「起きてるか? 朝食を用意してるから食べろ」
扉の向こうからセルジュの声がした。
「えっ、もう朝なの!?」
驚いて飛び起きる。
昨日、お昼寝のつもりでベッドに入ったはずが、日付けを跨いでしまったのか。カーテンをしっかり閉じていたせいで気付かなかった。
「正確には、もうすぐ昼になるが」
「ええっ」
「疲れているなら、寝ていてもいいが」
「大丈夫だから起きる! 起きるよっ」
まさかの大寝坊だ。
きっとセルジュはなかなか起きてこない私を心配して、来てくれたのだろう。
「すぐに行くから!」
私は慌てて顔を洗い、着替えをした。
夢の続きは気になったけれど、今日という日を無駄に過ごすわけにもいかない。
食事が終わったら、シヴィ様に会いにいくつもりだ。体調のことも心配だし、話したいこともたくさんあるから。
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「わあ、コレどうしたの?」
ずらりと大好物ばかりが並んだ食卓を見て、私は驚いてしまう。豪華。今日って誕生日だったっけ?
バターと蜂蜜がたっぷりとかかったトースト。ほどよく焦げ目のついた厚切りベーコンに目玉焼き。
それに皿いっぱいに盛られたイチゴ。つやつやしていて美味しそう。
「俺にできるのは、これくらいだからな」
そんなふうにセルジュは呟いて、ミルクをたっぷり注いだコーヒーカップを私にさしだす。
「セルジュ?」
「いや……、その、なんだ」
いつもと違い歯切れの悪いセルジュに私は首を傾げる。でも、その理由はすぐに分かった。
「本当に、すまないと思ってる。おまえの気持ちに気付かなかったことも、こたえてやれないことも」
「ああ、そのことなら……」
たとえようのない大きな喪失感に、私の心は悲鳴をあげる。涙が溢れそうになって、思いきり奥歯をかみしめた。
——私の恋は終わってしまったんだよね……。
すごく惨めで哀しいことには変わらない。
……けれど今は、昨日と違い消えてなくなりたいほどの絶望は感じていなかった。それが不思議でもあり、救いでもあった。
——私は、きっと、もう大丈夫……。
恋はなくなってしまったけれど、私の人生は恋だけじゃないって気付けたから。
「セルジュ、悪いと思ってるなら、私を助けてほしいの」
「は? え……」
「私、このまま職人でいたい。魔法使いじゃなくて、これからも職人として生きていきたいの。だから、力を貸して」
「魔法使い? 何故、そんな話になる」
意味が分からないといった様子のセルジュに、私はすべてを打ち明けることを決める。
まずは美味しい朝食をたくさん食べたあと、私はセルジュに、自分の本当の親がこの魔法協会の頭領だということ、失くした天資を取り戻したことなどを話した。