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9崇敬(セルジュ視点)

 怪我をしたミスリルライラを抱え、自室に連れて行く。


「汚れるから、やめて」

「もう遅い」


 口では抵抗しているが、体のほうは指ひとつ動かす力も残っていないようだ。

 俺はミスリルライラをベッドにおろし、怪我の状態を確認するため襟元に手を伸ばせば、また抗議される。


「ちょ、やめてよ」

「今さらだ。前にも見たことあるだろ」

「そういうこと言わないで」

「もう喋るな。傷口がひらくぞ」


 シーツに赤い染みが広がっていく。

 服を脱がせて血を拭う。背中に脇腹、腕に切り傷、……火傷までしているのか。酷いな。無事に帰ってきてくれて、本当に良かったと思う。

 後方支援のはずのミスリルライラが、こんな怪我を負うとは、よっぽどの戦いだったんだろう。


 俺は拙い治癒魔法をミスリルライラにかける。


 もっと魔法の勉強をしておけば良かったと悔やむ。

 魔力があっても天資(スキル)に優れていても、使いこなせなければ意味がない。俺は根っからの職人だが、夢が叶った今、魔法の勉強もはじめたほうが良いかもしれない。

 

「ごめん、セルジュ」

「なにがだ」

「カヤに頼ってしまったこと……。それしか方法がなかったから」

「…………」

「怒ってる?」

「いや」


 もしも俺が怒っているように見えるなら、それは俺自身に対してだ。


 カヤが行ってしまうのを止められなかったこと。

 カヤの気持ちに応えられず泣かせてしまったこと。

 冷たい言い方で傷つけることしかできなかった自分自身に吐き気がする。


 実際のところ、俺はカヤのことを特別だと思っている。自分の命を懸けるのも惜しくはないくらいに、出会った頃から大切に思ってきた。


『家族のように好きだ』とは言ったものの、俺のカヤに対する感情はどこか崇敬のようなものが入り混じっている。


 精霊に愛され、与えられたカヤの天資(スキル)は、世界のあらゆるものに干渉できる奇跡のような力だ。

 望みさえすれば人の感情や記憶、あるいは寿命さえも〝移す〟ことができるだろう。それはもはや神の領域としか思えない。


 初めてカヤが天資(スキル)を使う姿を目にした時、俺は畏怖を覚えた。無邪気に笑いながら、(たなごころ)のうえで人智を超えた奇跡をおこすのだから……。


 カヤに与えられた天資(スキル)を愛しく思う。

 ——穢したくない。まして恋や劣情を向ける存在になり得なかった。

 もし恋をするならもっと自由で気楽な関係がいい。たとえばミスリルライラのような……。


「ありがとうセルジュ。もういいよ」


 やがてミスリルライラの呼吸が穏やかになる。

 傷口も塞がったようで安堵する。


「痛むところはないか?」

「大丈夫……もう少し回復したら、やっぱりカヤを迎えにいくわ」

「無理はするな。むこうにはシヴィ・マハラスタンもいるんだ。カヤを守るはずだ」

「……そう、ね。カヤがいればシヴィだって命を削るような無茶はしないはず」


 ——シヴィ・マハラスタン。

 この国の魔法使いを統べる協会長の息子で、最強の魔法使い。そして……カヤの過去を知る者、か。

 

 俺は以前から気になっていることがあった。

 

「ミスリルライラ、……シヴィ・マハラスタンの天資(スキル)の紋様を見たことがあるか?」

「ないわ。魔法使いにとってスキルの細部を知られることは弱点にもなるから。とくにシヴィは厳重なくらい隠してる。だけど、四元素の魔法すべてを扱えるから、相当なスキルを持ってるはず……」


 そこまで言ってから、ミスリルライラは声をひそめた。


「気になるのは、シヴィは父親の協会長と、まるで似てないことよ。それに……」

「なんだ」

「シヴィに言われたの。何があってもカヤとセルジュを引き離すな……って」

「何故そんな話になる」

「それは色々よ……。でも、カヤを大切に思っていることだけは確かだわ」


 いったい何を隠してる。

 帰ってきたら問いただすしかないな。


 とにかく今は、無事に帰ってきてくれることを祈るしかない。



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