プロローグ 嘘の告白
「……すっ、好きなの。弟子じゃなくて、あなたの恋人にしてください!」
「うん、いいよ」
…………えっ、今、なんて?
「弟子はもともと募集してないから、恋人だったらいいよ」
「ええっ!?」
「ふふっ、そんな真っ青になるくらい喜んでもらえて嬉しいな」
「……でも、あのっ、」
「ああ、もうすぐ就業の時間になるね。つぎは僕のほうから会いにいくからね」
またねカヤ、と甘い声がそばで聞こえたと思ったら、次の瞬間、ちゅっと頬に柔らかな感触がした。
「ひえっ……」
キ、キスされたぁ——!?
呆然とする私に、シヴィ様は美しい瑠璃色の瞳を細めて微笑んだあと、転移魔法を使い、あっという間に去っていった。
ひとり花々の咲き乱れる庭園に取り残された私は、なんでこうなったと吐きそうになる。
「おかしいでしょ。私が好きなのはセルジュなのに、なぜシヴィ様の恋人にっ!?」
と言っても、悪いのは全部私なのだ。
絶対に断られるはずだから、という友人の言葉を鵜呑みにして、告白の練習代に利用したのだから……。
——シヴィ・マハラスタン様。
このアントレル王国で最強といわれる精霊魔法の使い手。
国家を支える「魔法協会」会長の一人息子で、麗しい見た目と実力から、年頃の女性達の憧れの的になっている。
たしか今年で二十三歳、だったかしら。
婚約者はおろか、恋人もいないという噂だ。
魔力量が多いことを示す漆黒の長い髪に、切れ長く涼しげな瑠璃色の瞳。端正な面立ちはもちろん、すらりとした長身に、優美な立ち居振る舞い。
夏でも肌を覆い隠すように、ぴっちりと襟詰めの黒衣を纏う姿は、どこか謎めいている。
そんなシヴィ様に言い寄る女性はあとを絶たない。
純粋な憧れ、玉の輿狙い、一夜のお相手でもいいからと、必死な告白現場を、偶然見かけてしまったこともある。
でもシヴィ様は考える素振りすら見せず、「ごめんね」と断っていた。なのに……
「なんで私はオッケーされちゃったワケ!?」
とくに特筆するような可愛い見た目をしているわけでもなく、よくありがちなダークブラウンの髪に、空色の瞳。
化粧っ気はなく、いかにも引きこもりの職人ですと言わんばかりに青白い肌をしている。こんな私を恋人にして、シヴィ様になんの得が!?
しかも絶対に振られるはずが、キ、キスまでされちゃったし……。
これはアレだ。自分の利のために、他人を誑かそうとした罰があたったに違いない。
ゴーン、ゴーンと、休憩の終わりを報せる重い鐘の音が鳴り響く。まるで私の恋も終焉だと告げられているみたいだ。
「詰んだ……」
あまりにも愚かで情けない自分に、涙が止まらなかった。
新連載はじめました。
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