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ダーティーエンジェル・ゼロ

作者: 水谷秋夫

   序章


「本気で好きだった人が亡くなったって、涙なんてそう出ないものね」

 鏡桐香は合鍵を使って村上健一の部屋に入ると、心の中で呟いた。

「涙を流している暇なんて無いんだから」

 健一が交通事故で亡くなったことを確認すると、桐香はすぐに健一のアパートに来た。健一は地方出身者だ。御両親などの遺族も近いうちにこのアパートに訪れるだろう。

 遺族は健一が桐香とつき合っていたことを知らない。桐香は健一の部屋にある、桐香と健一の思い出の品を取りに来た。それらは自分の手元に置いて、自分の痕跡は彼の部屋から消しておきたかった。

「あなたが健一の恋人だったの?」

 そんな健一のご両親の詮索はわずらわしい。葬式にも出る気は無かった。喧騒も疑問も同情もいらない。静かに彼の死を悼みたかった。彼との思い出は、自分一人の心の中だけに静かにしまっておきたかったのだ。

 机の上の二人の写真、彼の部屋に置いていた自分の歯ブラシ、いくつかの化粧品、健一の誕生日にあげたマフラー。これで全部だろうか。

 健一の机の中を開けるとノートがあった。めくってみた。

「実験が長引いた。桐香と夕飯が食えない。また桐香は怒るだろう。ああ、今夜やりたかった」

 殴り書きのような文字。自分との交際を書いた日記だろうか。そのページを見て、赤面しながら荷物の中に押し込んだ。そして部屋を出てまた鍵を掛けた。

 彼とのことは、それで終わったのだと思っていた。

 だが、それが全ての始まりだった。


   一


 健一の部屋から持ち帰ったノートは日記ではなかった。

「これ、研究ノートじゃないの」

 医学部博士課程の健一は、よく桐香に言っていた。

「ノーベル賞級の研究をしているんだよ」

 はいはい、とそう言われるたびに桐香は受け流していた。その研究ノートだった。

「まったく、研究ノートにデートに行けなかったとか、女とやりたいとか、書くものなの?」

 ぱらぱらとめくってみたら、健一の殴り書きは他に五ヵ所あった。いずれも研究のために桐香との約束をすっぽかしてしまったという内容だった。

「まったく」

 彼との付き合いは会いたくても会えない、の繰り返しだった。研究ですっぽかされた回数はその二倍くらいあっただろうか。ただ、健一は平気ですっぽかしていたのではない、ということは伝わってきた。

「まったく」

 三度目の、まったく、を呟いてから泣きそうになった。潤んだ瞳で、桐香はノートを1ページ目から見直してみた。


 健一は博士課程の医学生だった。桐香は同じ大学病院の看護師だ。ある日、過労で倒れた健一が大学病院で治療を受けている時に、担当看護師になったのが桐香だった。

「医者の不養生だな。面目ない」

「その通りです」

 桐香の言い方には容赦がなかった。

「医者が早死にしたら患者も看護師も迷惑ですからね」

 そんな言い方を、健一はなぜか気に入ったらしい。にこにこしながら、了解、と言った。

「ところでいつここを出られるのかな」

「(医師の)先生がいいと言うまで。血液検査の数値が悪いから、二・三日は無理って言っていました」

「ああ、それはまずいな」

「どういうこと?」

「作ったばかりの薬品が二十四時間経つと変性する。それまでにマウスに注射しないと」

「駄目です。二・三日は病院にいてもらいます」

「うーん」

 なんとなく予感がして、桐香は夜勤看護師との交代前に健一の部屋に行ってみた。健一が病院を抜け出そうとするところだった。

「メスで刺されるのと、鉗子で目を潰されるのと、どっちがいい?」

 桐香に脅されると、健一は大人しくベッドに戻った。


 退院の日、健一が桐香を誘った。

「お世話になったんで、一度飯を食いにいきませんか。おごりますよ」

「いいけど?」

 なぜその時、OKをしてしまったのか。桐香には何かしら予感めいたものがあったのかもしれない。

 健一の指定した場所はファミリーレストランだった。

「社会人とのファーストデートがファミレスなの?」

と問うと、健一は、

「面目ない」

と言った。

「何しろ、貧乏学生なものでね」

「わたしがおごってあげてもいいんだけど」

「少なくとも今日は俺が誘ったんだから俺がおごらないといけない」

「ああ、はいはい」

 変なところで律義だ、と桐香は感じた。

「それで、なんで私を食事に誘ったわけ?」

「ああ、桐香さんを好きになったから、これからお付き合いできないかなと思って」

 健一はあっさりと真意を告げた。

「私のどこが良かったの。村上さんは、マゾヒストなの?」

 健一が桐香を好きになる理由が桐香には測りかねた。病室を抜け出そうとする健一に、彼女は怒ってばかりいたからだ。

「マゾじゃないよ。ただ、大学に入ったばかりの頃に出来た彼女が、可愛い子だったんだけど、思っていることをため込むようなところがあって。溜めて溜めて、もうあなたとは駄目って泣き出すようなことがあって。桐香さん、言いたいこと止めないでしょ」

「それは時と場合によるけど」

「少なくとも俺には言いたいこと言うよね」

「たぶん」

「だったら、警戒しなくてもいいかなと思って。それに、たぶん知ってると思うけど」

「何が」

「桐香さん、美人だし」

「ちょっと待って。褒めてくれるのは嬉しいけど、その、知ってると思うけど、って何?」

「綺麗な女の人ってさ、自分が綺麗だってことぐらい知ってるよね。でも綺麗な人に綺麗だって言っても、えー、あたし、そんな美人じゃないですー、とか言って笑い出したりするの。俺、そういうの好きじゃなくて。そうです。私は美人です。それのなにが悪いの? って桐香さんなら言いそうな気がして」

「言うわけないでしょ」

「でも、自分が美人なのはわかってるよね」

「健一さんが私を美人だと思ってくれてるのはわかった。ありがとう」

 桐香は素っ気なく答えた。

「俺さ、無駄な謙遜は好きじゃないんだ」

 健一は話を続けた。

「医局で研究してると、時々いるのよ。私も研究してますけど頭悪いです、みたいなことを言う奴。本当に頭悪いんなら、ああそうなの、って言うだけなんだけど、頭いいのに頭悪そうなふりしてる奴は嫌い」

「健一さんはどうなの」

「俺? 天才だよ」

 いきなり、この男は何を言い出すのだろう、と思った。

「自惚れで言ってるんじゃないよ」

「ノーベル賞ぐらい取れるって?」

「取れるだろうけど、それは通過点」

「何の研究をしているの?」

「簡単に言えば、若返りの薬。ES細胞とかIPS細胞とか体性幹細胞って聞いたことある?」

「名前は聞いたことがある。よく知らないけど」

「簡単に言えば、分化し得る細胞。様々な臓器とか骨とか皮とかに変化し得る」

「それは知ってる」

「でも、例えば肝臓の細胞は分化してしまったから、もう肝臓の細胞以外に変化しない」

「それもわかる」

「オーケー。お姉さん、よく知ってる」

「それ以上は知らないけど」

「知らない人に説明できないんだったら、それは大した技術じゃないし、話してる人間は大した才能の持ち主じゃない」

「それで?」

「活性化って言ってるんだけど、分化しえない細胞を、薬を使って一時的に分化可能な細胞にまで持っていく。それはほうっておくと元の細胞に戻るけど、戻った時には新しい細胞になっている。それを全身でやれば若返る」

「へえーっ」

「ただその薬が不安定でね。ずっと監視していないといけない。というわけで、徹夜続きで倒れた。どうしても気になって病院を抜け出そうとしたら桐香さんに止められた。そういう話」

「ふーん」

「そのうち動物実験やるから、そうしたら論文を書く。すると世間は、もう大騒ぎだ」

「大騒ぎね。その天才さんを、医局の周りの人たちはどう見てるの?」

「遠巻きに見てる、って感じかな。ミーティングで話をすれば俺が優秀なのはわかるみたいだけど、やっていることは荒唐無稽だと思っているらしい。真面目に話を聞こうとはしない。出してくれる予算は最低限。でも、俺の邪魔はしないから好きにしている」

 そこに食事がやってきた。健一はハンバーグチキンカツセットをばくばくと食べた。

「食わないと体が回復しないからね」

などと言いながら。

 健一が食べる姿を見ながら、桐香は、まずいことになった、と思っていた。

(好きになってしまった。こんな厄介な男を)

 桐香は、自信満々な男が好きだった。自分自身が自信満々な女で、弱気な男は蹴飛ばしたくなるのだった。さらに、勢いよくものを食べる男、というのが、また好みだった。看護師の桐香にとって、ものを沢山食べることができる、ということは、病気から縁遠く生命力に満ちているということだからだ。


   二


 桐香と健一は付き合い始めた。とは言っても、二人とも忙しく、二人が共に過ごす時間を捻出するのは容易ではなかった。

 桐香の不規則な休日に健一の都合が合えば会う、という形で二人は共にいる時間を過ごした。それでも例えば映画を見に行って、そのうち半分の時間で健一が寝ていたということもあった。

「いやあ、いい映画だったな」

 その映画が終わってから健一がそう感想を述べた。半分寝ていたでしょ、と桐香が指摘すると、健一は

「最初と最後を見れば筋は読めるし、それに桐香の顔を見ればいい映画に満足したのはわかるよ」

などと言うのだった。なお、最初のファミレスデートが終わった次の機会には、健一と桐香の言い合いはさん付けが取れてタメ口になっていた。


 やがて桐香は健一の都合が良い時に彼のアパートを訪ねるようになった。夜に互いの都合がつけば肌を重ねた。桐香は看護師としての知識から、若い男というのは女を見れば裸にして抱きたいものだ、くらいの生理は知っていた。したければどうぞ。健一と抱き合うのに抵抗は無かった。

「避妊はちゃんとしようか」

 多忙な看護師とそれ以上に多忙な博士課程の学生は、その点で一致していた。

「結婚はともかく、子供を育てている暇はお互いにないよね」

 いずれ結婚しようと健一はよく話していたが、週に一回会えるのかどうか、という状況でどんな結婚生活になるのか二人とも予想がつかなかった。ましてや子育てなど想像も出来なかった。

 健一はしばしば研究実験の時間が延びてデートをすっぽかした。外でデートする予定だったのに、桐香は一人で映画を観たり一人でファミリーレストランで食事をしたりという羽目に陥った。

「こんな男となんで付き合っているんだろう」

 桐香はしばしばそんな独り言を言った。だがそれは、桐香が健一を好きだからだ。結論は当たり前すぎていた。

 健一と約束してアパートを訪ねたのに、彼が大学から帰ってこないこともあった。

「これが他の女と付き合っているって言うんなら、別れてやれるんだけど」

 健一は化学反応だの動物実験だのに熱中しているのだ。すると好きな女のことは頭から抜けてしまうのだ。そして桐香はそんな、何事かに熱中している男が好きなのだった。

 一人で健一のアパートにいる時、桐香はよく掃除をした。万年床を上げて掃除機をかけた。桐香は健一の体臭は嫌いではなかったが、健一の部屋に籠る男の生活臭は好きになれなかった。窓を開け、ゴミを片付け、埃を払い、生活臭が消えて健一の匂いの残る部屋に自分の匂いが混じっていくのは心地よかった。

「おいおい、随分小綺麗になっているじゃないか」

 掃除を終えた頃に健一が帰ってきたことがある。

「俺の部屋じゃないみたいだな」

 すると桐香は、

「健康な体は、清潔な部屋から」

と答えた。なるほど看護師らしいことを言うね、と健一は感心していた。

「替えのシーツとふとんカバーはないの? 洗いたいんだけど」

 桐香の問いに健一が、ない、と答えると、桐香は自分の財布の金からシーツとカバーを買い、それまでに健一が使っていたものを洗ってしまった。

「私が汚いシーツの上や汚いふとんカバーの下で寝たくないから」

と言うのだった。

「特にシーツには、看護師としてのこだわりがある。皺ひとつだって許せない」

 健一はそんな桐香に苦笑した。

「彼女気取りとか、女房気取りとかとは違うんだな。誰の部屋だろうと、自分が寝る場所ならそこを自分流に快適な場所にしたい、ってことか」


   三


 ある日、健一が少し沈んだ顔をしていた。

「実験に失敗したの?」

 桐香が聞くと、健一は成功したと答えた。

「それなら、なんで暗い顔をしているの?」

「マウスは若返った。見た目は。でも、寿命が延びるわけじゃない」

 桐香は健一の言葉がよく理解できなかった。

「ええっと、どういうこと?」

「見た目の若返りは成功した。マウスは毛並も動作も若々しくなった。でも、若々しいまま、突然亡くなってしまう。計算してみると、若返らなかった時と寿命が変わらない。心臓、肝臓、腎臓、脳、肺、血管、病気の発生する場所、死に方はいろいろだが、まとめて言うなら老衰だ。見た目を若くしても、動物の寿命を決めるものは動かせないということだ。テロメアまでいじっているわけじゃないし」

 考察に苦しんでいた健一に対して、桐香は疑問を呈した。

「若返りの薬を作っているのだと思っていた。実は不老不死の薬を作ろうとしていたの?」

「ああ、言われてみればそうかもしれない。自分の考えている生化学的な反応がどこまで有り得るものなのか、達し得るものなのか。それしか考えていなかった」

「不老不死の薬なんて出来ないほうがいいじゃない。不老不死の薬を作って世の中に行きわたったらどんなことになるか、薬を作る前に想像してみたほうがいいんじゃないの?」

「うーん。考えたこともなかった」

「何かに夢中になると、ちょっとした近未来も頭に浮かばなくなるんだね」

「それを考えるのは社会というやつだな。社会にとって若返るか否か、選択肢があるのは悪いことじゃない」

「科学者は無責任だね」

「それは否定しない。でも原爆みたいに人を殺す技術じゃないから、まだましだと思う。いや、それは少し違うかな。例えばキュリー夫人。ウランを発見した。キュリー夫人がウランを発見しなかったら原爆が作られるのは何十年も後だったかもしれない。でも彼女が原爆製造に責任があるとは思わない」

「ウランの発見と原爆の製造は時間が経ち過ぎだと思うな。むしろそれなら核分裂の発見と原爆の製造のほうが例えに近いんじゃないの?」

「桐香は頭がいいね」

「馬鹿にしてる? 医学博士になろうってほどの頭はないけど」

「研究対象と現実をどう結び付けるか、という問題は俺はあまり興味がないんだな」

「科学者って、そういうのによっぽど気を使ってるんだと思ってた」

「たいていの科学者は身勝手でね。まず研究していて面白いものを研究するのが第一。第二はその研究に予算が取れるかどうか」

「呆れた」

 桐香が本当に呆れた顔をしていたので、健一が尋ねた。

「俺と付き合ってること、後悔してない?」

「健一と付き合っていることは後悔していない。それは自分で選んだことだから。後悔っていうか、悔しいのは自分で選べなかったこと。どうしてわたし、女に生まれたんだろう。女でなかったら、健一を好きになることもなかったのに」

 それを聞いた健一が目線を上げて桐香を見つめた。

「それ、それだ。今の言葉、すごいヒントになった。ありがとう」


 その後、健一はますます忙しくなった。桐香との約束をすっぽかすことも多くなった。

 そして、突然亡くなった。歩いている途中に交通事故に遭った。事故現場に近かった救急病院に運ばれたが、そのまま亡くなったという。

「過労死の心配ばかりしていたのに、交通事故だなんて」

 いや、疲れていたから、車に対する注意力が鈍くなっていたのかもしれない。


 桐香は手に入れた健一の研究ノートを読んだ。ノートは、まず若返りの薬について書かれていた。その原理は桐香にはよくわからなかった。ノート自体は何をしてどんな結果が得られたのかが主体で、原理の詳細は健一の頭の中にだけあったものらしかった。ただ、若返りの薬を合成するのに使う薬品は、それほど特殊なものではなかった。合成方法も簡単とは言い難いが、高価な器具が必須ではないことは桐香にもわかった。その薬品の混合率を変えることで、どの程度若返るか調整できるようだった。つまり、それなりに苦労はしそうだが、桐香にも作れないことはない薬品だった。

 断片的な研究経過は桐香も健一から聞いていたが、その内容は詳細にノートに書かれていた。実験結果の細かい数値などもノートにびっしりと記載されていた。健一は生活にはズボラなところがあったが、研究の記録には几帳面だった。

 健一が話していた、実験動物、マウスの寿命の話もノートに記してあった。見た目は若返る。だが、その見た目とは何だ、と健一は記していた。

「結局、動物の寿命は体の内側の、見た目ではないところで決まっている。細胞を若返らせれば何もかも若くなる、という単純なものではない」

 そんな一文があった。

「それならこの研究は革命的なものではなく、やっていることは美容外科と大して変わらないし、大したものではない」

 この一文がその先に続いていた。女性の桐香にしてみれば、見た目が若返ることは大問題なのだが、そうした感覚は健一になかったようだ。

 日付を見て、自分の手帳を見直すと、その翌日が桐香と健一のデートの日だった。

「桐香にヒントをもらった」

 健一はそう書いていた。この頃の研究ノートには、そうした研究には直接関係のない情報がよく殴り書きで書かれていた。そうしたことをしたくなる心境だったのかもしれない。

 そして、何日か後に、こう書いてあった。

「性転換薬が作れる」


   四


 健一によれば、活性化された細胞は一時的にどちらに行こうかと迷っている状態にあるという。放っておけば元に戻るのだが、その前に性ホルモンを加えて「雄になれ」「雌になれ」という方向性を与える。すると、その方向に向かおうとする、というのだ。

 体内の細胞は隣に何の細胞があるか、ということに制約を受ける。例えば肝臓の細胞の一部を活性化しても、その細胞を取り巻いているのが肝臓なら肝臓の細胞に戻る。性差も似たようなもので、睾丸の細胞の一部を活性化しても睾丸に戻る。だが全身の細胞を活性化して、女の細胞になれ、睾丸全体の細胞に卵巣になれ、と方向性を与えると卵巣になろうとするのだ、という。

 そうノートに書き殴ってあるのだが、桐香には何を書いているのだかよく理解できなかった。ただ、理解はできないが、健一が書いているものだからそうしたものなのだろう、と思った。

 その後は実験結果が記されていた。マウスで雄から雌、雌から雄、双方に成功したらしい。成功したら、さらに連続性転換に挑んでいた。雄を雌にして、その直後に雄にした場合、雄と雌が混在する体になったという。何日間か間を置けば、正常な雄や雌になるという。

 正常な、という書き方に少々違和感があった。性転換した後のマウスの性は、正常な性と言って良いものなのだろうか。ともあれ、健一は

「人間なら半年以上の間隔があれば大丈夫だろう」

と書いていた。

 ノートには薬品の使用方法が事細かに書いてあった。以前に健一が話していた通り、細胞活性剤は不安定な物質で、A液B液を混合してから二十四時間以内に使わなければならない。それから、人間の場合の使用量はマウスと人間の体重差から、人間に使う場合の薬品の量を計算していた。

「人に試す前に猿に試してみたい」

 健一はそう書いていた。なるほどマウスよりも大きな動物で様子を見たいところではある。しかし、健一は亡くなってしまい、その機会はない。だが、と桐香は思った。これだけノートに書かれていれば、自分でも試せるのではないか。薬品と器具も自分には揃えることが可能なようだし、猿を手に入れるのは大変だが、犬猫の類いならできるだろう。

 そこまで考えて、桐香はいったん帰省することにした。彼女の実家では猫を飼っていたのだ。


 桐香の実家は東京の下町にある。都電荒川線が近所を走り、数分歩けば昔ながらの商店街に出る。

「桐香が帰ってくるなんて、珍しいね」

 東京都国立市の大学病院に勤務するため一人暮らしを始めてから、桐香は多忙を理由に滅多に帰省することはなかった。

「タマが子猫を産んだっていうから、久しぶりにタマの顔を見たくなって」

「ふうん。タマが子猫を産んだのはもう一ヵ月も前だよ」

 母は不満そうだった。

「それに、親よりも猫なのかい?」

「お父さんは、仕事?」

 植木職人の父は、曜日関係なく、天気が良ければ仕事に出ることが多かった。

「そう、朝から仕事。ああ、この間、庭の桐の木を見てため息をついていたよ。この木が役に立つのはいつだろう、って」

 父は娘が生まれた時、桐の木を庭に植えていた。娘が結婚する時に桐箪笥を作るのだと言って。それは桐香が幼い頃からさんざん聞かされた話だ。桐香、という名前もそこから取られている。箪笥を作れるほど桐は育ったが、いつ嫁に行くのか、と言う。

「庭の桐ね。役に立つのはすぐじゃないと思うよ」

 恋人が出来たと思ったら、あっという間に亡くなってしまった。桐香は結婚どころか、男性と付き合う気にもなれなかった。

「やれやれ。最近はほら、お見合いを世話してくれる人もなかなかいないからね。お兄ちゃんもどうなることやら」

 桐香には独身の兄がいる。いわゆる転勤族だが、現在は大阪在住のサラリーマンだ。だから桐香の実家には父母が住んでいるだけだ。

「子の頭の出来が良いからといって、植木屋が息子を国立大に、娘を看護大学にやるのは勇気がいった。でもそれは、夫婦二人だけで住むためか、って、お父さん、愚痴を言ってるよ」

「はいはい。すみませんね、親不孝の兄妹で」

 会話が毎度の流れになったところで、桐香は軒下に飼い猫を見つけた。

「タマ、お久しぶり」

 親猫の周りには、子猫が纏わりつき、子猫同士で遊びまわっていた。

「もう乳離れしたみたいだね。それで、雌猫を一匹もらいたいんだけど」

「独り者の娘が猫なんて飼うもんじゃないよ。婚期が遅れるよ」

「私じゃないの。病院の先輩で、子猫がほしい、って人がいるから」

「その人は独り者なの?」

「独身だけど、親元から通ってる人」

「ああ。じゃあ、好きなのを持っていって」

 桐香は雌の子猫を一匹実家から持って帰った。

 彼女はひとつ、嘘をついていた。

 病院の先輩は、飼い猫が家で子猫を産むのは避けたいと言っていた。雄猫が欲しい、と言っていたのだ。


「ごめんねぇ、女の子だったのに」

 子猫を連れてアパートに戻り、麻酔をかがせて子猫を眠らせた。そして桐香は細胞活性剤と男性ホルモンを混合した薬品を、注射器を使ってゆっくりと猫の静脈に注ぎ込んだ。

「人間だったら薬品の量が増えるから点滴を使わないといけないな」

 何も知らぬ猫はすやすやと眠っていた。

「これで目が覚めたら雄猫の筈」

 猫の股間を開いて、桐香は陰部を見つめた。鏡家では桐香の小さなころから雄猫も雌猫も飼っていた時期がある。桐香には子猫でも股間を見れば雄雌の区別は容易についた。目の前の眠っている子猫の股間には、コーヒー豆のようなものがあった。それが数時間かけて無くなっていき、丸い小さな突起が見えてきた。

「ああ、本当に男の子になってしまった」

 目を覚ました子猫はキョトキョトと周りを見たり、体を丸めて自分の足を見つめていたりしていた。落ち着かないのだ。

 その日、桐香は猫といっしょに眠った。翌朝にはもう猫は落ち着いて、朝食をねだっていた。

「順応が早いね。この子は」

 翌日、桐香は約束通り、病院の先輩に子猫を渡した。先輩は何の疑いも持たずにその雄猫を受け取った。


   五


 桐香が少女時代の記憶を思い出すと、学校でヒーローは常に男の子だった。例えば、大雨が降るから川には近づくな、と学校で先生に言われたとする。そうすると、翌日、増水した川を見に行った男の子がいるのだった。

「ゴーゴーと水が流れてて、土手のもう目の前まで来ててさ、足を伸ばしたら水に届くんじゃないかって思ったね」

 そんな風に大袈裟に解説するのを聞いて、無茶をするものだと呆れながらも、桐香はどこか、そんな男の子が羨ましかった。女はそうした時に、独りで無茶をするのは難しかった。女たちは女の集団である共同体の維持が優先され、その共同体から突出することが困難な傾向があった。

 もうひとつ男が羨ましかったことがある。桐香は中学・高校と陸上部にいた。中距離走で、都下では十位以内の速さだった。高校三年生の時、都の大会で決勝まで残った。ただ、どんなに女が速く走れても男の方が速い、という事実は頭の中にあった。それに注目度でも、どうしても男のほうが高かった。

 つまり一度でも、男になりたい、と思ったことがない女などいない、という話だ。

 だからといって、簡単に男になれるような手段は通常無い。だがいま、桐香の目の前にそれがあるのだった。

 それに桐香は、健一の残したものを形にしたかった。若くして亡くなった、愛する天才の残した仕事を実現したかった。ただそれは、世間に知らしめるものにしようとしたものではなかった。自分にさえ、わかれば良いのだった。

 つまり、実験台は自分しかいなかった。


 ひと通りの準備がすむと、桐香は辞表を書いた。

 看護師長に辞表を渡すと、驚かれた。

「おめでたい話があるの?」

「いえ、違います」

「よかったら、わけを教えてくれない?」

「看護師をやっていくのに疲れたので、少し休もうかと思って」

「ふうん」

 看護師長は、信じ難い、という顔をした。

「この仕事を長くやっていて、わかるようになったことがあるの。世の中には、看護師になるために生まれてきたような人がいるんだって。あなたがそう」

 この人は何を言っているんだろう、そう桐香は思った。自分はそんな大層なものではない、と。

「あの、私は別に看護師に大した思い入れはなくて、手に職があれば食いっぱぐれはないかな、重労働だって言うから求人は切れないかな、体力なら自信があるし、って思ってやっていただけなんですが」

「ああ、それはむしろ良いことなの。だいたい、白衣の天使に憧れて、なんて人は、たいがい現実の壁にぶつかったら幻滅するものだから。そんな人が辞めたい、って言っても私は止めない」

 その看護師長の言葉には桐香も覚えがあった。桐香の同期にも、看護師になれたことが嬉しくてしかたがない、と言っていたのに早々に辞めた人がいた。

「鏡さん。あなたはこの病院じゃないかもしれないけど、きっと看護の現場に戻ってくる。私はそう確信してるから。覚えておいて」

 そう言いながら看護師長は桐香の辞表を受け取った。


 薬品は全て揃えていた。点滴などの用具も個人的に購入した。人間を対象とした時の薬品の量も算出した。

 さらに桐香は、男性の生活というものを思い浮かべて、男物の服なども買い求めた。

 住んでいるアパートでは近所付き合いなどをほとんどしていなかった。だから、この部屋に住む者が女から男に変わっても問題ないと思われた。

 あとは実行するだけだった。

「ここに越してきた時、布団じゃなくベッドにしておいて良かったかな」

 マウスの様子を見る限りでは、麻酔があったほうが良い、と健一は記していた。しかし、麻酔医のいない所で自分に麻酔をかけるわけにはいかない。とりあえず足は縛って、点滴をしているほうの腕も縛って、麻酔無しで実行するしかなかった。どう縛るか、を考えたら四本足があるベッドのほうが都合はいい。

「足と左腕は縛っておくかな。いや、右もか」

 手足全てを縛ることは無理だが、暴れたくなっても右腕の肘から先以外は拘束されるようにしておくことにした。ベッドの足から紐を伸ばして両足の足首と腹と点滴の針を刺す左腕と、それから右肩周りを拘束する。右肩周りの拘束は自由な右ひじから先の手で拘束を外せるようにする。体つきがどう変わるかわからないから、拘束するのは伸縮可能なゴム製バンドを使う。それから、

「食事は抜くとして、水ものも避けないと」

 自分の排泄物で自分のベッドが汚れる事態は避けたかった。

 あらゆる準備を終えた、と判断してから、桐香は性転換薬を作った。そして前もって買っておいた男物のブカブカのパジャマを着、それから自分をベッドに拘束して点滴を始めた。

「さて、と。それでは男になるとしますか」

 あえて軽い口調で独り言を言いながら、桐香は自分自身に点滴を始めた。


(痛い!)

 点滴を始めて数分してから、桐香の体はあちこちから痛みが出た。

(痛い、全部……、痛い!)

 体中の骨が軋んでいた。

 成長期の子供には成長痛が出ることがある。骨が急激に伸びている時期、寝ている時などに下肢が痛んだりする。それは月に一センチも背が伸びる頃の話だ。

 男性になろうとしていた桐香は、一晩で十センチも背が伸びようとしていた。当然、痛みは成長痛の何百倍何千倍というレベルに達した。メキメキギリギリと軋む痛みが全身に現れた。

(ううー、やめたい。痛い、もうやめたい)

 肘から先が自由な右手を振り回して点滴の管を抜きたい、と何度も思った。しかし、踏み止まった。

(女か男か半端なところで止めると、どうなるかわからない)

 性転換薬の効果が半端な所で止めた後、通常の雄や雌に変化させられるのか、という実験は健一も桐香も試みてはいなかった。

(とにかく、耐えないと)

 健一のノートには、人なら四・五時間とあった。

(まだニ十分。四時間ならあと三時間四十分。五時間ならあと四時間四十分)

 桐香には、永遠とも思えるほどの長い時間だった。


「うー、痛かった。ニ十回くらい、やめようかと思った」

 四時間半ほど経って、ようやく体の中の痛みが治まってきた。すると、体を拘束していたベルトがきつくなっていることに気づいた。

「体が大きくなってる?」

 あるいは、太くなっていた。

 桐香は拘束バンドを外した。ブカブカだったパジャマはちょうど良い大きさになっていた。

 パジャマを脱いで、全身が映る鏡の前に立った。

「これが私?」

 本当に男の体になっていた。なぜか、笑い出したくなった。

「わりと、いい男じゃない?」


   六


 しばらく桐香はアパートの中だけで過ごした。立つ、歩く、座る、そうした動作それぞれに違和感があったからだ。特に、歩くのは難しかった。転びそうになったり、足が絡まりそうになったりした。

「女と男って、歩き方から違うんだね」

 女の足は内向きで足跡が一直線に近い。しかし、男の足は外向きで足跡は明瞭に二直線になる。ところが桐香は女の歩き方の記憶が残っていて、男の体だと歩きにくい。それに歩くだけでも普段使わなかった筋肉を使っているらしく、筋肉痛にもなった。

「それに食い扶持も違うね」

 男になってから食べる量は三割増しになった。前もって二週間くらいは一人で暮らしていけるくらいの備蓄をしていたつもりだったが、十日ぐらいで無くなりそうだった。

 そして、肝心なことがある。

「これ、どう扱ったらいいんだろう」

 男性器だ。

 とりあえず、普段はブリーフの中に納めていた。トイレでは立小便をどうしていいかわからず、しばらくは座って行っていた。ある日、意を決して立ってやってみた。

「男の人って、やっぱり、結構外にこぼれる」

 コツをつかむまでは何日かを要した。それまで、トイレ周りの掃除を頻繁にしなければならなかった。

 そしてやはり、悩んだのは男の生理だった。

 女の裸を想像して興奮する、という話は聞いていたが、桐香はそうした女性を対象にした性衝動を男になった直後に感じることは無かった。女の裸など思い浮かべたくは無かった。ただ、それでも毎朝目が覚める度に男根は屹立する。これをどうしていいものかは、全くわからなかった。

「つまりこれ、やりたい、ってことね」

 男がのべつまくなしにここを立たせていたとは、いや、知っているつもりではいたのだが、それまでは知らなかった。

「健一が私に会う度に私を脱がせて抱きたがったわけだ」

 桐香はようやく合点がいった。

 一週間もするとようやく生活するのに慣れてきた。体がなまっていたので、買い物ついでにジョギングをすることにした。

 桐香の部屋はアパートの二階にある。階段を慎重に降りると、真下の部屋のおばさんに声をかけられた。

「あら、上のかたの、弟さん?」

 この一人暮らしのおばさんは時折見かけたことがあったのだが、話をしたことはなかった。男になった途端に話しかけられたので、面食らった。

「顔がそっくり」

 性別が変わっても、DNAは変わっていないのだから似ているのは当たり前である。

 それにしても、桐香とそれまで話をしたこともない階下のおばさんが、なぜ男になった途端に話しかけてきたのだろう。ひょっとすると、女には声をかけないけれども、男には声をかけたがる人なのかもしれない。とりあえず、話を合わせることにした。

「ええ、弟です。姉は仕事をやめて今は旅行中です。その間、住んでくれって言われまして」

 これは、例えば大家や不動産屋から質問を受けた時のために考えていた言い訳だった。

「へえ、そうなの。お姉さん、いいご身分ですこと」

 本人が目の前にいるとも知らず、おばさんは上階の桐香を貶した。もちろん、桐香は良い気分はしなかった。

「何かわからないことがあったら、何でも聞いて下さいね」

 何やら艶っぽい声だった。やはりこのおばさんは、男性相手だと愛想が良くなる人らしかった。

「姉のことを、いいご身分、などと言う人に、聞くことは何も無いです」

 そう言って、おばさんを後に残して桐香は立ち去った。恐らく、姉弟ともども愛想が悪い、などと思われたに違いない。それでいい。男の時でも女の時でも、この人とご近所付き合いをする気にはなれなかった。


   七


 体が思うように動かせるようになると、桐香はなまった体を鍛えようとジョギングばかりではなく、筋トレも始めた。男になった体がますます男らしくなっていくのを鏡で確認するのは楽しかった。男の体の汗臭さにも次第に慣れてきた。

 その頃には貯金も次第に少なくなってきた。働かなければならない、と思った。

 男になってどんな仕事をするのか。それは決めていた。桐香は、自分が男だったらこんな仕事をしたい、と思っていた職業があったのだ。

 桐香は建設現場で肉体労働のアルバイトを始めた。女に持てないものを持ち、女に運べないものを運ぶ仕事だ。男にしか出来ないレベルの力仕事をしてみたかった。

 履歴書が必要な時は、自分の高校までの履歴を書いた。名前は、自分が男だったら次男坊だったなと思い、鏡桐次郎とした。それで特に調べられることはなかったらしく、何も言われることはなかった。


「おうっ、そこの鉄パイプ、片付けといて」

「はい、わかりました。親方!」

「あー、俺は親方じゃなくて、現場主任だから。そういう言い方はやめて」

「あ、はい。すみません、主任」

「名前で呼んでくれ。高橋さん、でいいよ」

 桐香の父はベテランの植木屋で、弟子に親方と呼ばれていた。外で働く人の中で責任者は、誰でも親方と呼ばれているものと桐香は誤解していた。

 さて、肉体労働をしてみると、桐香は世の中に男性原理とでも言うべきものがある、と思うようになった。

 例えば健康な成人男子なら、一人で持てる重さの鉄パイプというものがある。それは現場では当然のように、一人が一本ずつ運ぶものとして並べられている。そしてそれは、一般の女性では筋力が無いから持つことが出来ない。

 そうした現場を見ると、ここは男が働くのが当然で、女が働くことを意識的か無意識的かはともかく拒否している、と桐香は思うのだ。

 働く話ばかりではない。桐香が行く本屋の中には、桐香の背丈では一番上の棚が惜しいところで届かない店がある。あと5センチ背が高かったら、と思うのだが、標準的な男性だったら余裕で届くのだ。男が生活するのに不自由はないが、女には不便、ということが世の中のそこかしこにあるのだ。これが男性原理だ。

 そしてさらに、女でなくなった利点と言えば……、桐香はカレンダーを見る度に実感した。女であれば、カレンダーを見て、いつ頃にあの鬱陶しい生理が始まっていつ頃に終わるのか、と頭の中で考える癖がついていた。しかし男になってカレンダーを見ても、それはただ日付と曜日を確認する漢字と数字の羅列に過ぎなかった。それはとてもとても気楽なものだった。

 そして男になった桐香はというと、そんな男性の生活を楽しんでいた。重くて持てなかった物が持て、届かなかった所に腕が届くことが嬉しかった。生理が来ないことは日々の重しが消えたことを指していた。化粧をしない分だけ、朝はゆっくり起きられる。旨いものを以前よりもたくさん食べられる。そんなことも含めて、桐香は男性である毎日が楽しかった。


   八


 それから季節が流れ、一年近く経った。桐香はいくつかの建設現場、工事現場で働いた。屋外での肉体労働は暑い日も寒い日もあり苦労もあったが、働いているという実感があって充実していた。

「食堂の姉ちゃん、鏡が好きなんじゃねえかな」

 そんな頃に、徹さんが笑いながら話しかけてきた。徹さんは仕事仲間だ。いくつかの現場で一緒に働くうちに顔見知りになった。食堂の姉ちゃんとは、桐香と徹さんが昼食時によく行く食堂で、注文を取りに来る女性のことだった。その食堂は、二人の働いているビルの建設現場から斜め向かいにある。味はそこそこだが、安くて量が多めの大衆食堂だ。

「へえ、そうなんですか」

「この辺の工事、何年か前にも来たことがあるから、俺、あの食堂の姉ちゃんと顔見知りなんだよ。それで今回、あら久しぶりとか言われて話して。そうしたら、鏡の名前を聞かれてよ」

「なんで、私の名前を?」

 女だった桐香は、俺とも僕とも言いにくくて、私と自称していた。

「教えたら、なんか、ごにょごにょ言って厨房に引っ込んでいった。あれは鏡が好きなんだろうな」

 仮に徹さんの推定が事実だとしても、その女性のことは食堂で働いている、と言うこと以外、桐香は何も知らない。

「どうだい、付き合ってみたら」

 徹さんは含み笑いをしながら尋ねた。

「興味ないですね」

 すると徹さんは、

「まあ、そうだろうな」

と今度はつまらなそうに答えた。

「いい子だと思うんだがな。ところで、鏡って、ゲイか?」

 このおじさんは唐突に何を言い出すのだろう。

「たぶん、違います」

「たぶん、ってのは何だ」

「男だけじゃなく、女にも興味ないんで」

「ふうん、鏡ってなんか、仕草が女っぽいんだよな。立ったり座ったりする瞬間とか、話し方とか。ゲイかと疑っていたんだが、男も女もどっちも興味ないのか。健康な男子がそれでいいのか」

 女だったことをばれないように行動しているつもりだったが、鋭い観察者が見れば通常の男性とは違いがあるらしい。桐香は少々焦った。

「大きなお世話ですよ」

 そう言いながら、笑って誤魔化した。

 その日も徹さんに誘われて、例の食堂に行った。例の若い女性が注文を取りに来た。どうしても意識せざるを得なかった。

 その女性は二十歳を少し過ぎたくらいだろうか。大学生のアルバイトかもしれない。目鼻立ちがはっきりしたほうではないが、整った親しみやすい顔をしている。

「あのっ、ご注文を」

「ああ、はい。麻婆定食」

「はいっ。まーぼーてーひとつー」

「嬢ちゃん、俺の注文聞いてねえぞ」

 徹さんが文句をつけた。

「ああ、すみません。なんでしょうか」

「俺だと愛想悪いな。生姜焼き定食な」

「はい。しょうがてーひとつー」

 嬢ちゃん、は、顔を赤らめながら、ててて、と小走りに去っていった。確かにこの女性は自分のことを意識しているのかもしれなかった。

 やがて麻婆定食と生姜焼き定食が運ばれてきた。彼女は桐香と目を合わせなかったが、笑顔で運んできた。

「ああ、嬢ちゃん」

「徹さん、食べましょう」

 徹さんは何か言いたがっていたが、桐香が声を被せると黙ってにやにやした。彼女が去ってから、また徹さんは、

「似合いだと思うけどな」

と言った。桐香は無視して麻婆定食を食べ続けた。

 帰り際、あの、とその女性に声をかけられた。桐香は黙って金を払い、彼女の声は無視して店を出た。

「冷たいねえ」

 徹さんは呆れたように呟いていた。


 桐香の体は健康な男性だった。

 心のほうも女性のものではない、と桐香は感じていた。男性と女性の脳がどう構造が違うのかは、学術的には議論があるそうだ。ただ、桐香には自分の脳が男性的になってしまっていると感じていた。

 男性の性衝動は強く、女性の裸、好きでもない女性でも裸を想像しただけで性的興奮状態に陥ることが多い。桐香自身もそれを何度か自慰も含めて体感した。現実に女性を抱くことは無かったが想像は何度もした。

 セクシャルマジョリティの女性だった桐香はセクシャルマジョリティの男性に変わっていた。それならLGBTの人が健一の性転換薬を使ったらどうなるだろう。健一なら興味深い研究対象と思ったに違いない。

 ただ、桐香は研究よりも自分の今後のことを考えていた。

 例えば、食堂の女の子と付き合ってみる。見た目から警戒心を抱かせる子ではない。徹さんの言う通り、いい子なのかもしれない。

 付き合って順調なら結婚が出来るかもしれない。現実に自分は男性の体になっているのだから、手術しましたなどと言って家庭裁判所に申し出れば性別変更が可能かもしれない。それが出来なくても二人で暮らしていくことは出来るだろう。そのうち子供も出来るかもしれない。そして男性として家族を持って暮らしていく。

 そこまで考えて桐香は首を振った。

 それは自分が女として生きてきた過去を捨てるということだ。それだけではない。健一の過去の一部も捨てるということになる。

 男性である桐香には健一に対する愛情という名の感情は薄れていた。健一を忘れたわけではない。だがそれは、過去に別れた友を懐かしむような心持ちに変わっていた。桐香が女だった頃、亡くなった健一を思い出すことは、決して失ってはならないものを失った狂おしい恋情を呼び覚ました。それは神経に針を刺すようなもので、桐香は健一のことを敢えて思い出さないようにしていたくらいだ。だが男である現在はその狂おしさが消えているのだった。ちょっと変わった面白くて忘れがたい人間がいなくなったことは同じであるにしても。

 彼が亡くなって悲しんだ女は、彼の母親だけになってしまったのだろうか。それは、彼が女を惹きつけていた部分が消えてなくなったということではないのか。

「わたしが男のままだったら、健一を好きだった女がいなくなったら、健一を男として覚えていた人もいなくなる、ってことなのかな」

 それでいい、とは桐香には思えなかった。


 徹さんらと仕事をしていた建設現場も終わりに近づいていた。桐香の仕事はあと数日となった。例の食堂に行く日も残りわずかだ。

「あの、お話しがあるんですけど」

 勘定をしていた時、注文を取りに来た娘から声をかけられた。

 自分が女だった頃、好きな男への気持ちが宙ぶらりんのまま定まらないのは苦痛だった。この娘もそうなのかもしれない。桐香は夕方、仕事が終わったら近所のファミリーレストランで会う約束をした。

「何か食べるか。おごるよ」

 席につくとそう声をかけた。

「あ、はい」

 彼女はスパゲッティボンゴレを、自分はとんかつ定食を頼んだ。

「あの、徹さんから聞いているかもしれませんけど」

 食事が来る前に彼女から切り出された。

「鏡さんのこと、好きなんで、お付き合いしてください」

 いきなり飾り気もなく、直接的なことを言われた。

「悪いけど、それはできない」

 直接的な物言いには、直接的に返すのが礼儀だろう。

「そうですか。あの、徹さんが言ってたんですけど、ゲイだっていうのは本当ですか」

「ああ、それは違う」

「じゃあ、好きな人がいるとか」

「好きな人はいた」

「いた?」

「亡くなった」

 彼女は衝撃を受けたようだった。

「そうですか。その人が忘れられなくて、ですか。亡くなった人には勝てませんね」

「まったくだ」

 なるべく嘘をつかないように話を合わせていたら、相手は納得したようだった。

 しばらくして、ボンゴレととんかつ定食が来た。

「とんかつぐらいならわたしが作れるのに」

「厨房で料理もしてるの?」

「バイト先で? してません。でも作るところは何度も見ているんで、覚えちゃいました。賄いで店のものを食べることもあるんですけど、比べても私が作った料理はあの店の味に負けてないです」

「へえ、すごいね」

「胃袋を掴むとか、言うじゃないですか。鏡さんに作ってあげて、とか考えていたんですけど」

 桐香が健一に料理を作ってあげたことはある。ただそれは生のものを食べられるレベルにするという程度で、桐香は料理が得意とは言えなかった。彼女は自分と違って良い奥さんになりそうだなと桐香は思った。

「その力は、別な男のために取っておいた方が良い。いや、自分で食堂をやってみるとか」

「私の料理を食べたいとは言ってくれないんですね」

 食べ終わり、店を出て、店の前で桐香は尋ねた。

「名前ぐらいは聞いておこうか」

「ミチです。未だ知らずの未知。黒沢未知です。覚えておいてください。いや、うん、やっぱり、忘れていいです」

 なんとなく気まずいまま、二人は店の前で別れた。


 次の日、仕事に行くと徹さんの様子がおかしかった。顔が歪んでいるように見えたのだ。

(片側だけ顔面麻痺?)

 話していることもおかしかった。

「のに、俺の顔、……見てんあよ」

「徹さん、駄目だ。仕事どころじゃない。救急車だ」

 脳梗塞、と直感が働いた。スマホで救急車を呼んだ。現場監督に事情を話しに行こうとすると、徹さんが、

「かってなこと、すん」

と追いかけてきて、転んだ。怪我は無いようだった。どうした、と言いながら現場監督がこちらに走ってきた。徹さんは起きようとした。

「動かないで。徹さん、そのまま」

 徹さんの体を横にして、気道を確保した。それから、ボタンやベルトを緩めた。

 監督に事情を話して、自分も休んで病院について行きます、と言った。監督は納得してくれた。

 救急車が来て、徹さんを担架で運んだ。付き添って救急病院にいった。やはり脳梗塞だった。病院で血栓溶解療法がおこなわれた。

 そのまま普通に働いていたら危なかった。急いで病院に連れてきてもらって良かったと医師に言われた。

「よくわかったね。動かさなかったのも良かった」

 桐香はそう褒められた。

 翌日、現場で最後の仕事を終えて見舞いに行くと、徹さんに感謝された。後遺症も特に残らないようだ、と言う。

「元気になってよかったじゃないですか」

「でも十日間は入院だってよ」

「それぐらいで済んで良かったと思わないと」

「なんで病気だってわかったんだ?」

「多少の心得があったもので」

 看護師でした、とは言わなかった。

「そうか。心得があるってことは、何かそういう仕事をしていたんだな。鏡さ、何があってやめたか知らんが、専門的な知識なり技術があるんだったら、そっちで稼いだ方が良いんじゃないか。今みたいな体力があれば誰でもできることじゃなくて。そのほうが稼げるし、俺みたいに助かる人もいるし」

 少々、不意を突かれた。だが、桐香の胸に刺さる言葉だった。

「考えてみるよ」

とだけ、答えた。

 病院の廊下に出ると未知がこちらに向かってきた。彼女も徹さんの見舞いに来たのだ。手提げ袋を下げていた。

「それ、徹さんの着るもの?」

「そうです。昨日のお昼に徹さんが救急車で運ばれたって教えてくれた人がいて。それで昨日の夕方、お見舞いに来たら着るものとか他に頼める人がいないって。鏡に頼むより、こういうのは女の子に頼みたいとか。徹さん、男女差別です」

「まったくだ。徹さんは古い人だから、そういう言い方をするんだな」

「私は親類でもなんでもないのに」

と言いながら未知は嫌そうではなかった。もともと人の世話をするのが好きなのだ。

「徹さんに妹さんがいるっていうから、連絡もしておきました。十年近く音沙汰なかったとか。でも妹さん、心配していたんで、仲違いしていたわけではないみたいです。今日来るそうです。妹さんが看病に来るなら私はお役御免かな」

「面倒をかけてすまなかったね」

「面倒をかけているのは鏡さんじゃありません。徹さんです」

「その通りだ」

 そう言って桐香は立ち去ろうとした。

「鏡さん、また会えますよね」

「いや、今日が最後かもしれない」

「それじゃ、お元気で」

「未知さんも」

 桐香が桐次郎になっている姿を人に見られたのは、それが最後になった。


   九


 男から女に戻る準備を着々と淡々と桐香は進めた。使用する性ホルモンが違うだけだ。一度おこなった作業なら、桐香にはもう手慣れたものだった。

「拘束のゴムはきつめにしないと。体が縮むんだから」

 違いはそれぐらいだった。

 性転換中の痛みも、すでに経験したことのあるものだった。予測があれば耐えるのは容易になる。

「ああ、でも縮むのと伸びるのとでは痛みの種類が違うか」

 そんなことを思う余裕もあった。

 五時間ほど耐えていると、痛みが遠のいていった。拘束具を取り外し、上半身を起こした。見下ろすと膨らんだ胸と、男性器の消え失せた股間が見えた。

起き上がって鏡を見た。女の裸が映っていた。

うずくまり、丸まって、自分の体を抱きしめた。

「わたしの体だ」

 小さくて、力のない、面倒な生理があって、セックスの度に妊娠のリスクを負う厄介な体だ。

 だがこれは、健一を愛して、健一に愛された体だ。その、「わたしのからだ」が帰ってきた。

 桐香の頬に、健一が亡くなった時にも流れなかった涙が溢れてきた。桐香はいつまでも、泣きながら自分で自分を抱きしめていた。

 男と女の間にある扉を二度開けて、一年近くの時を経て、桐香はようやく、健一の死を悼むことができたのかもしれなかった。


 薬品や器具を片付けていた時にスマホが鳴った。母からだった。出ると、

「久しぶりに桐香の声を聞いた気がする」

と言われた。ここ一年近く、桐香は両親からの電話には出ないでLINEで誤魔化していた。母によると、桐香としばらく電話でも話していない。様子を見に行こうか、などと父と話していたという。様子を見に来られて男の姿を見られたら、と思うと危ないところだった。

「次の土日、家に来れる?」

と聞かれた。仕事は何もしていないし用事もない。行ける、と答えると、お兄ちゃんが結婚しようと思っている人を連れてくる、と言われた。

「え? 初めて聞いた」

「お父さんもお母さんも驚いているところ」

「関西の人?」

「それが実家は巣鴨だって」

「近いね」

「関西で営業していて知り合った女の人が標準語で、話したら自分の実家と割と近いから話が弾んで意気投合したんだって」

「へえ。その女の人、なんで関西にいたの?」

「大学受験の時に、関西の大学しか受からなくて、それで関西に行って、就職先も大学で向こうの会社を勧められて、そのまま就職してしまったって」

「へえ」

「お兄ちゃんは土曜日に相手の女の人の実家に挨拶して、日曜日はお兄ちゃんが相手を連れてうちに来るって」

「ほう、緊張の二日間だ」

「他人事みたいに。桐香はそういう話はないの?」

「ないなあ」

 自分が男性だった時期に、兄は女の人とつき合っていたのか。時はそれなりに流れていたのだな、と桐香は思った。


「いやあ、緊張したけど、向こうの御両親が好意的でよかった」

 彼女の実家に挨拶した時の話を、兄は汗をかきながら話すのだった。それを聞いている、近いうちに桐香の義姉になるらしい女性はにこにこと笑いながら眺めていた。その目線はずっと兄を追っていた。よっぽど兄が好きなんだろう、と思った。

「桐香さん、仲良くしてくださいね」

と思っていたら、唐突に桐香のほうを向いてこう言われた。

「あ、はい、もちろん」

「そう。嬉しい」

 桐香の同意を得て、本当にうれしそうにしていた。顔が丸くて、性格も物腰も柔らかくて、絶対に敵を作らない女性だなと思った。見た目も性格も怜悧な桐香とは正反対だった。この人が兄の選んだ女性なのだ。

(身内とは違うタイプがいい、ってわけか。なるほど)

 なんとなく、合点がいった。

「それで、向こうのお父さんが、女の子が女になるのは早いなあ、って言ってさ。もう嫁に行くのか、と」

 兄は話を続けていた。

「女の子が女になるのは早いけど、女がおばさんになるのはもっと早いの。桐香も早くなんとかしないと。相手はいないの」

 いたのだが、あっという間に、親に話す前に亡くなってしまったのだ。だが、まだそんな話をする気にはなれなかった。

 健一が生きていたら、兄のように健一の家族に自分が紹介されたり、健一を自分の家族に紹介したり、という機会があったのだろうか。しかし、そんなことを今頃考えても詮無い。一瞬、泣きたくなった。

「ああ、うちの庭にはこの桐香が生まれた時に植えた桐の木があってね。この子が嫁に行く日が来たら桐箪笥を作ろうと思って」

 そして父は、人が訪ねて来ると必ずする話を、また始めるのだった。またか、と思うと、幸いにして桐香の涙が止まった。


   十


 健一の命日、桐香は初めて健一と一緒に食事をしたファミリーレストランに一人で出かけた。空いていて、お好きな席でどうぞと言われたので、あの日と同じ席に向かった。ただ、座った場所は自分の席ではなく、健一が座った席だった。頼んだものも、あの日健一が注文したハンバーグチキンカツセットだった。

 亡くなった人が好きなものを命日に食べることが供養になる、そんな話を桐香は聞いたことがあった。そうしたことをやってみたかったのだ。

 あの日の彼と同じものを食べようとした。それが桐香にとっての供養だった。しかし、この供養は容易ではなかった。

(男の頃ならともかく、量が多くて全部食べるのは無理)

 ハンバーグ、サラダ、スープは全て食べたが、チキンカツとライスは半分残してしまった。

(もったいない。男の真似はもうやめよう)


 健一の残した研究ノートにはまだ書かれていない空白のページがあった。そこに桐香は自分を検体にした人体実験の結果を書き込んだ。

 そのノートを閉じるとその表に太い油性ペンで

「私に万一のことがあったら公開すること   桐香」

と書いて小机の引き出しに入れた。

 結局、桐香は自分が亡くなるまで健一の研究成果を発表しないことにした。健一の研究は社会的インパクトが大きい。公表すればどれだけ社会が変容するかわからない。

 というのは言い訳でしかなかった。彼女は結局、健一と関係した秘密が欲しかったのだ。彼との思い出を自分だけのものにして小机に閉まっておきたかった。女が好きな男とやり取りした手紙を隠しておくように。


   終章


 いつまでも無職のままではいられない。桐香の手元には看護師の求人票があった。

 かつて桐香は看護師長に、看護師になるために生まれてきた人、と言われた。徹さんには、専門的な知識なり技術なりがあるんだったら、そっちで稼いだ方が良いんじゃないか、と言われた。二人の言葉は呪いのように桐香の頭の中に響いていた。

「結局、この仕事に還るしかないのかな」

 いくつかあった求人票の中に、健一が亡くなった時に担ぎ込まれた病院があった。いま住んでいる所から通える範囲だったし、何かの縁を感じた。

「ここにしようか」

 面接を受けると採用された。桐香は再び、看護師として働き始めた。


 新たな物語が始まろうとしていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 最後まで読ませていただきました。 自分も医療系なので、いろいろと考えさせられました。これからも頑張ってください。
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