第15話 大厄災④
ヴォルニカは飛翔しながら、爆発的に向上した知覚能力を駆使して砂漠の西側の状況を把握していた。
かつて生きていた時代に比べ、大幅に人間が増えている。一つ一つは砂粒のようだが、砂粒が無数に寄り集まり、数億もの塊となって暮らしている。
人間はあまり優れた栄養成分ではないが、それでも億ほども喰えば十分な腹の足しになる。憎き敵を殺した後は、満たされることのない腹を少しでも満たすために、人間どもをまとめて喰らい尽くすのも悪くないと思った。
(我が生きていた時代に比べ、この時代は始素の濃度が薄い。大地にも天空にも始素が少なくなっておるな)
ヴォルニカがかつて厄災の化身として暴れていた時代では、地上は濃密な始素に満ち、呼吸をするだけで十分に力を満たすことができた。だというのに、今の体たらく
は一体何なのか。これでは、自分が厄災の化身として暴れるまでもない。ただ力を解放するだけで、いくらでも死の大地を作れてしまうだろう。
(我以外の竜は力の解放を控えているということか。ならば、我が引き摺り出してくれよう)
竜とは自然の頂点に住まう最上級の生命体なのだ。ただ呼吸をするだけで、それが自然現象となり、数多の生命の生活環境を揺るがす。竜と戦うということは、自然の摂理そのものに反することと同等なのだ。
だというのに、人間どころか魔物でさえも自分に歯向かい刃を向けてくる。ヴォルニカにとっては、到底容認できない時代の変化であった。
(我の力でこの地上を再び死の大地にしてやろう。そうすれば、再び我を厄災の化身として崇める日が来る_____!)
ヴォルニカは、この地上を滅ぼしてしまえば自分を崇める者すらいなくなってしまうという、己の考えの矛盾には気づかない。
もはや厄災竜を支配するのは、誰に向けるべきなのかも分からない強い憎しみのみ。
(__________む?)
飛翔する速度を上げ、もうじき砂漠を抜けようとするところで。
ヴォルニカは砂漠の端に存在する、奇妙な気配を見つけた。
その気配は先ほどまで自分を止めようと奮闘していた聖騎士や魔物たちに比べても一回り小さく、ヴォルニカにとってはその先の中央諸国に蠢く羽虫のような人間と大差ないように感じる。
そんな小さな存在が、ヴォルニカの目の前に一人で立っていた。不可解極まる現象だが_____その目に写っていたのは、こちらを見据えながら、一切の怯えも畏敬も持たない、長い銀髪の人間一人である。
ヴォルニカはその存在を不快に思った。そんな存在は、人たち自分の力を知らしめてやれば、すぐに平伏するものだ。小さくなったにも関わらず以前よりも膨大なエネルギーを溜め込んだ肉体で伸びをするように_____思い切り力を発する。
途端に周囲の大気を黒々とした雲が覆い、砂漠の上を巨大な竜巻が形成される。
人一人であれば軽々と吹き飛ばす暴風が吹き荒れ、発せられた始素が稲光となって砂漠の上を走った。
人間一人に向けるにはあまりにも過ぎた暴威。それを前に_____シルヴィアは、表情を変えずに凛と佇んでいる。
荒れ狂う始素の暴風を、予め設置した結界で防御する。そして精神を乱すことなく、魔道具の発動準備を構えた。
そう、全てはこの時のために。この時のために、これまでのあらゆる準備が存在するのだ。
側から見れば、無謀という言葉すらふさわしくないほどに絶望的な戦力差である。
事実、全く力んでいないヴォルニカの始素量であっても、シルヴィアが全神経を込めて練り上げた始素の総量の千倍以上の量である。竜の基本技である『竜壊吐』であっても、シルヴィアは一発も耐えられないだろう。
だが、それでもシルヴィアは戦わなければならない。自分よりも大事なもののために。
(_____対竜結界、展開。第一管から第十七管までの全管発動準備。起動式、展開開始)
ヴォルニカの暴威を受けても怯むことなく、シルヴィアは用意した祈術を次々に発動する。右手に握るのは、地面に置かれた巨大な楽器である。
楽器には次々に封をされた箱が注入されていく。始素を補充するための燃料体であるそれは、シルヴィアが自前で用意せずとも大量の始素を用意することを可能にしていた。
注入された始素は規則正しく楽器中に行き渡り_____特定の管の中に入り込むことで、楽器全体が駆動する動力源となった。
(起動式の装填を開始。管内の始素を直前状態で維持_____)
シルヴィアの周囲の始素が蠢き、周囲に円陣を組み、地面に複雑な紋様を作っていく。
紋様の中に鎮座する楽器は紋様を作るシルヴィアの始素と接続され、楽器をシルヴィアの支配下に置いた。
(_____起動式装填完了。全ての封を解除。これより_____)
シルヴィアの手が楽器に取り付けられたボタンに置かれ、全ての準備が終わる。
ヴォルニカは、力を解放したにも関わらず全く怯えを見せないその人間にさらなる不快な気持ちを抱いた。
(何者だ?先ほどの聖騎士ならともかく_____こやつは、どこにでもいる脆弱な人間ではないか。何をしようとしている?)
ヴォルニカは、人間が構えている道具とその周囲で活性化した始素の動きを見て、この人間が何をしようとも自分には傷一つつけることがないことを確信した。
(全くもって無駄なことだな。あれでは、我が僕ですら殺せんぞ)
ヴォルニカはそう思い、弱い人間が自分に何をしても無意味であることを思い知らせるために、あえて何もしない選択を取った。
人間を跡形も消し去ることなど簡単だが、屈服させることの方がヴォルニカにとっては重要である。だからこそ、何もせずそこで人間が何をするかを観察することにした。
「_____これより、『戦場よ、白銀たれ』を発動。竜を穿て_____!」
そうして、シルヴィアの秘密兵器_____ビザント王国の技術の粋を集めて作られた、《《対ヴォルニカ専用の兵装》》が発動した。
巨大な管楽器の音が鳴らされ、砂漠に銀色の光が撒かれる。
音がヴォルニカの耳へと届き_____
突如、ヴォルニカの体が爆ぜた。
(_____なんだと?)
その爆発は、外側から衝撃を受けてのものではない。
ヴォルニカの体内に蓄えられた膨大な始素が、突如ヴォルニカの意識とは全く異なる動き方を始め、始素が制御を失ったことによって引き起こされた。
シルヴィアが発動した、強大な力を持つ魔物に対抗するための祈術_____『戦場よ、白銀たれ』の効果は至極単純である。
_____効果範囲内に存在する、《《全ての始素の制御を失わせる》》。
意思によって制御が可能な始素の制御を全て取り去ってしまえば、どうなるか。
膨大な始素を有する者は_____体内に存在する制御できぬ始素の暴走によって、内側から破裂させられることになるだろう。
妖鬼ほどの力であれば、あるいはなんとか制御を取り戻すことで対抗できたかもしれない。
しかし、ヴォルニカの力はあまりにも強大過ぎた。そのために、始素の制御を失うことは致命的な大打撃になりうるのである。
「ガアッッッ……!グオオオオオッッッッッッッッ!!!」
アグラによる『無空の先』も十分強力な攻撃であり、痛みを感じる攻撃であったが、今感じる痛みはその比ではない。
体を内側から焼き尽くされるかのような、苛烈過ぎる痛み。本来痛みを知らぬはずのヴォルニカにとって、その痛みは我慢ならぬほどに強烈なものであった。
暴発しヴォルニカの体を離れた始素は濃密な始素の瘴気となり、周囲に始素の竜巻を作っていく。漏れ出た始素だけでも、シルヴィアにとっては十分死の危険になりうる危険なものであるが、それをなんとか結界によって防御した。
ヴォルニカは想像を絶するほどに苦しんでいるが、シルヴィアとて何もないわけではない。
「……ぁっ……はぁ、はぁ……」
全身から噴き出る汗を拭き取り、倒れ込まないように楽器を手で支えることでなんとか体勢を保つ。『戦場よ、白銀たれ』を発動するには、いくつも準備が必要なのだ。
まず、空間の始素を支配するために必要な音を発するために必要な楽器の音を鳴らすことだ。この楽器を起動するには、一度に十数人分の祈術師の始素全てを使うほどに大量の始素が必要になる。それでも効果を考えれば十分に効率の良い武器なのだが、それをシルヴィア一人で発動するのは無理だ。だからこそ、事前に用意した始素補充用の道具を使って始素を補充している。
次に、楽器内の始素を音に乗せて発することで、空間内の始素の制御を破壊するのである。そのためには、音に乗せる始素の指向性を操作する、緻密な祈術師の制御が必要だ。本来は十数人の祈術師が同時に行うことを、シルヴィアはたった一人でやってみせたことからも、シルヴィアの卓越した才能が伺える。
そして何よりも難しいのは、始素の制御を失わせる音の反動が自分にもやってくることである。普通ならこれを抑える専用の祈術師が構え、反動によって操作する術師の始素が乱れないよう、後方で治癒を施し続ける。
だが、今のシルヴィアには後方支援をしてくれる存在などいない。自分に返ってくる反動は、意志の力で無理矢理ねじ伏せるしかないが、それには限度がある。
実際、今のシルヴィアもヴォルニカ同様、自分が纏っていた始素の暴走を抑えることに必死であり、力を抜けばそのまま全身から血を噴き出して死ぬことになるところだった。
だが、シルヴィアに休息は許されない。目を瞑り_____自分よりも大切な者の姿を思い出し、力づくで始素の暴走を鎮める。
「あぁ……ああああああああ!!!」
声を上げて気合を入れ、再度術の発動を再開する。
(おのれ……おのれ羽虫がああぁぁっっ!!!)
ヴォルニカは怒りの絶頂にいる。
いつまで経っても取り戻せない始素の制御を取り戻すため、ヴォルニカはあえて力を発散し外に逃すことで、体内で暴発することを防ごうとする。しかし、膨大な始素によって灼かれた肉体の修復は追いつかない。このままでは、力の大半を失い倒れることになってしまう。
たったの一度で、ヴォルニカが有する始素の量は半分以下にまで減っていた。始素が全てである最強の生命体にとって、エネルギーの枯渇は深刻な問題である。
始素を発散したことで、ある程度制御しやすくなった始素を損傷した体の部位に向け、修復を開始する。そして、二度目が発動される前に術を発動する人間を仕留めるのだ。
「今すぐに死ね、ゴミが_____!」
ヴォルニカは躊躇なく『竜壊吐』をシルヴィアに向けて放つ。
真っ直ぐに放たれた熱線はシルヴィアのいる場所に突き刺さり_____シルヴィアを蒸発させる直前で、シルヴィアの張った『対竜結界』によって守られる。
といっても、これほどの高威力を耐えるのはわずか数秒の話。結界が砕かれる前に、シルヴィアは再度『戦場よ、白銀たれ』を発動した。
再び砂漠に管楽器の音が響き_____ヴォルニカは、またしても肉体の制御を失うこととなった。
(許さん、許さんぞ人間風情がぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!)
また、今回はヴォルニカの体内だけで始素の暴発が起こったのではない。
ヴォルニカが体外に逃し空間に満ちていた濃密な始素も、突如として狂ったように爆発的な活性化を始めたのだ。
始素の暴風が、始素の雷が、始素の瘴気が、力を減らしたヴォルニカを襲う。自然現象によって傷つくなどあり得ないはずのヴォルニカは、それによって体外からもダメージを喰らうことになる。
そしてシルヴィアも、荒れ狂う外の世界から自分を守るための結界に全力を注ぐ。これによって暴走を始めようとする体内の始素の制御に割く意識が乱れ_____シルヴィアは、血を吐いて倒れることになった。
「あぁっ……がっ……はぁ……」
足はガクガクと震え、何も無かったはずの大腿部や腹部にも傷が開き、血が流れ始める。
激しい眩暈がして、立つことすらおぼつかない。それが自分のものとは思えぬほどに血が流れて、ボタボタと砂漠の地面に溢れていく。
生まれて初めて感じるその苦しみに、思わず涙がこぼれる。情けないことに、今すぐにも絶叫したくなるほどの恐怖心がシルヴィアに襲いかかる。
だが、もう後には退けない。
_____後悔など、微塵もあるものか。
そう思うと、再び力が湧いて出てくる。言うことを聞かない体を殴って黙らせ、結界の維持に全神経を注いだ。
そうして、始素が足りなくなった楽器に再度始素を補充。再び術を発動させるべく、自分の始素を練り上げた。
(ええ、私はいつまでも戦える。彼のためになら、この命が惜しくないと本気で思える)
シルヴィアは思い出す。
彼と歩いた街の景色を。
彼と食べた食事の色を。
彼と旅した自然の美しさを。
彼と登った山の雄大さを。
彼と眺めた海の広さを。
そっと繋がれた、その手の温もりを。
(_____大丈夫。私は負けない。絶対にあなたを救ってみせる_____瑛人!)
シルヴィアは再び術を発動させる。
徐々に力を失っていくヴォルニカと、徐々に体を壊していくシルヴィア。
共に滅び続ける二人の我慢比べは、苛烈を極めた。
__________
バンジはジオとの戦いを終えた後、仲間のシンハクらが戦う戦場へと赴いた。
禍竜の変容っぷりは遠巻きに感じる覇気だけで感じ取っていた。只事ではない事態に、自分が真っ先に馳せ参じるべきだと思い、腕を失う大怪我を負ってもなお、バンジは全速力で走り続けた。
バンジがシンハクらの元へと辿り着くと_____仲間たちは、砂塵獣が強化された個体、砂塵竜と交戦していた。一体一体がバンジを上回るほどの力を持った砂塵竜たちは、シンハクらを追い詰めていた。
「シンハク、加勢するぞ!」
自分と同等の力を持つであろうシンハクですらも追い詰める個体が、六匹もいる。バンジが加わらなければ、まずい状況になっていたかもしれない。
しかし、シンハクはバンジの参戦を拒んだ。
「ダメだ。お前は禍竜を追え!」
「バカ言うな!お前ら死にかけだろうが!」
「うるさい!それならお前の方が死にかけだろう!」
バンジは腕の一部を失っており、全身が傷だらけである。シンハクらも既に傷だらけで力を消耗しているが、この場で一番死にかけなのは確かにバンジであった。
「シーナに拾ってもらったら、すぐに西へと向かえ。あのまま行かせたら、人類は滅亡するぞ!」
シンハクも相当に無理をしているはずだが。バンジを安心させるために無理に不適な笑顔を作ってみせる。
それは、シンハク以外の仲間も同じだった。
「バンジさん、行って!私たちなら大丈夫!」
「あなたに頼るまでもないわよ!」
すばしこく動く砂塵竜を相手にするアユカとライカは、あちこちの服が破れ血を滲ませた状態でバンジにそう言ってみせる。特にアユカは頭部を負傷しており、とても無事にさせられる状態ではなかった。
「行ってくれバンジ!お前に心配されるのはこれが最後だ!」
「バンジさん、頼みます!あなたは先に行って!」
ザケルとハイブラも、苦戦しながらもバンジにそう告げる。
ザケルは既に片目が潰れており、とても無事であるとは言えない。ハイブラも、翼のあちこちに穴が空いている。だが、彼らはバンジを快く送り出そうとした。
「バンジさんお願い!貴方がいなくても、私たちはやれる!」
「行け親友。ここで俺らが止めてやるから!」
もう翼が半分しか残っていないミデラと、硬い外骨格の至るところにヒビを入れたオンドラもそう叫ぶ。
「お前ら……それ、死ぬやつが言うセリフだぞ……」
バンジは仲間達の不穏な発言にたじろぐが_____すぐに、自分の役割がここにないことを悟る。
「……一人も死ぬなよ。全員、生きて故郷に帰れ!」
「「「「「「おうっ!!!」」」」」」
そう言い残し、上から舞い降りた魔獣ブルタンに跨るバンジ。
ブルタンに乗っていたシーナも、決意を滲ませている。
「……っておい、なんでこいつがいる」
「よう。鬼の兄ちゃん」
ブルタンの上には、包帯を巻かれたアグラも乗っていた。
「危ないところをこの嬢ちゃんに助けてもらってな。助かっちまったよ」
「おいシーナ、今すぐこいつを空から突き落とせ」
「それはできません!この人だって一応、私たちの恩人ですから。それに、彼はとても強い人です。禍竜討伐にまだまだ貢献できるかもしれません」
「…………」
「お前さんの妹は、随分と良くできてるな。聡明で、その上別嬪さんときた」
バンジも、感情的になっていた自分を差し置いていたって合理的にアグラの必要性を明示してみせた妹の成長は驚くものである。だが_____兄としては、ちょっと複雑な気分にならなくもない。
「妹の成長は喜ばしいか」
「うるっさい」
揶揄われながら_____バンジも、禍竜ことヴォルニカの元へと急行した。
__________
「……こちらの方角か」
既に廃れた街を歩くのは三人の白い鎧をつけた者たち_____瑛人を討伐するために旧ビザント王国を訪れていたイルトの一行であった。
暴走した異世界人討伐のために動いていた彼らだが、アミル砂漠で起こった異変を受け、急遽砂漠に向けて急行していたのだ。既に砂漠の入り口付近の街へと到着し、これから砂漠の中へと入っていく予定である。
砂漠では、以前よりもさらに強大になった禍竜_____ヴォルニカの気配が近づいてきている。これを阻止しなければ、ビザント王国どころの話ではなく、中央諸国全てを巻き込むことになりかねない。
砂漠にはアグラがいるが、禍竜がさらに進撃しているところを見るに、足止めには失敗したのだろう。アグラでも無理な事態であれば、イルトが出るしかない。それが、アグラが持つことのできなかった聖王剣を握る、イルトの役目であると考えていた。
「急ぐぞ、砂漠の中で必ず動きを止める」
「「了解」」
同行するアウスドラとフレンダも、禍竜と戦うにおいては十分な戦力になりうる。イルトは闘志を研ぎ澄まし、厄災の渦中へと向かっていった。
砂漠を疾走していき、ようやく禍竜をその目に入れられる距離まで肉薄した。禍竜の姿は記録と異なり、以前現れた時の鈍重な四足歩行の面影は残っていない。背丈は五メートル程度にまで縮小し、翼を生やして宙に浮いている。秘める力は以前とは比べ物にならないほどに高まっており、魔人へと覚醒しているイルトを上回るレベルであった。
(信じられないな。私でも勝てるか微妙なほどだ)
イルトを負かすことができる者など、指で数えるくらいしかいない。禍竜はそこに含まれるほどには強く、イルトに一層の緊張感を与える。
しかし不思議なことに_____近づいていくと、次第に禍竜の力が弱まっていくのを感じる。禍竜が全方位に振り撒いていた威圧感は乱れに乱れており、保有する始素も急激に減少していた。
(_____なんだ?何が起きている?)
禍竜が有するほどの莫大な始素を減らすには、地形が変わり世界中の気候に影響を与えるほどの技が放たれる必要がある。しかし、禍竜が技を使ったような気配はなく_____むしろ、苦しみもがいているように感じられたのだ。
禍竜に苦しみを与えるとは、一体何が起きているのか。イルトは妙な胸騒ぎを覚えながらも_____さらに強く駆け出した。
やがて、イルトたちがヴォルニカの元へと辿り着く。
周囲の環境は濃密な始素によって地獄のような様相を呈しており、砂の大嵐が巻き起こっていた。
一般人なら入るだけで即死するほどの瘴気が立ち込め、聖騎士であるイルトらであっても気を強く保たねば瘴気に毒され狂気に陥るような世界である。
その世界の中心にいたのは、今でも全身から始素を吹き出し倒れている禍竜、ヴォルニカであった。どうやらただならぬ状況になっているようで、不可解を極める。
さらに周囲を見渡すと_____一箇所だけ、瘴気の影響を免れている場所があった。
「__________まさか_____!」
イルトがそこへと近づいていくと_____信じられない光景がそこにはあった。
それは、血の海に倒れ込みながらも、今もなお術を唱え続ける銀髪の少女_____シルヴィアの姿があったからである。




