第1話 寄生虫、寄生する
薄暗い水道管を、その寄生虫は這っていた。小さい体を器用に動かして前進していく寄生虫。水道管の環境は彼にとって心地よく、ぐんぐんと進んでいく。しかし、その表情はどこか悲しそうだ。
「早く、新しい宿主を見つけないとな。」
彼は、ポツリと呟いた。そう、この寄生虫はつい3日ほど前に宿主を亡くしたばかりである。彼はとても長く生きており、何度も何度も様々な生き物に寄生している。しかし、やはり宿主の死というのは少しだけ寂しい物だ。
次はどんな生き物に寄生するかな。と寄生虫が考えていると、水道管の終わりが見えてきた。ニュルンと飛び出る寄生虫。久方ぶりの外気に体が引き締まる。
寄生虫がたどり着いたのは、石造りの小さな部屋だった。彼は辺りをキョロキョロと見回す。昔、人間に寄生していた時、こんな景色を見た事がある気がする。そんな事を考えながら、とにかく生き物を探そうと動き出した、その時。
部屋のドアが開き、中に人が入ってきた。慌てて姿を隠す寄生虫。2つの足音が部屋に入ってくる。そっと影から、その様子を覗く寄生虫。そこにいたのは、整った顔立ちに銀髪の無表情な男と、どこか怯えた表情を浮かべる赤髪の美少女。
そして、2人とも似たような格好をしている。その格好で寄生虫は自分が今いる場所がわかった。ここは、教会だ。人間に寄生していた頃に、教会には何度か足を運んだ事がある。当時行った教会にもこんな服装の人間達がいた。
懐かしいなぁと感慨に浸っていると、無表情の男の方が声を発する。
「クリシア。君は何度言ったら、わかるのかな?」
はぁー、とわざとらしく大きなため息をつく男。その姿を見て、うつむきながら「すみません...。」と言うことしかできない少女。
その光景を見て、寄生虫は眉をひそめる。説教というのは寄生虫にとっても気持ちの良いものではない。
「大体、今回の失敗だけじゃないよ。備品の場所も把握できない。作業をさせればミスばかりする。どうして、君はそんなに役立たずなんだい?」
そんな言葉を投げかけられ、少女は肩を震わせる。もはや一言も発する事ができず、涙を目に浮かべる少女。
寄生虫は我慢ができなかった。寄生虫は義理に厚く、仲間思いの性格だった。これは彼の寄生虫生が作り上げたものだ。彼が様々な動物に寄生していた時、辛いこと、悲しいことも沢山あった。
しかし、そんな時に自分を助けてくれたのはいつも仲間の存在だった。仲間がいてくれたからこそ、彼はここまで長生きする事ができたのだ。
だからこそ、仲間に対して、ミスをしてしまったとはいえ、吐き捨てるような暴言を吐く人間を寄生虫は許せなかった。
「決めた。あいつに寄生してやろう。」
寄生虫は、決心した。そうと決まれば行動は早い。まず、寄生虫は水道の蛇口に、自分の体を括巻く。あとは振り子の要領で助走をつけてジャンプし、あの無表情の男の耳元にダイブする。完璧な算段であった。
無表情な男は、微動だにせず震える少女を厳しい目つきでじっと見ている。寄生虫にとって、絶好のチャンスであった。彼はそのまま宙に舞い、無表情男の耳の中に美しい軌道を描きながら、すっと消えていった。
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