第29話 『 あなたのために、やって来た 』
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※注意※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、事象とは無関係です。
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━━━━━触れた
触れた?
おかしくないか
俺は何で、幽霊なのに生者を触れた?
今までどうだった?
幽霊の状態の時に誰かに触れたのはたぶん初めてだと思う
殺人鬼にバラバラに殺されて地下室にいた時、当の殺人鬼が清掃中に俺の幽体を通過した…あれはどうなる?殺人鬼に何の影響もなかっただろ
なんとも気持ちの悪い余韻がある。
ありえない現象を起こしてしまった自分の手と足をワタルリは何度も見返していた。
指の細くて肉厚の薄い掌。身長にちょっと不釣り合いな大足。生前と変わりない形状で━━━だが、やっぱりどこか体の感覚というのは薄い気がする。これも今まで通りの幽体だからだ。
でも、それが今生者の男性と女性の身体に触れて影響を与えたのも確かじゃないか。
(こんなのアレだ、何ていうか…ポルターガイスト…的なやつか?)
守護霊達から羽交い締めにされるのも無理ないくらい反則的な超常現象だろう。
幽霊の掟なんかワタルリは知らないけど、たぶんそれはダメでしょうというのは何となく解る。やっちゃダメなやつだ。裏方が表舞台を直接動かすなんて”あの世”のルール違反に違いない。
ようやく自分のチート能力みたいな特異性に気がついたワタルリだが、あまり嬉しそうな顔ではなかった。
「…ん、……」
「…━━━」
「神子様、巫女様…」
「ローチェ、ティッピ…」
石床に蹲っていた子供達が僅かに身動きして、その小さな顔を小さな腕から擡げて覗かせた。
未だに呻きを漏らすツェッペリン王子は転がったままだが、すでに勇者トロリとグラバー女史は童子二人の前に膝をついている。
神子ローチェ。巫女ティッピ。そう呼ばれる童男童女の両目はふつうの子供の眼差しで、ちょっと寝ぼけ眼なところ以外は何もおかしなところはない。勇者トロリから体調を聞かれると、二人とも子供らしく首肯して元気ですと答えていた。
(元気ですじゃねーだろーが。お゛お゛ん?)
彼らの様子を間近に立って見ている幽霊ワタルリは斜めに構えて童子達の目を覗き込んでいる。その様子はこの場の生者達には全く見えていないだろう。少年少女もワタルリを気にする様子は無い。
だが白々しいではないか。この子供たちはただの少年少女では無かったのだ。
あの隔離界とかいう黒い世界を一緒に歩いている時には全く気がつかなかったワタルリだが、彼らそれぞれの片目には”眷属”が宿っている。
その眷属達とワタルリはさっき剣呑になって問答をしたばかりで、天界へ招くと自ら言った眷属達にさっさとしろと圧をかけるようにワタルリはめちゃくちゃガン見しているのだ。
そんな彼の姿を異常者を見るような目で見ている守護霊達は童子達の側に寄り添っていて、たまりかねた守護霊ゲガールは遮るようにワタルリの前に立った。
『━━━貴方様がどのような筋で我らの天子に迫られるのか、身共には解しかねますが…この子供たちは大切な命なのです。何卒…』
『ん?あ、…すんません……』
ワタルリは思わず謝ってしまったが、傍目から見れば小さい子供を睨みつける異常者そのものだろう。
だがゲガール達守護霊は少年少女に宿る眷属のことを知っていないはずはないんじゃないのか。この子供達と、その奥の存在はやはり何か重要な存在なのだ。
ややこしいけどワタルリは別にこの子供達そのものを悪く思ってるわけではない。
神子と巫女という存在がなんなのかワタルリは今この場で因果を探る気持ちにはなれないが、勇者トロリが跪いて心配しているほどの身分なんだから特殊な人間なんだろう。
「神子様。巫女様。どうでしょう…御力は、戻られましたか」
「うん。だいじょうぶです」
「ここは、もう現世なんですね。よかった…。でも━━━」
「ローチェ。ティッピ。…そのお気持ちだけで十分です。みんな、必死で生きて死にました」
「神子様。巫女様。落ち着いたら、皆んなを供養してやりましょう。あいつらは地獄に落ちていいような奴らじゃありません。この勇者トロリの仲間達、”火花摘む道草”のパーティメンバーとして、最後まで活躍してくれたんですからね」
「トロリさん。一番辛いのは貴方なのに…」
「無理しないで、トロリさんも体と御心を休めてください」
「━━━━━有り難き、…お言葉…!!このトロリ・イグザイル、…残りの身命を賭して、貴方達を安全な場所まで護衛仕ります!」
神子と巫女は子供だが、その受け答えの言葉には理知的なものを感じさせる上に優しい心遣いがある。真っ直ぐな視線の子供達の労いに勇者トロリが瞑目すると、一場に沈黙が落ちて仲間達も目を閉じた。
━━━━━黙祷。勇者トロリは感極まってかしばらく動けず、それが自然な流れで故人を思う時間となった。
そして、落ち着いたら供養したいと言ったばかりの戦死者達への供養が簡易的ながらこのまま執り行われる事となったのである。
頭を垂れて鎮まるトロリとグラバーとツェッペリンの前に、立ち上がった小さな神子と巫女が小さな胸の前に小さな手を結び、小さな口を小さく開いて何事か幽けく呟く。
「”畏み、畏み、申し上げます。
全てと、全てと、全てに在り坐す根源の神。
神留まり坐すロギロミの命。
ただ在り、在らぬことなく、元(元)つ御祖にして最果てに御坐すも遍く神に申し上げます”」
「”生まるるとて生まれ在り、死にゆくとて死に消えぬ、常ならずとも在らぬことなき末の御霊に、我ら人草の祈りを聞き届けたまえ━━━━━━━━━━━”」
『『『『『…』』』』』
『━━━━━…っ!?』
それらの様子をワタルリは側からぼんやり見ているのだが、その作法や言葉はいちいち頭に入ってこなかった。
見えるべきでないものが見えているからだ。
今までこの場に居なかった見知らぬ人霊達が忽然とあちこちに立っている。
小綺麗な服装をした彼らはどこからともなく現れてはゲガール達守護霊団に会釈してその場に佇み、勇者トロリ達による祭祀の様子を眺めている。
やがてその人霊達が胸の前に掌を掲げると、淡く輝く小さな何かが現れた。すると彼らは皆その輝きを大事そうに携えて守護霊に一礼し、現場に背を向けて去って行くのである。
━━━━━と、去っていこうとする彼らの歩みが止まって振り返った。
『守護霊ゲガール殿。この場所は…?』
『霊門が開きませんが…これは……』
『━━━む、失念。この部屋には鬼術の”返し”が有りましたな…』
『ぁ…!…”アレ”か……』
彼らの反応を見ていてワタルリはピンときた。部屋の扉の周りにある奇怪な模様や文字、それに上部にあるお札のことを言っているのだろう。アレが魔法なのか何なのか分からないが、アレのせいで霊魂はこの部屋に入ったが最後で外へ出れないのだ。
『む、いや問題ないです。…うん、…この場の今の刻限、霊道はこちらの方角で合っていますが……では、僕が霊門を開きましょう。━━━━━この霊剣で』
『━━━ぉお…!?すげ……』
守護霊ゲガールがそう言って腰の鞘の鯉口を切ると、溢れるように零れる白煙とともに白く霞む細身の剣が剣身を表した。ワタルリが初めて見る不思議な剣のファンタスティックに感嘆の息を漏らしてしまうほど美しい剣である。
その切っ先を向けられた先、低い天井と壁と床の集合して窄まる部屋の隅の暗がりに、俄かな変化が起きた。
建物の終わりの先に続きが見えるのだ。この場の景色を裏返した先に、別の世界が遠く続いている。
高く高くそびえる青黒い峰々の麓を斑らな霞が隔て、静謐に広がる野山にポツポツと素朴な家屋が建っている田舎の風景━━━現実世界と似ているが、どこか違う佇まいの世界。
何が違うのかは分からないが、とても静かな雰囲気のその中へと人霊達が去って行く様相はワタルリの霊眼にもはっきりと見えて驚いていた。
『霊界…てやつ?』
『…左様です。あちらは人霊界の我々の国土神担当区画にて。…今回、直接には因果の値を地獄界へ届けるわけには参りませぬゆえ、霊界を通して審判の後、幾分差し引かれた残りの因果値が授養者たる霊魂へ届けられます』
『あ〜…』
そのまま届けたらんかいとワタルリは思ったが、なんとなく察してしまって頷いた。
ワタルリの呟きを聞きつけた守護霊ゲガールが真面目に教えてくれた霊魂事情はなんという世知辛さだろう。しかも殺された人たちが地獄にいるとか酷くないか。
というかマジなんだろうか。故人を供養した祈りがそのまま届けられずにちょっと差し引かれるとか、霊界は税務署か?
ワタルリは元の世界で高校生だったから税金のことなどほぼ知らないが、両親は確か税金を払うのに四苦八苦していて度々滞納しては”重要なお知らせ”という赤い紙をポストに入れられていたのを覚えている。
税金の話はいい。ともかく、あの人霊達は幽界の中洲で死んだ人々の縁者なのだ。故人を思う供養の気持ちを届けるために、彼らが受け取りに来たという訳だろう。地獄がどんな世界かワタルリは知らないが、ちゃんと届けてもらえるのだろうか。まあゲガール達守護霊がさも当然と言った様子で一連の様相を見守っているのだからそういうものなのか。
ただそうなると気になってくるのは、その戦死した仲間達の魂に届けられた思いが結局どうなるのかという所だ。
それによって死者の魂にどのような影響や変化があるのだろう。
━━━━━死者━━━━━変化━━━━━
ふと、ワタルリは黒い世界の住人達を思い出した。そこにいたイオラ・アビアという死霊のことを。
変化の無い黒い世界━━━━━隔離界という、あの音も景色も全てが黒く遮られた世界で眠り続ける”硬まった人たち”は全員が死者だったのだ。思えばあそこも地獄みたいな世界ではないのか。
でも、なぜあんなに寂しい世界があって、なぜ死者達があそこに居続けるのかワタルリには今でも分からない。
あの死霊たちを弔う人たちは現世に居ないのだろうか。
なんなんだろう。
ワタルリはイオラを幽界へ連れ出そうとして拒まれて、結局その後分かれてしまったから彼女はあのまま黒い世界に今も居るんだと思う。
あの人に変化を望むのは傲慢だろうか。イオラを想って祈ったりしたら。
イオラも死者なら、現世に生きる人間が祈ると何か彼女に嬉しいことでも起きるだろうか。
でも何で自分がそんなこと考えるんだろう。
連れ出そうとして投げ飛ばされたんだから大きなお世話なんじゃないか。
きっとそうだろう、とワタルリはまた思い直して、このことはもう考えないことにした。
今は目の前の人の方が心配な感じだ。
勇者トロリの心の中は哀しみに満ちている。長年の旅を艱難辛苦を共にしたパーティメンバーや、今回の退避行に協力してくれた仲間達をいっぺんに幽界の中洲で失ったのである。彼の孤独と後悔は他人に想い測れるものではない。もっと自分が上手く皆んなを導けていたらと、そんな思いが彼の脳裏にはべったりと張り付いていた。
ワタルリにはそんな勇者トロリを励ますことも何もできないが、この時ばかりはこの幽体という状態のメリットとデメリットの実態を痛感して辛くなった。勇者トロリの想いが幽体で伝わって解るのがあまりにも辛い。
思いを見れるということは、ある意味その思いを共有する部分があるのだ。
愛する仲間達を亡くした想いの、その心が潰れるような辛さを、こんな辛いなら見たくないと思ってワタルリは勇者トロリから意識を逸らした。
するとちょうどトロリの兄の守護霊ゲガールと目が合って、ゲガールの方から目礼して声をかけてきた。
『…眷属殿。よろしいでしょうか』
『━━━…なんですか?じゃなくて、いやあの…俺はその眷属って奴じゃないっすよ』
『左様なのですか?…しかし、貴方様の因果は……』
『俺はただの幽霊っていうか異世界人で…』
『…イセカイジン…━━━っ!?ゲッフッ!ゴッホゴホ!!あぁー…某、耳がちょっと…あの、飛魚っ…飛魚に…やられたっ心臓がーですね…』
『ハァ?━━━あ、……』
『幽霊殿!こちらの我が弟、トロリ・イグザイルとはどのようなご縁で?その点は伺っておきたいのですが…』
守護霊ゲガールが動揺したのを見てワタルリは自分の失言に気がついた。そういえば”異世界人”ということを言わない方がいいのかもしれない。
死神達もなるべく異世界人のワタルリとは深い関わりになりたくないみたいだったし、魔王がワタルリの死体やスマホを喜んでいたくらいだから、やっぱりこの世界で異世界人は何かマズイ存在なのだろうか。
ともかく支離滅裂に慌てふためくゲガールの姿は見た目相応な青少年に見えてきた。生前の年齢はワタルリと同じくらいだったのかもしれない。
ワタルリが勇者トロリとの隔離界の旅を少し話してやると、ゲガールは眉根を寄せて神妙に聞き入り深刻そうにしている。大切な旅の思い出を語ってあげてるのになんなんだろう。語っているワタルリとしてはあまりいい気分ではなかった。
ただ、ゲガールは勇者トロリの今後の人生について「勇者という人間は柔ではないから安心してください」と最後に諭してくれたのだった。
それは実際ワタルリが目を逸らした先にある勇者トロリの心にはまだ奥があり、その志は常に冒険を見据えていることを観て取れてはいなかったのだ。
「━━━ありがとうございます。さあ、僕も調子が戻ってきたところです。やっぱりこの現世が僕らの生きる場所ですなぁ!うん、頭が回り始めたぞ。まずですね、この場所。この部屋の外は極寒の世界です。どこの国か見当もつかないが、この廃墟が人の手によるものであれば人里も近くにある可能性はあります。助けを求めてなんとか移動しなければなりませんが、優秀な魔法使い達はさっきの戦闘で死んでしまいましたからね…魔法で防寒したり雪原を溶かすというのは無理。なので、この寒さや足場の悪さの中をどう移動するかというと━━━御任せあれ!このトロリ、今は亡き兄ゲガールに付き従って極北大陸の島々を横断したことがあります。その時に出会った陽気な裸族”トンガーコンガ”の人達から教わった防寒方法がありましてね、その辺の雪原か海で大型の獣を獲って脂肪を採取します。その脂肪を我らの全身に塗り込めば寒さを防げますし、橇を作って四足獣に轢かせれば早く移動できます。気は進まないけど、魔物を討って魔原石を採取すれば熱源も確保できるな。あとはグラバー女史の結社の方に━━━━━」
「はい。まず、私がこの場所を特定します。地表世界であれば何らかの手がかりはありますから。それから行路を決めて出発します。”ビルヘイム会”や”サルムング社”の会員達は地表世界に広く隠遁していますから、きっとこんな凍土の近くにも居るはずです。彼らに秘密が通じれば必ず援助してくれます。魔原石の加工も私なら何とか出来ますから、簡単な照明や火桶や懐炉など用意できますよ」
「む、…では、余はその脂を取る獣を呼び立てよう。四足獣を手懐けるのも任せてもらおう。半神の末裔たる我が神血に従わぬ獣などおらぬからな。…うぐ、…そ、それに、…神血は引き合うものだ。地表なれば、…どこをどう旅をしても…け、血縁あるものに出会すだろう。懸念すべきは、反神の血族や魔族との会敵だが…」
「ハハハwここが現世であれば、この勇者トロリに太刀打ちして適う人間や魔族などそうそう居りますまい。僕は勇者選抜の”幻示録12士”からは漏れましたが、これでも一角の勇者ですからね。生き汚なさなら勇者ノーランにも負けないくらい自信があります。必ずここに居る皆んなを守り抜いて見せますから、安心してください殿下」
「━━━む、そうだな。くっ、…あの幽界においても、危機的状況ではあったが、君は力を示して見せた。ここまで退却を成功させた紛れもない勇者だ」
「ええ、そうです。為すべきを為す者に、我が天眷の加護の絶えることはありません。…それより殿下、聖器のお加減の方は…?」
「む、…おぉ、いや、まだ少し痛むが、大事ない。のうグラバー女史?余の聖なる小袋は無事であろうな?」
「知りません」
『━━━━━…』
短い儀式が終わって顔をあげた勇者トロリが明るい声で語り始めたのを守護霊ゲガールは目を細めて見ていた。
この世界の人々の人生がどのようなものなのかワタルリはまだ何も知らない。
でもこういう、冒険をして生きて、殺して殺されて別れて死んで、それでまた冒険をするというのが彼らの普通なのかなと、この時少しワタルリにも異世界の人生が見えてきた気がして気が引けた。
アニメやゲームや小説でのお決まりの世界観、━━━その中に実際に居るのはやっぱり御免だ。自分には無理だと。
そんなワタルリから見て彼ら生者がどういう神経なのか理解できないが、仲間の二人も行軍の策を具申したりして調子が戻ってきた様子である。その様子を神子と巫女は何も言わずに微笑んで見ている。彼ら生者達からはもう、あの黒い世界の道中で常に伝わって来たようなネガティブな想念というものは発信されていないのだ。
神子ローチェと巫女ティッピはどう観ても普通の子供の人格で、人間にしか見えない。ワタルリが心の中をうっすら観て見ても、解るのは状況への不安と勇者達への信頼や優しい心遣いだけ。
この子達がさっき勇者トロリに投げかけた心配の言葉も、それは心からトロリの心中を慰めようとするのものだったのがワタルリには観ていてわかっている。このゆったりした衣装を身に纏う子供達は極普通の、男の子と女の子なのだった。
(…で、俺のお迎えの、天界へ連れてってくれるっていう使者はいつくるの?おっせ〜…)
しみじみと勇者達を眺めていたワタルリは自分の事はどうなったんだと我に返ったのだが、天界招致のことはどうなっているんだろう。何だか今のお祈りで後回しにされてるような気がする。
まあそこは空気読まないといけないかもしれないが、でも今ワタルリはチャンスを掴んだところなのだから逃すわけにはいかない。天界に招待してくれるって目ん玉眷属の方から言ったんだからいい加減に早くしてくれとワタルリは気を揉んだ。
「━━━気をつけたまえよ、トロリ・イグザイル。お前が頼りだ」
「あまり遠くへ行かないでください。半刻経っても戻らなければ探しに出ますから」
「大丈夫、大丈夫。殿下もグラバー女史も、まだ御体を休めてください。僕のような者とは違って、皆さんは酷く疲れているはずですよ。…では、すぐに獣を獲って戻って参ります。腹も減りましたからね♪」
『では幽霊殿━━━いや、道連れ殿。僕もこれで失礼致します』
『あ、はい…?━━━━━あれ?その扉━━━━━』
勇者トロリが仲間達に心配されつつ石部屋を出て行こうとする、その背後についてゲガールも扉の前に立った。
だがその扉は開かないはずだ。扉の周りの呪文や上部のお札のようなものが霊魂の退室を遮って、霊体はこの部屋に閉じ込められているのである。ワタルリはさっきそれを確認して、それが記憶の中の状況と酷似している事に気がついていて。
『問題ありません。この剣で━━━━━』
守護霊ゲガールが先ほどと同じように剣の柄に手を掛けて、同時に勇者トロリが扉に手をかけようとしたその時、━━━━━扉の方が先に開いた。
真っ暗な部屋を真っ白に開く四角い外光━━━━━その白銀の景色を埋めて立つ、全裸の男性の姿がある。
そう見えた瞬間に男の首から上が大血を吹いて頭を飛ばし、重たい音を立てて石床に転がった。
身を低く前のめりになった勇者トロリが振り抜いた刀は腕先に留まり外の光を白々と映している。その刃に重なるもう一つの剣は現世に無い、守護霊ゲガールの構える霊剣である。
時として即断即決の過ぎるが故に奇遇を呼ぶトロリの抜き打ちは、敵か味方か見知らぬ男性の命脈を一瞬で断ち切ってしまったのだった。
『━━━━━…!?……ぁ…━━━━━━━━━━』
何が起きたのかワタルリには分からなかった。
何で勇者トロリが人を斬ったのか、立ったまま血を吹いてる首無しの裸体は何なのか。
ただ、足元に転がった生首の顔がワタルリの視線を留めている。
既視感が脳裏を瞬時に占めていた。
彫りの深いその目鼻に見覚えがあって。
その生首の眼が動いて、その視線の先を辿って見ると、戸口に立ったまま血に濡れている全裸の男の姿が悪夢みたいだった。
nanasino twitter
https://twitter.com/lCTrI2KnpP56SVX
紹介忘れてたかもだけど外伝もやってます。よかったらどそ
<--冒険者になりたい人達-->
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