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<--異世界観測媒体☆日本人☆ミューテーション-->(仮題)(旧題:魔王を倒してサヨウナラ)  作者: nanasino
第0章 『0の因果』

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第12話 『 幽界を行く船 』









▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽






 かいという名の船具。長い棒状の物体を先端へ向かうに連れ平べったく作ってある、その長さの半分ほど先を水中に突っ込み、長さの半分あたりを船縁にかけた状態でもう一方の端を両手で掴んで水中を煽ぐように動かしてやる。水中に突っ込んだその先端で川底を押しやったりもする。そうすると船は何とか水上を進むのである。エンジンのない船ならば、水上においてこの船具1つがなければ航行ままならない。

 その櫂が無くて船出は初手から積んでしまった。━━━━━かと思いきや、そうではない。



『っしゃ!行くぜおい!』


『━━━…にゃ〜…』



 ネコミミのメメンが耳をピクピクさせながら、信じられないモノを見ているという目でワタルリを見ている。

 ワタルリは着衣のまま川に入ると船尾に掴まり、ビート板の要領でバタ足を始めたのである。おかしな出力を得た船はボチボチ進んで無茶な出航を始めた。



『すごい…』


『ああ?』


『黄泉の河で泳げる人なんて、初めて見た』


『いやいや、…メメンが漕ぐやつ用意しないから俺が泳いでんだよ?お前はまだ子供だし仕方ないと思って…ほんとなら代わりに泳いで欲しいところだよ?』


『にゃはーw』



 洞窟内を調べても船具らしいものは全くなかったのでやむを得なかったのだが、ワタルリは我ながら何でこんな事をしているのかバカバカしくもやる気が出ていた。泳ぎには多少の自信があるのだ。ワタルリは学校のプールで犬かきしながら500m泳いだ事があるし、海でも犬かきで浜から遠くのブイまで泳いで折り返し浜まで戻った事がある。犬かきは常に水上に顔が出ていて呼吸ができる状態で、要は体が浮いて呼吸が続けば泳ぎは問題ない。水を含んだ学生服は重く動きづらいが、船尾に捕まっている分には溺れる心配はないと思っている。



『川に出てからが心配だけどな…』



 船を押して泳ぎ、洞窟を抜けるあたりまでくると、流れが変わり勢いがついてきて不安になった。ワタルリは船尾の舟板から手を離すまいと強く掴んでいるが、幽霊の状態だと体力というものを意識さえしなければそんなに疲れることはないから掴んでいられた。幽霊の状態にも慣れたものである。


 そうして、いつの間にか薄明かりの靄の中に出ていて、あれ?と思って背後を見ても洞窟はない。もう川の流れの中にいるのだ。

 バチャバチャと煩い水音を立てる小舟は濃い靄のかかった川をゆるゆると進んでいく。服は動きづらいものの、水の冷たさが心地良くてワタルリは気分が良かった。



『でもこれ、霧が濃すぎて何も見えんな…』


『ふんふん』


『wおいwメメンくんは俺を見てないで前見てくれよwどこ行けばいいの?行き先とか分かってんの?』


『分からないです』


『━━━━━』



 ワタルリは急激な不安に襲われた。泳いでいる場合ではないのではないか。

 これは出航まえに確認するべき重要事項だっただろう。この子供眷属は案内のくせして何もかも知らぬ存ぜぬで役に立たぬ。ワタルリは自分の不用意さを呪った。見るからに子供さんなメメンに身を任せようと思った自分がバカだったのだ。人間とは違う眷族とか何かよく分からんが、こんなに無計画な旅があろうか。死んで幽霊であるとはいえ、やはりワタルリは自分で自分を何とかしなければならないだろう。


 一旦洞窟へ戻ろうかと思ったがそんな方向転換も進路変更もこんな航行では全然無理で、これはまずいなとワタルリは1人で焦っていると、霞の向こうからトントコトントコ太鼓の音が聞こえてきた。

 泳ぎを止めたワタルリがメガネをかけ直して見ていると、一艘の小舟が近づいてくる。



『おぅーぃ。お前さんらー、何をやっとるー?』

『止まれーい!』

『ワゥワン!』

『ウォウ!ウォン!』



『━━━ぉ…』



 変なマークの描かれた旗挿物を掲げる小舟で、見たところ普通の船ではない警備的な風がある。蓑笠をかぶった老人と青年がいて、その傍らには獣のような者が2体乗っている。その獣のような者の1人はメメンとよく似た半獣人の少年である。



『ん?お前は…』

『わぅっ!メメンだ!』


『にゃむっ!シャーッ!』



『いやいや、メメンはいいが…おい、そっちの人は大丈夫かい?川へ入っちまって…おい、助けてやれぃ』

『はい。おい君!すぐに船へ上がりなさい!因果に飲まれるぞ!俺がこれで尻を押し上げるから…』



『あ…すみません。…よっ!…と』

 


 蓑笠を被った青年が櫂を差し伸べてワタルリの尻を押し上げ、ワタルリは何とか船縁に腕をかけて体を持ち上げると船の中へ足を入れた。重そうな櫂を使って幽霊とはいえ人体を持ち上げるというのは怪力と言っていいのではないだろうか。

 ワタルリが船に戻るとすぐに船縁に熊手のような鍵状の金具が引っ掛けられて、警備の船に捕まってしまった。警備船の老人がしげしげとワタルリの顔を見ている。この状況は不味いのかどうなのか、ワタルリは様子を見るしかない。


便りのメメンはというと、尻尾を振る犬人の少年が手を伸ばしてちょっかいを出してくるのを猫パンチみたいにバシバシ叩いて喧嘩している。メメンの猫パンチの速さは目に見えぬほど早くて凄いが、正直言ってぬいぐるみが戯れているようにしか見えない。



『がわわっ!わぅ!』


『フカーッ!シャシャーッ!』



『ペル坊!その辺にせんか!…さて、メメンや。お前が魂を連れているなんて俺たちは初めて見たが…霊界へ魂を案内する仕事だっちゅうなら、ちゃんと魂を紹介できなきゃならんのう』


『密航船ではなかろうね?』



『う…メメンくーん!ちょ、遊んでないで状況を説明してー!』



『にゃにゃ、ハイです!』


『ワン!やっぱりメメンはダメだワン!』


『シャーッ!!ペルはしつこいにゃ!』



 全然緊張感がないメメンだが、ワタルリの方は急激に心臓がバクバクしてきて生唾を飲んでいた。

 不躾にも、警備船の2人はワタルリへ初対面の開口から犯罪者の疑いをかけてきたのだ。威嚇と言っていい無作法だろう。ワタルリの方ではそんなつもりはなくても何故か自分は犯罪者なんだろうかと不安になり小心にも震えてしまっている。何とビビリだろう。


 だが実際、ワタルリは自分たちがどういう立場なのか全く分からないのだ。舌ったらずなメメンからは何ほども説明を受けていない。密航船という雰囲気もないではなかった。

 するとメメンが着物の懐から例の白い折文を取り出してサッと掲げて言った。



『これ!メメンの!お兄さんの!』



『…んんー?どれどれ…』



 いかめしい顔つきをした老人がメメンから折文を受け取ると、その表と裏を見やり綴らに広げて書面に目を落とした。と思ったらサッと閉じてメメンへ突っ返した。

 そのまま、ワタルリの船にかけた長柄の熊手を外すと、警備船は船首の向きを変えて去ろうとする。無言の老人はワタルリには目もくれず、小さな太鼓を取り出してテンツクテンツク鳴らし始めた。



『あ、あの…』



『…』

『これは、予備の櫂で古いんだが…この際ちょうどいいだろう。使いなさい』



『あ、どうも…ありがとうございます』



『わぅ!バイバーイ!』


『フーッ!』



 毛を逆立てるメメンと困惑するワタルリを尻目に、警備船は靄の中を去っていく。船員の青年はちらとワタルリの方を一瞥し、右手の方向を指差すと、それきりで霞の中へと消えていった。

 おそらくその指差しは、あっちの方向へ行きなさいという意味だとワタルリは受け取った。


 青年が古びた櫂をくれたのは非常に助かる。受け取ったワタルリは櫂を持つのも使うのも初めてで、その意外な大きさと重量に驚いたがともかく水に突っ込んで漕ぎ始めた。小舟には櫂やといった船具を取り付けるような構造はどこにも見当たらないから、ワタルリはともかくこの平べったい棒切れて水を掻くしかないだろう。川の流れに沿って小舟を進めるとスイスイ動いて面白い。



『メメンくん、あの人たちは何なの?わからないは無しだよ』


『にゃ!えっと、ペルは眷族養成学校の同級生でー!犬人の半獣人でー!僕が中退したときに一緒に中退してくれてー!』


『ん?いや、あ、そうなんだ…そんなのあるの…一緒に中退て…。じゃなくて、あの人達はなんなの?警察とか?』


『にゃ、おじさん達は…幽界の…にゃ〜…ん〜と、怪しい船を捕まえる眷属さん達です』


『へぇ、やっぱりね……てゆうか、俺らって、別にその、犯罪者とかじゃないよね?』


『にゃ〜…密航船です!』


『ぉえ…』



 ワタルリ達は犯罪者そのものらしい。それなら何故に警備の彼らは見逃してくれて、その上に櫂までくれたのかとワタルリは不思議に思ったが、メメンにその辺を尋ねても仕方がないだろうからやめた。

 自分が犯罪者にさせられていると思うとワタルリは辛くて吐き気がして来る。何でこんなにこの世界は理不尽なんだろう。何かそんなに俺は悪いことをしたのだろうかと、自分に何かの責任があるなんて全く思えない。



『さっきの人はこっちを指差してくれてた…こっちにいくと何があるんだ?』


『ん〜と、今から転生企画を受け取らないとなので、えっと…あ、霊界の岸で落ち合う人に手引きしてもいます。にゃ』


『お、そうなんだね…ようやく案内人らしくなって来たな。メメンプロ』


『プロ!』



 ということは、警備船の青年が指差した方向が霊界の岸辺と思って漕げばいい。という考えでともかく漕いでいると、靄が薄れて来て、また広々とした幽界の大河の広がりが遥かに遠くまで見えるようになった。



 遠く遠くに見える黒々した山々。


 その山脈を霞める白雲。


 鏡のような河の伸びる広がりに、這うように茂る中洲の草原。


 行き交う船船のゆったりとした、風情ある景色━━━━━



 何とも幽玄な、怪しい美しさの奥行きある不思議な景色である。

 ワタルリはまたこの幽界の川に戻って来たのだと身震いした。それは決していいい記憶ではない。

 あの時見た最後の記憶、血の海。黒装束の怪しげな集団と、巨大な柱のような黒い案山子の化け物。

 あれらにまた見つかるかもしれないという恐怖がこみ上げてワタルリは身を縮めた。それからあたりをキョロキョロ見回して、学生服の上着を頭からジャミラ被りして身をやつした。これでジャミラの黒バージョンにしか見えまいが、この異世界ではジャミラなどと言っても通じるまい。



『あっ!?wwキャハハwwwニャハーッww!!』


『おい笑うなって。目立つだろうが…おいマネすんなよお前は』



 不本意にもメメンの爆笑を買ってしまい甲高い笑い声が川に響いてしまった。

 ワタルリのマネをして着物の上着を頭から被るメメンが嬉しそうにはしゃいでしまい船がぐらぐら揺れてワタルリは迷惑した。



『メメン。死神って見たことある?後、えーっと、なんか、幽界の番人みたいな眷族とか。でっかい黒い案山子みたいな…怖いやつ』


『知ってます!』


『ぉぉ、…あれに見つかるとヤバイだろ?殺されたりするんじゃないの?』


『にゃ?もうお兄さん死んでますよぉ?』


『そうだけど、…でも、ちょっと前に襲われた。隔離界に戻る直前に。あの時は…それで━━━━━━━━━━』



 なんとなくワタルリの記憶に残るそれを思い出そうとして、はっきり鮮明に思い出せた。


 真っ黒い柱のような案山子。


 中洲の向こうから迫りくる黒装束の奴ら。


 魔法で先制攻撃する勇者達。


 ━━━━━血の海━━━バラバラの手足━━━━━


 ━━━━━耳に残る掠れた声、キレのある腰つき、…あれは━━━━━━━



 死んでいると記憶は鮮明に思い出せる時もあるのか、目の前の景色と同じくらい鮮明に記憶のビジュアルを思い出した。隔離界の黒い世界にいるときにはこの感覚は無かったはずだが━━━━━その最後の記憶に、見覚えのある長い髪と、厚めの唇。ごく薄い白紫の肌の艶めいた、いい感じの太腿。キレのある腰つきから伸びる、ボロボロの柄巻の刀の鍔打ちする金属音。その先の記憶の、どす黒い━━━━━━━



『━━━ぁ、…?』


『えいえい!』



 メメンにほっぺたをツンツンされてワタルリは気がついた。いま記憶を見ていてそちらに意識が傾き、船に乗る自分を忘れかけていたのだが、それがまた船の上の自分に戻って来た感じだ。



『にゃ。記憶世界に入っちゃいますよ?…怖い世界』


『━━━…』



 記憶世界。そこに入るということをワタルリは久しぶりに思い出した気がする。

 以前は散々その中で1人彷徨った。隔離界にいるときには気がつかなかったことだが、この幽界では記憶世界に戻ってしまう場合があるということだろうか。

 この異世界の中の異世界の、さらに奥の異世界へと何処までも潜っていく感覚がワタルリには途方もなく気持ち悪い。


 メメンがいま突っついてくれたから今の自分に戻れたということなのなら、きっとワタルリは感謝した方がいいのだろう。

 傍のメメンの頭に手を伸ばして撫でてやると、メメンは口角をニヤリと広げて声もなく笑った。そのメメンの表情はどういう気持ちなのか測りかねて、やっぱりちょっと不気味な子だとワタルリは思った。






▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽






 霊界の岸辺。

 その見たこともない土地へと船を漕ぎ着けなければならないのだが、青年から指さされた方角には途方もなく遠くまで川筋が横に伸びていてワタルリには何処をどうして何処まで行けばいいのか見当もつかない。

 どれが中洲で、どれがちゃんとした陸地の岸なのかよく分からないのだ。そんなの一番奥のでかいのが霊界の陸地だろうと思いたくもなるが、この幽界の景観というものは不可思議に風景が重なっているのか何なのか、内側に反り返った世界というか、何とも筆舌しがたい奇観で、何処まで見てもその奥に世界があるように見えてワケが分からない。

 どうしたものだろう。



『あー、…メメンくんさ、これって何処まで行けばいいの?霊界の岸辺って、メメンくんは行ったことあるの?』


『にゃ、あります。霊界にはよく遊びに行ってて…河原でも遊んだり、…河原にはいろんな人が死者を待ってて…』


『ほうほう。それで、その霊界の岸はどれなの?』


『…にゃ〜…ん〜…あ、』


『ん?』



 霊界に詳しい風でいるかと思えば答えに窮しているメメンが何かを見とめてじっと見つめている。船船が散らばる中の一艘が気になるようだ。知り合いでも見つけたのだろうか。

 ワタルリは閃いた。



『人に訊けばええやん』



 分からないことは人に尋ねよう。何なら連れてってもらうとか、後についていけばいい。

 ワタルリ達は密航船とはいえ、ちょっと話すくらいでバレたりはするまい。






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