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<--異世界観測媒体☆日本人☆ミューテーション-->(仮題)(旧題:魔王を倒してサヨウナラ)  作者: nanasino
第0章 『0の因果』

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第4話 『 勇者の道連れ 』




「━━━━━イセカイ人?なんですかそれは??おっ明るいなぁwいいですねそれw」

(やあ起きてる魂がいるってことか。ここの冥界の人と話してみたかったんだ)



『あっ、━━━…』



『オォっ!?勇者トロリよ…なぜ私の言いつけを守らないのですか。冥界の死者達との接触は禁止事項と、冥界へくだる前にお伝えしましたよね?あちらで皆さんとお待ちください』



 眷属に怒られてしているこの人物が勇者ということらしい。愛嬌のある声とともに暗闇からヌッと現れた勇者にワタルリは驚いたが、彼がスマホの明かりを見て嬉しそうに笑いかけてくる屈託のない感じがワタルリをさらに驚かせた。こんなに自然体で話しかけてくる普通の人を見るのは異世界に来てから初めてのことで、ワタルリは気持ちが洗われるような思いがしたのだ。

それでワタルリは言葉もなくてジャパニーズらしい低頭でペコペコ会釈すると、勇者の方もうんうん頷いて軽い会釈の意を汲んでくれた。その目尻を垂れて首肯する仕草に年寄りみたいな雰囲気があって、まだ若いのに飄々(ひょうひょう)とした可笑しみを感じさせるものがある。



「いやぁ、すいませんデルリッパ。でも、ほら、貴方という冥府の眷属様だけが僕らの便りですから。御身に万が一があっては、と思いまして…」

(もし眷属様がここで討たれるようなことがあれば、我々は本当にこの冥界で遭難してしまうからなぁ)


『それは貴方達のことです勇者トロリ。冥府で無力な貴方達に何かあったら、貴方達の身柄を預かる私は貴方達を本来守護している眷属達に申し訳が立たない』


「はは…wうん、それもそうですね。私たちを護持する眷属様方は冥府へ降る事ができなかった。僕はともかく、仲間たちは眷属が離れることは初めてで不安でしょうねぇ」

(これでは加持も護持も頂けず、魔法契約も無効。歴戦の冒険者ほどこれは心許ない…)


『その通りです。しかし、まあ、そう不安がる事はありません。死者たちは自らの因果に囚われて何も為し得ぬ幽体、恐るるに足らないでしょう。冥府に仕える私を含め、冥土に住う悪霊や眷族達も冥界法が守られる限りは貴方たちの通行を妨げることはありませんし、そもそもこの隔離界に常駐する眷属などはいないのですから。安心して御一行様とともにお待ちください。ここは冥界の辺境とは言え、お仲間達は陰気に炙られて憔悴しておられますよ。私はこの少年の魂を確認してすぐに戻ります』


「━━なるほど。それで、こちらの少年は?冥府の囚人にしてはこの黒い世界から浮いていますね」

(暗に脅しをかけてきたな。噂と謎の多い冥界に囚われる囚人達にどんな禁忌があるのだろう)



『━━━━━…』



 世界から浮いていると言われたワタルリは今この会話から浮いている。2人の言うことの示すところがなんなのかいちいち意味不明なのである。それも口を挟めるような雰囲気では無い。

 勇者はなぜか眷属の指示に従おうとせずワタルリをダシにして知的欲求を満たさんとする姿勢がしつこく、もう冥府の眷属の顔色を変えてしまっていた。

 眷属にいろいろ聞きたいことがあるワタルリはどこかで話に割って入るタイミングがないかと思っているのだが、どうしたものだろう。



『…よろしいですか?勇者殿。警告です。ここで出会う死者達との接触を冥王は許可していません。あなたたちは冥界を素通りするだけの約束でした。この者とも拘ってはなりません。この者は私が対処します』


「うん。すいません。いやぁでも、なんなんですか?この少年は。”イセカイ人”とは地表のどこかの国のことでしょうか?」

(もう少しこの冥界のことが知りたい。なぜこの少年は光を持っているんだ?)



 執拗なことに、勇者トロリは冥府の眷属デルリッパに食い下がってあれこれ情報を聞き出そうと試みるのを止めようとしない。

 だが警告という何やら物騒な態度を示した眷属を前にした勇者がこうも執着を見せているのは興味本位というだけではなさそうなものだ。勇者はワタルリとの邂逅で何かに気づき、意図して眷属に抗弁しているのではないか。

 それがワタルリには分かって、だから口を挟まずに勇者トロリの弁に任せた。だが、勇者はワタルリの何に気がついたのだろう。



『と…トロリよ!ダメです!あれこれと知りたがってもお答えできませんよ私からは!冥界の者達について知ろうとする事はお辞めなさい。さあもうこの死者はここに置いて、我々は行きましょう。この隔離界にいる者達は熱くも冷たくも無き者共ゆえ、あなた方のような地表の人草達には無用の因果なのですから』


「無用の…因果……しかし、眷属様。彼は光を持っていますよ?」


『━━━…この冥界を明るく照らす事は禁じられています。この者は禁忌を犯した。後ほど冥界法に基づき処分します。それが何か?』


「恐れながら申し上げます、冥界ゲッヘナ・冥神ヌゥ眷属神冥王ネルガリ1柱眷属デルリッパ様。僕の申し上げているのはその光の事ではございません。彼という魂の光です。彼の光は我々のものと同じですよ。この少年の魂はこのような黒き世界にあってなお生きようとしています。僭越ながら、彼はこの隔離界という冥界にこそ無用の魂ではないでしょうか」


『━━━ほう。…ふむ……』



『━━━━━━━━━……』



 眷属に向かって姿勢を正し、改まって口上を述べるかのように言挙げした勇者トロリだが、ワタルリには勇者が何を言いたいのかよく分からなかった。「処分」するという眷属の言葉からワタルリを庇いだてしてくれているのだろうか。眷属デルリッパが勇者に向き直り感嘆の声を漏らしているところを見ると、勇者の主張はなんらかの意味があった様だ。


 「処分」の言葉に一瞬で急激な恐怖を覚えて半泣きになっていたワタルリだが、これは大丈夫そうな流れなんだろうか。眷属は思案する様子で2人の会話が止まり、勇者はワタルリの方を顧みて眉を上げた。「何かあればどうぞ?」ってジェスチャーだなこれ。



『あの、その扉…っていうの、僕も探してみようかなと思ってるんですけど』



「おおっ!君もかい?僕たちも探しているんだよ、この隔離界から出る扉を!」

(やっぱりなぁ!そうこなくちゃ)


『ノーノー!ちょっと!』


「いや驚いたなぁ!君は僕の母国の懐かしいエジスト語を話すじゃないか。なんてことだ…」

(母国エジストはもう滅んだはずだが、なんということだ!ここに生き残りが…いや、もう死んでるのかこの少年は)



『え?いやこれは━━━』



『この者は霊魂。霊魂の意思が、それを聞く者の中で分かりやすい言葉として解釈されているに過ぎません。しかし勇者殿ちょっと待ってください、私は今、この者をどうしたものかと━━━━━』


「うんうん!へぇ!そうですか〜幽霊と話すのなんて初めてだなぁ僕は。まあ仲良くしよう!僕はトロリ・イグザイル。君は?」



『お、俺は…僕の名前は━━━━━』



 そうしてワタルリは勇者トロリの一行に連れ立って歩き始めた。

 スマホのフラッシュライトの明かりで地形や建物を確認しつつ、勇者の仲間が手書きで羊皮紙のようなものに地図を作ってゆく。器用なものだとワタルリは感心したが、しかし土地勘もないのに地図など作ってどうするのだろう。


 とりあえずワタルリのスマホの明かりはかなり役に立っているようで、彼ら生者にとってもこの黒い世界が自身の姿も見えないほど真っ黒に見えているのは同じらしい。ただ眷属デルリッパだけは明かりなしでも黒い世界がはっきり見えているようで、足取りや所作に全く躊躇がなかった。


 名前は、ワタルリは本名を言えなかった。イオラに注意されたことを思い出したからである。でも急に偽名をと考えても思い付かずに困っていると、勇者の仲間のモネイという名の僧侶みたいな男性が”道連れくん”と安直な渾名あだなをつけてくれた。


 勇者一行は12人いて意外と人数が多い。砂浜で足音を聞いたときに集団かとは思ったがこれほどだっただろうか。スマホの薄明かりでは彼らの全容は判りづらいが、全員ボロボロの旅装で刀槍や弓銃きゅうじゅうを携えた武装の格好だ。荷物持ちのような従者もいて、人種も獣人のような者から耳の長い人もいて、様々な面子である。獅子のような姿の獣人は特に間近で見ていると感動的なくらい生々しい異形で、異世界感がすごくてワタルリはどきどきした。



「死霊とか見るの初めてだわ俺…」

(※※※※※※※※※※)

「俺もだ。冥界まで来ると流石に出会すかも、とは思ってたが…意外と普通に人間の姿なんだな」

(※※※※※※※※※※)

「そうだな。俺は何度か幽霊を見たことがあるが、自己主張が強くて死霊のくせに生意気な奴ばかりだった。道連れくんは落ち着いてる」

(※※※※※※※※※※)

「なんか変わった服じゃない?国じゃ見かけない感じの…黒いし、喪服?僧衣とか?」

(※※※※※※※※※※)

「その四角い光る奴はなんだ?冥界で地表の魔法器具は使えないだろうに」

(※※※※※※※※※※)

「道連れくんはなんでこの隔離界にいるの?」

(※※※※※※※※※※)



『えーっと』



『あーダメダメ!!禁忌ですよ!?隔離界の囚人との接触はダメです!』



 彼ら勇者の仲間達はワタルリをすんなり受け入れてくれた。ワタルリの容姿や服装などを珍しがってあれこれ質問して来るのだが、それらは全て眷属デルリッパに遮られてしまった。そのうえ道連れくんのことは地表に出ても他言を禁止とされた。隔離界の存在自体も地表の人類種に口外禁止と重ねて念を押した眷属デルリッパは勇者一行から不満の視線を浴びて汗をかいていた。この眷属は巨体だが意外と小心者のようである。

 でも、スマホの明かりで冥界を照らすことがそれほど意味があることなのかもしれなかった。


 眷属デルリッパは結局のところワタルリがパーティメンバーに随行することを許可ともせず、ただ不干渉としたようである。

 あとで何か処分的なことをされはしまいかと、ワタルリは自分の身上が非常に不安だ。眷属は何を考えているのか心が読めない。本心は何を考えているのだろう。

 ワタルリはとりあえずスマホの明かりを照らしてついて行くだけの簡単なお仕事に従事するほかなかった。



「この一角…うーん…これまで見たこの街のつくりや建物の造形を見ていると、……うーん…この書いてきた地図を見ていても思うんだけど…」


「おっ、何か気づきましたか?グラバー女史。秘密結社の伝承に照らして、何か謎が解けました?」

(グラバーさん楽しそうだなぁ。夢中になってるじゃない)


「トロリさん、それ言わないでください。秘密なんですから…。でも、ここら一帯はヴォーレンニーツ予定書外典ナッティナッティ詩篇に出てくる、失われた古代都市ボヤージェの雰囲気に似てる気がする。…地表に顕現した天界眷属神に取り上げられた伝説の街で…でも古代の人が書いた、さらに古代の神話上のことだから━━━━━」


『あっ!!!!!』



「「「「「「「「「「「「「!!!???」」」」」」」」」」」」」



 眷属デルリッパが突然素っ頓狂な声をあげて勇者達の作る地図を覗き込んだ。そして空中に一瞬で大きな巻紙を出現させて広げると、その非常に精細な地図が描かれて不可思議な文字記号がびっしりと書き込まれているそれを見ては勇者達の作った素朴な地図と見比べて「ええ〜っ!?」と大きな落胆の声を上げた。

 どうしたのかと全員が眷属に注目していると、どうも進行方向が真逆だったらしい旨を眷属デルリッパがしどろもどろに説明した。なんということでしょう。



「眷属様…それは━━」

(え〜っと、これまずいな)


「ここでの時間がどれだけ地表と差があると思ってるんですか!?こんな…これは大変なことですよ」

(※※※※※※※※※※※※※※※)

「あーあ、やってしまいましたな」

(※※※※※※※※※※※※※※※)

「くそ!なんてことだ…これでは地表で待ってるリジン中隊との合流は流れたか……」

(※※※※※※※※※※※※※※※)

「まじかよ」

(※※※※※※※※※※※※※※※)

「アホじゃ?」

(※※※※※※※※※※※※※※※)

「ハァ〜〜??」

(※※※※※※※※※※※※※※※)

「ありえなくな〜い?」

(※※※※※※※※※※※※※※※)


「おい…眷属様に失礼だろお前ら」

(※※※※※※※※※※※※※※※)

「いーやダメだね」

(※※※※※※※※※※※※※※※)

「でも、かわいそうです」

(みんな怖いです…)

「いえいえ、これは許せません」

(※※※※※※※※※※※※※※※)


『…ぁ……ぁの………』


「とにかく行こう。もう扉の場所がわかるんですよね?ここで眷属様を責めても仕方がないさ」

(眷属ってなんなんだろう…まあいいけど)



『……』



 口ごもる眷属デルリッパは頭から油でも被ったみたいな量の滝の汗をかいて眉間に皺を寄せ痛恨の表情で瞑目している。これは本当に申し訳なさそうな顔だ。

 ワタルリは口を挟めるようなことはなくて黙っていたが、その場は勇者トロリが仲間たちの機嫌をなだめつつさっさと来た道を戻り始めた。


 そうして一緒に歩いている勇者一行は見た感じ異常なところはないのだが、生者の内心が読み取れるワタルリには彼らから伝わってくる精神的なストレスの高ぶりが解って恐ろしい思いでいる。

 彼らの心の声はイオラほどでは無いが、非常にネガティブで辛いもので、耳を傾けるのはワタルリには全く無理なくらいだった。人生を呪い、世界を呪うような心の声。なぜこの人たちは生きているのにこんな辛い気分でいるんだろう。彼ら自身、なぜ辛い思いが心に沸いているのか困惑している思考も読み取れるのだった。


 ここでワタルリは彼らの内面を知れる自分が幽霊であることを再認識したのだが、一つの恐ろしい懸念が浮かんだ。

 ━━━逆に、自分の心の声が彼らに伝わってしまっているという事はないのだろうか。 



「…━━━?道連れくん?」

(?)


「?どうした?」

(※※※※※※※※※※)

「どしたん?」

(※※※※※※※※※※)



『……━━━あ、…いや、なんでも…。すみません、行きましょう』



『………』



 一瞬、恐ろしくなったワタルリは立ち止まって全員の顔を見渡してしまったが、その反応を見る限りではワタルリの懸念は思い過ごしのようである。

 だが、今までワタルリは考えたことがなかった。幽霊である自分がなぜか生者や他の幽霊の心の声を聞けることを不思議がり、いつしかそれに慣れ、それでも自分の内面が剥き出しになっている可能性を考えなかった。

 もし自分の内心が他人に読み取られているなんてことがあったら最悪である。何が最悪なのか分からないくらいに最悪な気分が爆発して正気を保てなくなるだろう。


 だが眷属デルリッパの内心が分からないように、内心が分かったり分からなかったりする違いや仕組みが何かあるだろうとはワタルリでも想像できた。魔貴族達や死神姉さんやネコミミ君の内心が分からなかった時に、そういう違いを目の当たりにしてきたのだから。


 ワタルリが歩き出すとまた行群が再開された。

 先頭の眷属デルリッパに続くワタルリがスマホのライトを眷属の足元に向けて照らして歩き、それで横にいる勇者が足早に歩くことで後続の者達も急ぎ足でついて来れていて、ワタルリはその役目にけっこう緊張したがスマホの存在に感謝した。一行の道連れくんなのに変だが先導する格好である。


 ほとんど駆け足に近い早歩きの行群で歩き出している勇者一行は急ぐあまりに全員が次第に無口になってゆく。ときどき仲間たちが逸れていないか名前を呼んでは応答をし合って進んで行った。


 この時になってワタルリは、またしてもようやく気がついた。

 勇者達は心の声で呼びかけあっているのだ。彼ら生者同士の間ではお互いの心の声が認知できてしまっている。どうもこの現象も、彼らの精神的なストレスを煽る要因の一つと言えはしないだろうか。正気でいられるのが不思議なくらいである。

 彼らが以心伝心できるエスパーと言うわけでもあるまいに、何故こんなことが起きるのかワタルリには全く分からない。冥界という特異な世界の作用だろうか。



『━━━━━…』


「「「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」」」



 そうして歩いていくうちに、道中の来るべき場所へ至ったワタルリはまた立ち止まってしまった。

 再度歩みを止めたワタルリに眷属や勇者一行は困惑し、いよいよ様子がおかしいと思ってか苛立たしげにワタルリの様子を伺っている。彼らは本当に気持ちに余裕がないほど急いでいるのだ。



『━━行きますよ皆さん。この者はここへ置いてゆけばよろしい』


「!…どうしたんだ?道連れくん?」

(やはり君には何かがある。心の声の隠れたそれを言ってくれ)


「おいおい!」

(※※※※※※※※※※)

「ここに残るのか?」

(※※※※※※※※※※)

「道連れくん行こうぜ」

(※※※※※※※※※※)

「どうしたの?」

(※※※※※※※※※※)

「私たちはもう行かないといけないんだ」

(※※※※※※※※※※)



『━━すいません、僕はここまでにしておきます。皆さんはどうぞ行ってください』



 ワタルリは座り込んで胡座をかくと、傍に寝そべるイオラに視線を落とした。スマホの明かりで照らされたイオラはなんの反応もない。

 勇者一行はイオラに別段の興味を示さず勇者トロリに視線を集めて彼の判断を急がせている。無論、先を急ごうという無言の圧力だろう。



『この明かりは眷属さんに預けますから、皆さんを扉に送ったら眷属さんが僕のところへ持ってきて返してください』



『━━━…む?』



 スマホを眷属に差し出そうとするワタルリの手を勇者トロリが遮った。

 勇者はワタルリの正面に腰を下ろして砂地に胡座をかくと、イオラを眺め、しばし思案する風になり、やがてワタルリの目を見た。

 彼が何を言おうとするのかは彼の思案を知るワタルリにはもう分かっているのだが、それはどうしたものか、ワタルリには今すぐ判断のつかない選択である。



「道連れくんはずっと此処にいるつもりかい?」

(イセカイという国へ帰りたいだろうに)



『いえ、僕は元の世界に帰りたいんです』



「━━━?…うん。では、この女性は━━━いや、何も聞くまい。道連れくん、こちらの女性を担いで付いてきなさい」

(何を悪怯わるびれることがあるものか。大事な人なら連れて来なさい)

 


『う、うーん…』



『本気ですか勇者殿!?冥土の囚人を…本当にそれをやってしまっては━━━いや、不可能です!この隔離界の囚人たちは自ら囚人たる者たち。その位置から他者の干渉で動かせるものではないのです。この寝そべる者は因果の異物。因果を織りなす意思無き者。自ら発たぬ者を発たせる術はない。勇者トロリ、もう行きましょう。お願いします!』



「やってみなさい道連れくん」

(本当かな?やってみなきゃ分からない。扉まで行ってみて、そこからどうするかは君次第ということで…どうだい?)



『あ、…は、はい!』



 声を荒げた眷属デルリッパを無視する勇者の言葉にワタルリは打たれたように動き出した。イオラの肌も露わな瑞々しい肢体をどうにか担ぎ起こして背中にまわし、その両腕を自分の肩の上に引っ掛けてムチムチする太腿をしっかり掴むと前屈みになって負んぶする格好で背負い上げる。背中に広がる弾力の生々しい密着感がすごい。なんでこの女はアメフトのチアダンサーみたいな格好をしているんだろう。


 だがワタルリより背の高いイオラの体は存外に軽く、眷属に不可能と断言された割にはなんの支障も無く動かせるではないか。冥界の囚人との接触を禁じられている勇者はワタルリを全く手伝わなかったが、ワタルリ1人でも背負って歩けるだろう。


 一行はその様子に驚くでもなく先を急いで歩き始めたが、眷属デルリッパはしきりに首を傾げていた。ワタルリもなぜイオラを担いでいるのか自分でもよく分からなくて首をかしげた。二度と会う事はないと思って彼女のもとを離れたのに、横たわるイオラの側を通った時に明かりの端の朧げな彼女の姿が見えてくると、それはもう無視できなかったのだ。

 なぜイオラのもとに留まろうと思ったのか、ワタルリにはあんまり明確な動機はなかった。


 でもこのままイオラを扉へ連れて行って、それで自分はどうするつもりなのだろう。

 そもそもその扉というのを使って彼らの言う地表へまで自分は赴くつもりなのだろうか。死んで幽霊なのにである。


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