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第26話 『 魔王LIVE feat.isekai 』



「魔王様!?」


「ベニベニ殿下!…どうしたんです!?」


「その首は…?」



「ああああああああ〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッッッッッ!!!!!!!??????」



『魔王!?あれが!?俺の首を…』



 周りの魔族から魔王と呼ばれるその男はワタルリの首を掲げながら広間の中央の水たまりの中へ駆け入った。

 水溜りというか床をくり抜いて作ったプールのようなところで、何だか古代の祭壇みたいな雰囲気の水場だ。そこへ駆け入った長身の男が膝でザブザブ波音を立てながらプールの中央へ立ち、ワタルリの首をさらに高々と掲げて絶叫している。

 プールの真上の天井は屋根がないのか、月明かりらしい仄かな光が水面と男を優美に照らし、ワタルリの首はまるで神話を描いた油彩画のように印象的に見えた。


 あんな服も着てない奴が魔王なのだろうか。長身だが痩せていて、顔にはKISSみたいな化粧もしているし馬鹿げていて威厳がない。

 自分の首を晒されているワタルリは不愉快である。魔王ベニベニのことをマジで嫌なやつだなと思った。このビジュアル系ロックバンドのボーカルみたいな風貌の魔王はどういうつもりだろう。満場の魔族達は全員彼に注目してどよめいている。



『魔王…俺を召喚したかもしれない奴が、俺の首を━━━━━』



「━━━━━…あのさぁ…」



「「「「「「「「━━━━━━━━━━━━━━━━」」」」」」」」



 突然表情を落ち着かせた魔王が放った何気ない一言で広間の全員が静まり返った。魔王の言葉を聞きたいのだ。まるでライブ中盤に突然始まるMCみたいな様相である。暗い広間の中央の薄明かりはちょうど自然なスポットライトのようだ。



「━━━━━これ…何だと思う?皆んな……」



「「「「「「「「………………………………………………」」」」」」」」



 今度は魔族達はどよめいた。広間のあちこちにいる魔族達が何か言いかけ、しかしその口を自ら押さえ、口ごもり、顎に手を当てて思案している。隣同士で口々に何かささやき合い、咳き込む声が聞こえる。まじでライブ会場みたいだ。何なんだこれは。それは俺の首なんだよ。



「殿下の新しい顔ですかぁーーー?」


「「「「「「「「(ドッ)wwwwwwww」」」」」」」」



「ふふっw!…ディッキー、おもしろいよ……センキュ」



 勿体ぶった空気を作る魔王に観衆の1人からチャチャが入り、魔族達から笑いが起こった。少し会場の緊張がほぐれた感じだろうか。ディッキーと魔王から呼ばれた魔族は魔王に手を振ると柱にもたれかかってタバコに火をつけた。魔王も片手で小さく感謝のサインを送る。見ているワタルリはイライラしてきた。あれは俺の顔なんだよ。

 長髪をかき上げた魔王は改まり、澄ました顔で語り始める。



「━━━三日後にさぁ……戦争、…始まるよね。……まぁ戦争っていうか、余と皆んなにとっては”選挙戦最終日”なんだけど…それは、みんな知ってると思う……」



「「「「「「「「………………………………………………」」」」」」」」



 静かだが、よく通る声だ。不思議なくらいこの広間に通るハスキーボイスである。魔王はこの声で聴衆を虜にしているのだろうか。

 それにしても何を魔王は勿体ぶっているんだろう。俺の首と関係ない話をするなよとワタルリは言いたい。ワタルリの首はもう色がやばいのだ。よく解らんけど工場へ搬入がどうとか、死体を何かに使うつもりだったんじゃなかったのか。鮮度とか大丈夫なのか。ワタルリは自分の死体が腐りはしまいかとハラハラしてくる。ワタルリはほぼ一人暮らしだから、生ものがいかに傷みやすいか知っているのだ。夜にスーパーで買った半額の刺身で腹を壊したことは何度もある。いや、自分の死体をそんな食われたりとか何かに使われたりとかされたくないが、ともかく見せ物にされているのはだんだんムカついてくるのだ。

 殺人鬼2人は何をやっているのかと見てみると、めちゃくちゃキョドっている。ワタルリの首を魔王に取り上げられて困っているのだ。彼らにも仕事があるし、魔王によるイレギュラーなリサイタルになど付き合ってられないはずだろう。



「━━━”英雄アファンヌ・リベリオン”が来るんだよね。こっちに」



「「「「「「「「━━━ッエエエ〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!!!!????????」」」」」」」」



『いい加減にしてくれ…』



 会場が驚嘆か悲鳴の声で包まれた。それはそのまま、嫌なのか嬉しいのか、観衆のどういう感情からの声なのかワタルリは分からなくて顔をしかめた。魔王の発言にどういう意味があったんだろう。

 全員の驚く声が収まる頃合いのタイミングで、ささやかな、さり気ない音楽がどこからか聞こえてくる。いつの間に曲なんて流れていたのか解らないが、ワタルリがその音源を探すと、魔王のいる水場の周りの暗がりに弦楽器を静かな音色で奏でる巻角の男がいるのだ。

 ワタルリには彼らのこの寸劇のようなやりとりが凄くどうでもいい風景に見えて本音が出てしまった。

 いい加減に、こいつらの騒いでいる意味がわからなくてワタルリはイライラしてきている。この茶番は何のためにやってるんだろう。俺は何を見せられているんだろう。ワタルリはこの記憶世界を見ている意味がわからなくなってきそうだ。

 魔王をこうして目視できたことは収穫だし、英雄アファンヌとかいう気になる存在についてもさらに知りたいところだが、やはりこの魔王や周りの魔族の思考は読めない。

 魔王が何のためにワタルリの首を手にしているのか、それをワタルリは知りたいのだ。ワタルリは自分を異世界召喚したのは魔王だろうと思っているから、その根拠のない自分の思い込みを肯定するための証拠を掴みたかった。だから早く俺の首について語れよと。



「……うん。…だよね。…それってさ、”様式美”かなって…思うじゃん?それが約束事だから……盛り上がるところなんだけど………でもさぁ━━━━━余は抗おうと思うんだよね。その契約に━━━━━裏宇宙の連中にさ」


「「「「「「「「━━━━━━━━━━━━━━━━」」」」」」」」



『…?』



「受肉しているのは俺たちだから。…編集権限があるのは、━━━━━━俺たちだから」


「「「「「「「「━━━━━━━━━━━━━━━━」」」」」」」」



 どういう空気なんだろう。会場は静まり返っている。演奏している巻角の男も手を止めて、魔王をじっと見据えている。

 魔王は目を伏せて俯いた。

 ワタルリは全然、魔王の言っている意味がわからない。

 魔王は顔を上げ、そのまま天を仰いだ。涙を堪えているかのような姿。魔王はなに1人で浸ってるんだろう。ワタルリには理解できないが、魔族達には魔王の気持ちが分かるんだろうか。全員が沈として静まっている。

 魔王が顔を下ろすと、いつの間にか右手が上がっており、その巨指の鷲掴むワタルリの生首が魔王の端正な顔の横に並んでいた。



「ゲストを紹介します。こちら…尊い犠牲、異世界人の少年です。余が召喚しました」



「「「「「「「「━━━━━━━━━━━ォォおおおおおおオオオオ!!!!!?????」」」」」」」」

「異世界!?どうやって…」

「最悪…最悪だ…」

「さすが魔王……」

「終わった」

「秘中の秘…知られざる禁忌中の禁忌を…最難度の界法違反を…!!!」

「でっでも死んでますよね!?」

「ほんとだ!」

「殿下?」

「殿下!」

「殿下それ死んでますよ!」



 当然の指摘だった。ゲストが死んでる。沈黙を破った大きな驚嘆のどよめきとともに魔族達は口々に魔王を称えているのか何なのか騒ぎ立て、かつ盛大なNGを指摘している。そのゲストは生きてここに紹介する者ではないのかと。

 だがやはり━━━━━━━━━━━



『やっぱり魔王が俺のことを!!犠牲って━━━━━━━━━━━━』



「━━━━━━━━━━━━ィ異世界ィッッ!!!!!」


「「「「「「「「━━━━━━━━━━━!!」」」」」」」」




『!?』




「━━━━━━━━━━━━ゥ異世界ゥィッッッ!!!!!!!!!!」


「「「「「「「「━━━━━━━━━━━異世界ッッ!!!!!」」」」」」」」



「━━━━━━━━━━━━イ゛ィ異世界ゥィーーーッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」


「「「「「「「「異世界ぃーッッ!!!!!」」」」」」」」

「「「「「「「「異世界ィッーーー!!!!!」」」」」」」」」

「「「「「「「「ィイセカイイーーーーッッッ!!!!!」」」」」」」」

「「「「「「「「イセカイーーーッッッ!!!」」」」」」」」

「「「「「「「「イセカイッッッ!!!」」」」」」」」

「「「「「「「「イセカイッッッ!!!」」」」」」」」

「「「「「「「「イセカイッッッ!!!」」」」」」」」

「「「「「「「「イセカイッッッ!!!」」」」」」」」



 唐突に叫ばれた魔王による「異世界」。


 煽りに気がついた魔族達の異世界コール。縦ノリで揺れる床。


 音楽が流れた。聞いたことのある音楽だ。リズミカルでダンサブルなノリノリのOP、ワタルリの大好きな異世界系アニメ『Re:無職に祝福新世紀マギカの刃〜鉄コンBlameな特攻の私立探偵ヘドロ課長”死狂いグラップラーろくでなしボボ島くん”に殺し屋卓球部は手を出すな!〜』の主題歌が爆音で流れ始めたのだ。

 ワタルリの首を夜空に向けて掲げた魔王ベニベニ。その月光を浴びるワタルリの首へと、魔王は片手に持つ黒い物体━━━スマホを向け、ロック解除して操作し、曲をかけたのである。



『こ、こいつら……こいつら…………━━━━━』



「全館に共鳴させて!イイネこれwふふっw!!じゃあ余はちょっとグルルマくんとこ行ってくるから。皆んな楽しんで!」


「「「「「「「「イイイイェェェェアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」



 魔王がスマホをプール横の祭壇の上に置くと建物中にアニソンが響き渡った。魔族達は目覚めたように沸きかえってノリノリに踊り始めた。ヘドバンがすごい。改めて見るとものすごい人数が集まっていて、彼らが踊る振動で建物が揺れている。しばらくはワタルリのitunesの中のアニソンが流れ続けるだろう。どこからか色とりどりの輝くスモークが焚かれ、光線が走り、楽器を抱えた魔族達も現れて即興でフィーチャリングするとおかしなコラボレーションを奏でていた。

 ワタルリは雰囲気に呑まれて茫然としている。陽キャラならノルところだがワタルリは違うしそんな心境でもない。ただ、こいつらは何で異世界を連呼しているんだろうと思って不思議で、それがワタルリの好きなアニメの曲でノリノリになっているのを見て、どういう皮肉な状況だろうかと気持ちがおかしくなりそうだった。

 スラム街のダンスホールみたいなメチャクチャな盛り上がりの魔族達を掻き分けて魔王はノリノリに踊りながらどこかへ去ってゆく。右手にはワタルリの生首を鷲掴みにしながら。



『どこ行くんだよ!?俺の顔━━━━━いや、もういいか…?いや、でも…』



 殺人鬼2人が慌てて魔王を追いかけている。彼らと魔王がワタルリの首をどうするつもりか知らないが、幽霊ワタルリは魔族のテンションについていくのが無理な気がしてきた。ワタルリは陽キャではないのだ。

 でもやっぱり魔王が異世界召喚した犯人なら追求した方がいいだろう。そうワタルリは思うのだが、しかし魔王のさっきの言動を聞いていてさらに思うのだ。━━━━━こいつ嘘ついてねえか?━━━━━と。





何時に投稿するのがいいんかわからない

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