第12話 『 地下室の自縛 』
※注意※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、事象とは無関係です。
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ワタルリは死んで、幽霊になってしまった。
自分は今生きてなくて、死んでいる。それはわかる。
でも確かに今の姿は生前と同じようにメガネをして学ランを着て鞄をたすき掛けしているように見える。
だが感覚は、肉体の感じとはなんか違う。
幽霊になるってこんななのか?
『━━━━━━━━━━━』
異世界はワタルリの期待する世界では全然無かった。
言葉が通じず、何処へも行けず、魔法は使えず、すぐに殺人鬼に捕まって殺されてしまった。
死んだら元の世界に戻るでもなく、生き返るでもなく、最初に戻るでも無かった。
幽霊になった。
幽霊のまま今も床に蹲っていて、自分の心がある。意思がある。それだけは分かる。
ひょんな事から嗜虐的に殺害されたワタルリが精神的にまだ理性があるのは、これはワタルリがまだ(本当は全部嘘なんじゃないか)と心のどこかで思っているから辛うじて保たれている自我であった。
現実だと思い、嘘だとも思い、どちらともつかない認識で作ったこの薄氷のような意識の上にワタルリは立っている。
この意識がいつでも簡単に壊れてしまうような予感がして、歩き出せない。
『…なんだよこれ………』
何もかもから突き放されたような気がする。世界に捨てられたのか。
元の世界へ帰れず、この異世界らしいところで幽霊になってどうしろというのか。
━━━━━━━━━━━いや、逆に自由なのか今。透明人間みたいなものか
とにかくもうここは嫌だ。ここにいたら地縛霊みたいだし
どっか行こう
ここはもう嫌だ
嫌だ
怨念に塗れているのは自分でも苦しくて嫌なのだ。だからせめて此処から離れたい。
だが地下室からどこへ行こうというのかワタルリ自身わからない。
顔を上げて周囲を見ると、この部屋はすでに真っ暗闇なはずだが間取りがなんとなく分かる。不思議なことに闇の中にも景色があるのだ。太陽の光などここには入ってくるわけが無いが、部屋の壁や天井や扉などすべて視認できている。
ワタルリはおろおろ立ち上がって、歩く気持ちで歩くうちに普通に移動できた。
『━━━━━……?』
動くうちに、周囲の空間からワタルリの意識へ響いてくる感覚がある。
今ここにあるはずの無い声が聞こえた。
無視する。
聞いてはいけない声だとわかる。
『━━━━━━………………』
出入り口の扉まで来たところで、気になってしまった。後ろ髪を引かれる気持ちというものだろうか。
振り返って室内を見ると、さっきまでここにあった地獄の残滓がまだそこにあった。
ワタルリが知ろうと思えばそれを知ることができた。大勢の人の絶望が見える。声が聞こえる。それが彼らの魂かどうかはワタルリには解らない。
ワタルリはもうそれを知りたく無いし、自分も同じだと思いたく無い。
それらの念を振り払ってドアを抜ける。
『嘘だろお』
ドアを抜けれなかった。
それは物理的にではなくて”出れない”という概念に阻まれている。としか表しようがない。扉に阻まれているし、壁にも拒絶されている。引力の反対のような感じだ。
というかなぜ「幽霊はドアを通り抜けれる」とかイメージで思ってたんだろうか。漫画とは違うぞ。━━━いや、プラズマというのはだな、物質を通り抜けて━━━つまり幽霊というのはプラズマでだな━━━━━地下室から出れない。
『━━━ふぉお”っ! ぉぉ”ぉ”〜〜!!!』
ワタルリは幽霊なのに情けない泣き声をあげて泣いてしまった。
苦悶に顔を歪めながらドアの周りを見て違和感に気がつく。
魔除けかなんか知らんが何か変な模様や文字が書いてある。
すぐにピンと来た。━━━━━これは結界だ。
『━━━━━なんだよこれここまでして殺した人間の魂まで閉じ込めるのかよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
結界の呪いらしい模様や文字は幽体の自分が触ろうとしても全然意味がなかった。斥力のような拒否する力が不気味な感触で干渉できない。
ワタルリはそのまま床に膝をついて絶望するしかなかった。
━━━━━━━━━━━俺はもうずっとこのままなのかよ
なんでこうなったんだよ
空の上にいて、カミナリ様みたいなのに急かされて、異世界、魔法少女、殺人鬼、地下室監禁、何だよそれ
お父さんお母さん神様助けてください
もう悪いことしません元の世界に帰してください
いや今までそんな悪いことしてないよ俺
してねえよ
何にも悪いことしてねえ
いや嘘です
万引きとかしたことあります
チャリとか傘とか盗んだことあります
加藤くんのドクターマリオ借りパクして売りましたすみません
クラスの女子でエロい想像して毎日シコリます
海外のエロサイトとか動画も普通に見ます
先生の車のドアミラーを油性マジックで黒く塗ったのは僕です田中くんじゃ無いです
道で拾った茶色い封筒の中にあった現金15万円で友達と豪遊しました給与明細の名前のコンビニバイトの人ごめんなさい
某掲示板に先輩をディスるスレ立てしたのは僕ですすみません
赤信号嫌いなんでいつも無視しますすいません
勉強する約束なのにいつも遊んでますお父さんお母さんごめんなさい
石橋くんの机に安田さんのスクール水着を入れておいたら2人とも登校拒否になりましたすみません
「がんばろうぜ」って皆んなに言った次の日に急にテニス部を辞めました御免なさい本当は全然興味なかったんです
すみませんすみませんすみませんでした
でもそんなにそんなに極悪でしょうか
俺はバラバラに切られて殺されて地下に閉じ込められるべきなんでしょうか
イヤダイヤダ嫌だ嫌だ何で俺があぁあぁあぁぁぁぁぁ……………………………………
しょうもない人間
本当にゲス野郎
勇気も根性も無いクズ
人の心が解らないゴミ
存在が無価値
俺は自分で自分をいつも裏切った
勉強も部活も自分から辞めた
人間関係も自分で嫌になった
俺はダメなやつだ
だからこんな目にあうのか
世界が嫌だ
元の世界もこの世界も嫌だ
「供物あります?時間ですけどぉ…」
『━━━━━……?』
久しぶりに日本語を聞いた。
驚いて顔を上げると猫耳の子供がワタルリを見下ろしている。
「ニャ。供物はぁ?」
『…………は?』
「…無いんですかぁ?約束を履行してくれないとぉ〜困りますよぉ」
━━━━━誰だ
何なんだ?
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なおそんなに嘆かない模様




