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君が僕を見つけた。  作者: 長月
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夏休み〈7〉



 夕食を食べ終わってしばらく談笑してから、いよいよ楓が帰ることになった。家族総出で玄関まで見送りに出る。楓はそれに恐縮していた。


「わざわざ見送りまですみません。今日はお夕飯までご馳走になってしまい……ありがとうございました」

「気にしなくていいのよ、また来てちょうだいね」

「そうだよ、また来て話を聞かせてくれ」

「はい、ぜひ」


 父さんと母さんに話しかけられて楓が微笑む。僕は話にひと段落がついたのを見越して玄関を開けた。


「じゃあ僕、そこまで楓を送ってくるよ」

「あぁ、行ってらっしゃい」

「ありがとうございました」


 最後にそう告げて楓が頭を下げ、一緒に家を出る。門を閉め、2人横に並んで歩き始めた。街灯に照らされて僕たちの影が長く伸びる。


「今日は父さんと母さんが騒がしくしちゃってごめんね」

「いや、歓迎してもらえて嬉しかった」

「そう?なら良かったよ」


 と淡い笑みを浮かべる楓に僕は頷く。人通りのない真っ暗な道のりを2人で進んでいく。


「じゃあ今度は(うち)に来る日を決めないとな」

「そうだね、楓のうちはいつが都合がいい?」

「そうだな……1週間後とかはどうだろう」

「いいよ!」

「じゃあ1週間後で。時間とかはまた後で連絡する」

「わかった、ありがとう」


 そんな風に1週間後に楓の家にお邪魔することが決まったところで、楓の家へと続く道の曲がり角へと辿り着いた。


「見送りはここまででいいよ」

「そう?じゃあ気をつけて帰ってね」

「ありがとう」


 楓がその美しい(かんばせ)をふわりと綻ばせて笑ってくれる。それにどうしようもない嬉しさを感じながら、僕は手を振る。それに楓が振り返してくれるのを見ながら、僕は暗闇に消えるその背を見送った。

 


 家に戻ると、父さんと母さんが待ち受けていた。


「いやぁ、二条院君はいい子だね。礼儀もしっかりしてるし」

「そうね、しかもかっこいいしね」

「かっこいいのは関係なくない?」


と苦笑する。


「あ、そういえば1週間後に楓の家にお邪魔することになったから、よろしくね」

「あらあら。じゃあ何か手土産用意しないとね」

「そうだね」


 再びワクワクした様子の母さんとそう話す。楓の家はどのような家なのか楽しみだった。母さんと手土産を何にするか話していると、スマホが震えた。画面に出た通知を見てみると、


「あ、樹だ」


 LIMEを開くと、『まどかー、金曜日遊ばない?』と来ていた。金曜日といえば3日後だ。僕はキッチンにいる母さんに向けて、


「今樹から連絡きて、金曜日に遊ばないかって。そっちとも遊んでくるから、よろしくね」

「わかったわよー」

「予定がたくさんだな。目一杯楽しんできなさい」

「うん、ありがとう」


 父さんにそう返事をして立ち上がる。そうと決まれば宿題をしなければ、と思ったからだ。2階の自室へと戻り、僕はお風呂の時間になるまで黙々と宿題を進めた。




◇◇◇




 3日後、樹と遊ぶ金曜日がやって来た。樹とはお昼から遊ぶ約束をしているので、その待ち合わせ10分前に着けるように準備をした。


「じゃあ行って来まーす」

「はーい、気をつけてね」


 母さんにそう声を掛けてから家を出る。今日も駅で待ち合わせをしている。樹おすすめの駅ナカのカフェでお昼を食べることになっているからだ。僕が駅に着くと、まだ樹は来ていなかった。


「ね、あの人かっこよくない?」

「ほんとだー!かっこいーい!」


 という声とともに周囲の女性から僕に視線が向けられる。僕は厄介ごとはごめんなのでスマホに視線を落としてそれを避けた。そのまま3分ほど待つと、反対側から樹が手を大きく振りながら近づいてきたので、僕もスマホをポケットにしまって手を振り返す。


「遅れてごめーん、円」

「まだ待ち合わせ時間前だし、大丈夫だよ」

「そっか、ありがと!」


 にこにこと笑う樹に僕も微笑む。駅へと体の向きを変えて、


「じゃあ行こっか」

「そうだねー」


 夏休みに入ってからそれぞれ何をして過ごしていたかを話しつつ、駅の中にあるカフェへと入る。席について悩んだ末ウェイターにパスタとケーキセットを注文し終わると、樹がふいに声を低くした。


「それでさ、円」

「うん?」

「二条院とはどうなってるの?いつ話してくれるのかと待ってるんだけど」

「!」


 ふいに切り込まれた質問に驚く。僕が驚いたまま、なんで、と尋ねると、


「二条院と一緒に帰ってるところ見たことあるんだ。それに、毎朝早く来てるのだって二条院と会ってるんじゃないの?」

「うっ……」


 正確な言葉に思わずパスタを喉に詰まらせる。別に隠そうとしていたわけではないが、出来れば秘密にしておきたいと思っていたので言葉に詰まった。僕はここまで来たら誤魔化せないか、とため息をついた。


「……気づいてたんだ。そうだよ、楓とは友達になったんだ」

「友達?恋人じゃなくて?円が珍しく名前で呼んでるのに?」

「いやいや、楓と恋人なわけないよ。普通に友達だよ」

「そうなの?それならどうして話してくれなかったの?俺寂しかったんだけど」

「それは……」


 素直に話してもいいものかと悩むが、結局口を開いた。


「……もう少しだけでいいから、この静かな時間を楽しんでいたくてさ。周囲には秘密にしておきたかったんだ。樹にも話さなくってごめん」

「いいよ、許す!でも詳しく話してもらうんだからね」

「うん」


 それからこの前楓が僕の両親に質問されていたように、楓と仲良くなったきっかけや、普段どんな話をしているのかなど詳しく質問された。僕はそれにありのまま答えていく。


「ふーん、そっかぁ。そんなことがあったんだ」

「うん」

「まぁ黒王子と白王子が仲良いって知られたら、確かに周りが騒がしいかもね」

「だよね、やっぱり」


 とげんなりしながら頷く。すると樹はやってきたボンゴレビアンコパスタをフォークで巻いて口に含みながら、


「でもいつまでも隠してはおけないと思うよ。2人とも目立つんだし」

「そうだよね……」


 僕もそれは思っていた。また、人のいないところだけでなくもっと楓と学校でも普通に話したいと僕は考えていた。


「楓に相談して、これからは学校でも話しかけてもいいか聞いてみようと思ってるんだ」

「それがいいんじゃない?……でも、なんか俺以外のやつと円が仲良くしてるとなると、ちょっと複雑な気持ちはあるんだけどさぁ」

「ははっ、何それ」


 と樹がぶすくれた顔で吐き捨てるように言うので、僕は思わず笑う。


「今度二条院とも話させてよね、言いたいことあるし」

「何を?」

「それは二条院に話す」

「わかったよ、伝えとく」


 内容は話してくれなさそうなので、肩をすくめてそう返す。やがてパスタを食べ終わると、食後のケーキを持って来てくれるようウェイターに頼んで待った。


「もう夏休みに会ったりはしたの?」

「この前2人でショッピングモールに行って来たよ。その後は僕の家に招待した」

「すごい仲良いじゃん!嫉妬する!」


 ぷんすかと怒る樹に笑う。


「でも僕は樹とも仲良くしたいんだ。これからもよろしくね」

「それは言われなくとも仲良くするよ!」

「あはは」


 と笑って、僕はやってきたケーキを一口口に運んだ。僕が頼んだのはガトーショコラで、樹はモンブランを頼んでいた。ガトーショコラは程よい苦味の後にやってくる甘味とのバランスがちょうど良く、舌触りもとても良く美味しかった。


「円、一口交換してー」

「いいよ」


 お互いの皿を近づけて、ケーキを交換し合う。モンブランは栗の自然な甘味が新鮮で、これはこれで美味しかった。


「うん、これも美味しいね」

「円のも美味しいねー」


 そんなことを話しながら、カフェでお昼を過ごした。






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