戦場 【月夜譚No.22】
第一に優先すべきは人命救助。敵を倒すのが目的ではない。それは二の次で良い。
得体の知れぬ黒い影を手にした剣で薙ぎ払った青年は、上段から振り下ろされた武器をすんでのところで受け止めた。節くれだった太い棍棒のようなものを握るのは、やはり表情どころか目鼻もない黒い影。
青年は背に庇った親子に早く行けと急かし、額に迫った棍棒を力任せに突っ撥ねた。よろける影を目の端に捉えつつ、先を走る親子に追いつく。
突如として現れたこの黒い影達が何者なのかは判らない。何の為に人を襲っているのかも判らない。ただ人間にとって脅威の存在であるということだけが、相対した力とそれの放つ気配で痛いほどよく判る。
今はまだ、小難しいことは考えなくて良い。目の前にある、放っておけば掻き消されてしまう命の灯を一つでも多く守るのが、今やるべきことだ。
青年は剣を持ち直すと、正面に飛び出てきた影を打ち沈めた。