アツジの葛藤
秋は深まり、次第に寒さは増して、僕達は図書館の暖房に浸りながら勉強をしている。僕達はもはや勉強の達人になっていると僕は思っている。
勉強をしているとき僕はふと考える。どうしてこんな数学の方程式なんて勉強をしなければならないのか?僕は普段の生活でこんな方程式を解く事なんてない。
でもそれが勉強なのかもしれない。勉強は人生にとって無駄な事が多い。高校に入ったらこれよりも難しい問題が待っているのだろう。
でも屁理屈なんて言っていられない。けれども、これが心理で習う葛藤という奴か、僕の中で葛藤と言う物が起こり始めている。そう言えば僕は通信制の絵の高校に行き絵を描いて、小説家兼絵師になることが夢であった。
僕はこの事を光さんに相談することにした。でも光さんは司書のバイトで忙しい、今光さんの様子を見てみると、何をしているのか図書館をうろうろと見回っている。それほど忙しくないのかもしれない。だから光さんを呼んで図書館に隣接している公園に行き、僕は光さんと話がしたくて光さんを招いた。
「あっ君、どうしたの?」
「光さん、僕何か訳が分からなくなって来ちゃって」
「何?相談なら聞いてあげるよ」
「僕は、いや僕達は様々な勉強をしてきた。けれども、どれも将来役に立ちそうのない方程式や英語なんて学んでいるけれども、僕は、いや僕達はそれでいいのかと思っちゃって」
「あっ君のやりたい事って何なの?」
「小説家兼絵師ですけれども」
「じゃあ、それに向かって突っ走ったら良いじゃない」
「でも僕達はバラバラになっちゃうんですよ。バンドも出来なくなっちゃうんですよ」
「あっ君、そんなくだらない事で悩んでいるの?」
「くだらない事って何ですか?」
「くだらないよ。このまま行ったら、みんなともお別れの時期が必然的に起こり始めるわ。仲良しなのは良いけれど、いつまでも一緒にいたいって言うのは無理があるし、それに、あっ君はその夢の途中で色々な人に巡り会うことがあるよ」
「巡り会えるんですか?でも僕には涼子さんと言う恋人がいるんですよ。僕は涼子さんとも別れなければならないのですか?」
「それはあなた達の絆次第でしょ」
「絆かあ、でも僕は涼子さんと別れたくない。いつまでも一緒にいたい。僕は涼子さんを心から愛している」
「もし、あっ君が両国高校に行かなくてもその思いだけは、ちゃんと伝えてあげなさいよ。あっ君はもう子供じゃない。でもまだ大人じゃないな。あっ君にはこれからの人生の中で色々な人に出会える事があるわ。そういう人達と巡り会って大人になっていけば良いんだよ。」
「僕は小説も勉強も絵もバンドも組んでいたい。今の涼子さん達と共に」
「あっ君は本当に青春をしているのね。でもね、すべてを選べることは出来ないよ。青春はね本物になるための戦いなんだから」
「本物になるための戦い?光さんはもうその本物になることは出来たんですか?」
「さあね、私もまだ十七歳だから、まだ本物の自分になってはいないわよ。でも夢は見つかったよ。それに決心もした」
「光さんが決心した事って何ですか?」
「さあ、それは教えられないよ」
「そんな事を言わずに教えてくださいよ」
「とにかく人のことより自分の事に迷った方が良いんじゃないの?あなた達もあたしも若いんだから、いっぱい悩んでいっぱい迷って本物になる覚悟を決めるときが来るわ。それは必ず。とにかく分からないなら屁理屈言っていないで勉強していっぱい学びなさい」
そう言って光さんは司書の仕事に戻るために図書館に入っていった。とにかく僕がやっていることは偽物なのか本物なのか分からない状況だ。だからいっぱい勉強してその絶対に本物になってやると僕は意気込み、三人が熱を出し合っている勉強部屋へと戻っていった。
三人と勉強していると僕は僕でいられる。でも僕の夢は小説家兼絵師だ。僕は迷っている。それに光さんの言うとおりバカな事を考えている。いつまでも三人で勉強してそれぞれの道へと必然的に向かうことがあるだろう。
どんなにこんな楽しい時間を共有しても、その日は絶対に来る。僕達は後数ヶ月で中学を卒業してそれぞれの道へと行くのだろう。それに三人について行くのもありなのかもしれないが、光さんの言うとおりそれは馬鹿げていることだ。僕はそんなバカな人間にはなりたくない。
でも後残りわずかでこの楽しい勉強会もお開きになってしまう。僕は勉強どころではなくて、外の空気を吸いたいために外に出かけた。三人は勉強に没頭している。少し寒いが空は青い、そう言えば奈々子さんと出会ったのは丁度一年前だ。それから半年が過ぎて、涼子さんと斎藤さんに出会い、勉強に熱中することが出来た。
僕がぼんやりと空を眺めていると涼子さんが現れた。
「どうしたの?マイダーリン」
僕は涼子さんに後ろから抱きしめられて、丁度背中に胸が当たって、ドキドキした。
「ちょっと涼子さん離れてよ」
「何よつれないわね、あっ君はそう言えばあっ君とはまだ付き合っているのにまだあれはしていないよね」
「あれって何ですか?」
「もうあっ君私の口からそんな事を言わせるつもり」
そう言って僕の頬を笑顔で叩いた。
「痛いな何をするんですか?」
「あれって言ったらセックスに決まっているじゃない」
「ええっ!!!」
僕は涼子さんからセックスと聞いて、僕の心の奥底から得たいのしれない熱い物がこみ上げてきて、顔から火が出そうになっていた。
「あっ君顔が凄く赤いよ。もしかして興奮してしまった?」
「そういう事はもっとお互いの事を知り合ってからにしないと」
「ねえ、あっ君は奈々子とはやったの?」
「やりませんよそんな事」
「なるほど、あっ君は童貞野郎なんだね」
「じゃあ、涼子さんは経験があるんですか?」
「もちろんあるわよ。私はやりまくりよ」
「そうなんですか」
「何て嘘よ。私は経験者じゃありません。あっ君と同じ経験もない処女のままだよ。私もあっ君もお互いに経験がないから、あっ君とこのまま付き合っていれば、お互いのことを知って、いずれセックスをする日が来ると思うんだけどね」
何か涼子さんは楽しそうに言っている。僕のことをからかっているのか?
「それよりも涼子さんは本当に両国高校に行くつもりなんですか?」
「もちろんそのつもりよ。あっ君も両国高校に行くって聞いているけれど」
「僕は迷っているんですよ。本当にこのまま両国高校に行って、後悔はしないか」
「あっ君の夢は小説家兼絵師だったよね。もしあっ君が両国高校に入ってしまったら、絵なんて描いている暇なんてなくなるかもしれないね」
「そうなんだよね。両国高校に僕達が仮に受かっても、両国高校の勉強は難しいと聞いています」
「まあ、それはあっ君が決めることだから、私は仮にあっ君が小説家兼絵師になるために通信制の絵の学校に行っても私とあっ君の縁が切れるとは思わないから、私は両国高校に入っても、それぞれ違う道に行っても、私はあっ君の事だけを見ているよ。それに奈々子も翔子も両国高校に行くって言っていたわ」
「そうしたら、もう僕達はバラバラになってしまうじゃない」
すると涼子さんはケラケラと笑い出した。
「あっ君、そんな事を気にしているの?」
「そんな事って言わないでよ。こっちはその事で真剣に考えているんだから」
「あっ君、私達はいつも一緒だよ。借りにあっ君が通信制の絵の高校に行こうと、私と奈々子と翔子はいつも一緒に勉強していくつもりだよ」
「そうなんだ」
そんな時、翔子さんと奈々子さんが現れて、そろそろ新聞配達の仕事に出かける時間になってしまった。
そうか、僕達はいつまでも一緒かあ。それを聞いて僕は少しだけ安心した。光さんと涼子さんの話は少し違っていたが、それでも僕達はいずれ別れる日が来るのだろうか?




