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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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熱い口づけを

 バンドのコンクールはダメになってしまった。でも仕方がない、僕は無理をしすぎて過労になって体を壊してしまったからだ。勉強に新聞配達に小説に絵にそれにバンドの練習までしていたのだから諦めざるを得ないだろう。それに三人も過労気味だと言っていた。


 そして数日が経って、僕の体は回復して万全の状態になったが、この心にぽっかりと空いた穴をどうすれば埋められるか土手の星空を見つめて考えてぼんやりと悩んでいた。本当にコンクールに向けて頑張っていたのに、こんなのってないよな。僕は何をやっているんだ。


 今は一人になりたい気持ちであった。それに何をする気にもなれなかった。このままじゃあれほど楽器の練習をしたのに楽器の腕も落ちてしまうだろう。それでも夜空の星は綺麗に輝いていた。


 今は春なのでアルクトゥルス、スピカ、デネボラ何て言う春の大三角が見られる。そう言えば僕は悲しいとつい夜空の星を眺めてしまう。東京の空はあまり星が見えないが、いつか満点の星が見えるところに行きたいと思っている。


 それよりもこのぽっかりとした心の隙間を埋めたいと思っている。僕はこんな所で何をしているんだろうと思っていると、茂みの方からガサガサと音がして誰かがやってくるような気がしてきた。


「誰?」


 と恐る恐るジッとしていると、熊でも出てくるのかと思っていると、僕の恋人の涼子さんが現れた。


「ヤッホーあっ君、やっぱりここにいたのね」


 涼子さんは誰をも魅了してしまう、笑顔で僕の所にやってきた。僕は涼子さんを始め奈々子さんや斎藤さんに申し訳なくてまともに顔を合わせる事が出来なかった。


「ここだと真っ暗だから、凄い星が良く見えるわね。田舎の方では満点の星空が見れるんだけどね。あれがアルクトゥルスにデネボラにスピカで春の大三角が見られるわね」


「良く知っているね涼子さん」


「あっ君の影響で私も星に興味がわいてきてね」


 そうなんだ。僕は涼子さんにこんな所を見られて気まずかった。


「それよりもどうして僕がこの場所にいると分かったの?」


「以前言っていたよね。あっ君は何かあるとこの場所に来るって」


 そして涼子さんは改めて星を見つめて僕の手を握ってきた。


「あっ君、あまり自分を責めないでよ、そんなあっ君を見ていると私はたまらなく切なくなってしまうわ」


「だって僕が体長を崩さなければ、バンドのコンクールに出場出来たのに」


「あっ君、目を閉じて、僕は言われたとおり目を閉じた」


 言われたとおり目を閉じた。


「そして少しかがんで」


 どうやら西宮さんは僕にキスをするつもりだ。涼子さんは体が小さいので僕にかがませてキスをするつもりなんだろう。だから僕は言われたとおり、目を閉じてかがんだ。すると涼子さんは僕が思ったとおり、僕に小さな口づけをした。


 僕はきょとんとして、何か心の隙間が空いた穴がみるみると塞がっていった感じがした。そして大切な物が沸々と頭の中に蘇って来た。僕は一人じゃない。涼子さんの口づけで僕は目覚めた。悔しいのは僕だけじゃないんだ。涼子さんも奈々子さんも斎藤さんも過労気味だと言っていた。それに僕はコンクールに出られなかったことを一人で抱え込まず、みんなとこの事を相談すれば良かったんだ。


 そして僕は思い出した。喜びも悲しみも分け合えばその思いは強まると。そうすれば奇跡は起こると僕は思っている。


 そう涼子さんの口づけで僕の心は潤い、何かやる気に満ちてきた。


 僕は何か嬉しくてそんな小さな涼子さんを抱きしめて、涼子さんは小さくて軽いから、その体を持ち上げて、抱き上げた。


 僕の心はやる気を取り戻して、早速涼子さんと僕の家に帰り、何かやっていないといられないと思ってベースの練習をした。やはり、数日間ベースの練習を怠ってしまったため、腕が落ちていたが、また取り戻してやると思って、ベースギターを弾き始めた。


 何でベースギターを弾いているのか自分でも分からないが、何かをやっていなければ気が済まなかった。時計は午後九時を示している。すると涼子さんをはじめて奈々子さんも斎藤さんも参加してくれた。


 やっぱり僕達にバンドは捨てられないよ。だってあんなに頑張ったんだから。ここで止めたくはない。これからは勉強も小説も絵も程ほどにしておこうと、僕は思った。もちろんバンドも含めてだ。


 何かこうしてみんなとバンドをしていると燃えてくる。ちなみにドラムはないので涼子さんは枕や座布団なんかを叩いていた。でも音からしてちゃんとメロディーになっている。バンドの練習は午後十一時まで続いた。そして明日も新聞配達の仕事に出かけなければならない。



 午前三時僕達はスイッチが入るように眠りから覚めた。四人分の食事を作ろうとしていたら奈々子さんと涼子さんが台所に立って朝ご飯を作ってくれていた。


 メニューはスクランブルエッグにトーストにトマトサラダだった。


「涼子さんも奈々子さんもそんなに無理しなくても良いのに」


「何を言っているのよ、あっ君は病み上がりなんだから、少しは休んでいなさいよ」


「そうよまた無理をされてアツジに病気にでもなってしまったら、何も返す言葉も見つからないわ」


 涼子さんと奈々子さんは言う。


 涼子さんと奈々子さんが作ってくれた料理を食べてエネルギーチャージ、僕達は新聞配達の仕事に出かけた。


 今日は僕と涼子さんと組むことになり、もう一方は奈々子さんと斎藤さんが組むことになった。


 今日の僕と涼子さんは燃えていた。スランプを脱出すると、得たいのしれないパワーがみなぎってくる。


 そして仕事が終わり「今日は僕達の勝ちだね、涼子さん」


「ええ、多分ね」


 新聞配達所に戻ると、すでに奈々子さんと斎藤さんが仕事を終えて戻っていた。


「あれ、もう二人とも仕事を終えてしまったの?」


 僕が言うと奈々子さんは「何よあなた達勝ちを確信していたの?燃えているのはあたしと翔子も同じなんだから」奈々子さんは勝ち誇り、翔子さんとにんまりとスマイルを見せてくれて僕は最高に悔しかったが、ライバルはこうでなくてはいけないと思って、他の分野で勝ってやると躍起になっていた。


 よしこれから時間はあるので、勉強を三十分、小説も三十分、バンドの練習は一時間にしてそれから学校に出かけた。


 学校での授業は簡単すぎて、小テストも難なくこなしていった。中学でもう出来ない問題など僕にはない。高校になったらもっと難しくなり、何かを犠牲にして勉強をしなければならないのかもしれないが、何かを掴むことで僕達は何かを諦めたりはしない。


 僕達四人の力はこんな物じゃない。僕達の思いは一つだ。誰にだって負けはしない。勉強でも小説でもバンドでも、絵でも。


 それよりも僕は葛藤していた。こんなに成績が良いのだから、高校はどこか都立の安い進学校に行けば良いんじゃないかと僕は思う。でも僕は絵を描くことが大好きだが、高校でもまた四人でバカをやっていたいと僕は思っていた。


 学校が終わって、小説のアクセス回数を見てみると、僕が二千で奈々子さんも二千で、涼子さんは千五百で、斎藤さんは二千五百だった。相変わらず翔子さんの数には勝てないと感服させられてしまう。


 小説は勉強と違って、インスピレーションが大事だ。良いアイディアが浮かんだらすかさず小さなノートに書いて、後でまとめる作業を僕達は怠らない。


 そして僕達はいつものように僕と涼子さんの家に行って勉強を三十分、小説を三十分、それにバンドの練習を一時間やったら、新聞配達の仕事に出かける時間だ。


 今日も一日頑張ってやると、本当に時が足りないほど僕達の熱は冷めやしなかった。僕達はコンクールに出られなかったからって落ち込んでいる暇なんてない。もしこの四人の誰かがくじけていたら、僕はその先を行くつもりだ。遠い空を目指して僕達は飛び立って行く。

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