アツジの本当の気持ち
西宮さんは僕のことが好きでいる。困ったようで嬉しいような感じである。
「な、何を言っているのよ、涼子、アツジはあたしの恋人なんだから、アツジからも何か言ってあげてよ」
何を言うって言っても何も言い返せる状態じゃ無い。僕は正直嬉しかったんだ。西宮さんが僕のことを諦めて無いことに。でも僕には奈々子さんと言う女性がいる。
「何あつじ黙っているのよ。何とか言ってあげてよ・・・もしかしてあなた涼子に好意を持たれて嬉しいんじゃ無いでしょうね!?」
「それは嬉しいけれど・・・」
すると奈々子さんが思いきり僕に向かって顔を叩かれた。
「バカ!」
そう言って奈々子さんは家から出て行ってしまった。
「ちょっと奈々子さん、話は最後まで聞いてよ」
しかし、奈々子さんには僕の言うことを聞く事はなく、どこかに行ってしまった。
そこで桃子が「ちょっとお兄ちゃん。ひどいんじゃ無いの?お兄ちゃんは奈々子さんオンリーじゃないの?」
光さんが「まあ、奈々子ちゃん素直じゃ無いところがあるから、それに人の話を最後まで聞かないのは相変わらずね」
「とりあえず僕は探しに行くよ」
すると西宮さんは「ほおって置きなさいよ。あっ君に対する奈々子の気持ちはその程度だったって事よ」
「そんな西宮さんが変な事を言うから奈々子さんは・・・」
「奈々子は何?あっ君、なんだかんだ言って私の事も好きなんでしょ」
「だから、それは、その、あの」
「うろたえているところを見ると本当は私にも好意があるって事だね」
「とにかく僕は奈々子さんを探しに行くよ」
そう言って、まだ奈々子さんは遠くには行っていないようだ。春の夜は冬ほどじゃないがまだ肌寒い。こんな中また風邪でもひかれたら、また大変な事になってしまう。これも安井のラブレターから始まったことだ。本当にあいつは疫病神だよ。僕達の関係を壊すような事を平気でする。
とは言ってもこれは安井のせいじゃないだろう。僕の心には西宮さんを好意に抱いている自分が存在している。僕は奈々子さんをもっと好きな気持ちをアピールすれば良いんだ。僕は西宮さんの事はどうも見ていないと言ったら嘘になるが、僕は奈々子さんを一人にしてしまったら、奈々子さんは永遠の闇に消えてしまうんじゃ無いかと思っている。
そう言って僕は走り続けた。もしかしたら、奈々子さんは以前僕達で星を見に言ったところにいるんじゃ無いかと思って、そこに行ってみると、案の定、奈々子さんはそこにいた。
「奈々子さーん!」
そう言って奈々子さんの所に行った。
「何よアツジ、あんたは涼子の事が好きなんでしょ。早く涼子の所に戻れば良いんだよ!」
「僕は奈々子さんオンリーだよ。僕の恋人は奈々子さん以外に誰もいないよ!」
「本当なんでしょうね!」
「本当だとも!」
「でも、涼子に好意を持っているのは本当なんでしょ!」
それは嘘はつけないので僕は正直な気持ちを奈々子さんに伝えた。
「確かに西宮さんの事を思う気持ちはあるよ!でも僕は奈々子さんオンリーだよ」
「そう言って本当はあたしがアツジから離れたら、あたしが独りぼっちになってしまうことを恐れて、付き合っているだけなんでしょ!」
知られているとは思っていたけれど、本当に奈々子さんは僕がいなくなったら独りぼっちになってしまう事に恐れていた気持ちがばれてしまっていた。
「あたしは大丈夫だよ。だから心置きなく、涼子と付き合えば良いよ!」
「いい加減にしてよ奈々子さん。僕は奈々子さんの事しか見ていないよ!」
そこで後ろから「バレバレの嘘をつくのねあっ君は」西宮さんの声が聞こえて振り向いて見ると、薄ら笑いをしている西宮さんがそこにいた。
「西宮さん。どうしてここに?」
「奈々子の事だから、本当はあっ君に探して欲しいと思っていたんだよきっと奈々子は、だから奈々子はこの場所にあっ君が来てくれることを望んでいたんだよ!」
「・・・」
図星なのか奈々子さんは黙っている。
「どっちだって良いよ、僕は奈々子さんの恋人なんだから。奈々子さんも僕のことが好きな事は変わりは無いよ。とにかく奈々子さん帰ろうよ」
すると奈々子さんはまたどこかに行こうとしている。僕が追いかけようとしたが、西宮さんに引き留められた。
「あっ君、あんなのほおって置いて、私の所に来なよ。あっ君は私の事も思いをはせているんでしょ」
「でも奈々子さんは僕がいなくなったら独りぼっちになってしまう」
「そうやって奈々子の事を見ていたのね。それじゃあ、奈々子がかわいそうだよ」
「奈々子さんがかわいそう?」
「あっ君は奈々子のことを好きな気持ちはあるけれど、それは奈々子の事が独りになってしまうことをあっ君は恐れていたんだよね」
確かにそうだ。奈々子さんが僕が恋人で無いと奈々子さんは独りぼっちになってしまう事を僕は大変恐れていた。
「大丈夫だよ。奈々子は独りじゃ無いよ」
「どうして奈々子さんの事を何も知らないでそんな事が言えるの!?」
すると西宮さんは僕に抱きついてきた!
「ちょ、西宮さん!?」
「大丈夫だよ。奈々子は独りじゃ無いよ。私は奈々子の友達兼ライバル関係だと思っているから。それに翔子も」
僕は西宮さんの抱擁を解こうとしたが、解くことは出来ずに西宮さんの誘惑に勝てなかった。そうだ。奈々子さんは一人じゃ無い。僕は今一認められないが、西宮さんの事が好きな気持ちの方が強かった。
「独りぼっちと言ったら私だって独りぼっちだよ」
考えてみればそうだ。西宮さんは便所に産み落とされて両親の顔も知らずに今まで施設で過ごしてきたんだ。それに西宮さんはその事を理由に卑屈になったりはせずにいつも明るく過ごしている。
そうだ。僕はそんな西宮さんが好きなんだ。それに奈々子さんは独りぼっちじゃ無い。もう恋人では無くなったが、僕がいる。それに西宮さんと斎藤さんと光さんがいる。奈々子さんは僕が恋人で無くなって、凄い精神的に追いやられてしまうのかもしれない。そう思うと僕の胸が凄く痛み出した。
西宮さんの抱擁は凄く暖かく、僕の心の性感帯を刺激する。
「僕は涼子さんの事が好きだ」
「やっと素直になれたね。私もだよあっ君」
確かに僕は涼子さんの事が好きだ。でも本当にこれで良かったのか?きっとどこかに奈々子さんを思う気持ちが僕の心のどこかにあるのだと思う。でもこれからは西宮さんと付き合うことになったのだから、悲しいことかもしれないが、奈々子さんとは四五ヶ月の付き合いだったが、その足跡を消していくしか無いだろう。
そして僕は今僕を抱きしめている西宮さんを抱きしめ返した。すると西宮さんの大きな胸から凄い早さの鼓動を感じることが出来る。半場西宮さんは僕のことをからかって好きだと思っていたが、そうでは無かった。僕も西宮さんとは相思相愛だった様だ。
そろそろここにいると寒くなってきたので、僕と西宮さんは僕と奈々子さんの家に戻ることにした。家に戻ると斎藤さんだけが僕と奈々子さんの家にいた。
「二人とも何をやっていたの?」
「別に何もしていないよ。会えて言うなら、私とあっ君はこれから付き合う事になったから」
「それよりも奈々子さんは!?」
「分からないけれど、光さんが奈々子さんの事を探しに行ったわ」
僕は奈々子さんの事が心配だった。そして僕の携帯に連絡があった。光さんからだった。
「もしもし光さん?」
「あっ君、とにかく奈々子ちゃんからは事情を聞いたわ。西宮さんと付き合うことになったんだね!」
僕は受話器を耳に当て、目を瞑り、気まずそうに「はい!」とだけ返事をして置いた。




