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同棲の一人暮らし  作者: 白瀬シキ
4/4

ここの事故物件は幽霊がでるらしい…(4)


「さて、帰りますかね」


 あいつの手伝いも済んだことだし。

 あまり遅くなると《れーこ》が心配するから。まだ出会って一週間も経ってないのに、遠慮なく早く帰ってこいと言ってくるようになった。さみしいだとか、やっぱり幽霊は嫌なんでしょとか。嫌なもんか、誰のおかげでこの家に住めてると思ってるんだ。

 だけど少し鬱陶しくも感じる。《れーこ》がいたら一人になれる場所がない。小さいことも口うるさく言われてしまうのは面倒だ。結婚生活を何年も続けている中年のサラリーマンの気持ちがわかる気がする。


「ただいまー」

《お帰りなさい!今日は早かったね》


 お前は犬かと言いたくなるほど素速く玄関まで迎えに来る。ドアを開けるとか、歩くとかいう動作がないので速いのは当たり前だけれど。


「ごはんつくって」


 カップ麺を食ってると横から健康に悪いだの言ってくるくせに、何も持てないから料理も作れない。男が外で働いて、幽霊が家事をする文化ならよかったのに。


《できないものはできませーん》

「じゃあ今日もカップ麺です」

《健康に悪い。せっかく生きてるんだからおいしいもの食べなよ》



 言うと思った。何度目だこの流れ。そんな金も時間も技術もない。だから人類の発明品を有難く食べているのに。


「ほっとけ、何食べようが死人には関係ないだろ」

《なにその言い方、心配してるのに》

「疲れてるんだよ、勉強もしたい。お前の話し相手するほど暇じゃないんだよ!!」


 課題の提出期限が明日に迫ってる。この家にいるだけの《れーこ》とは違う、いっぱいいっぱいの毎日。なぜだか今日は一緒にいるのがすごく嫌になった。


《どこに行くの?》

「ほっとけ!!」


 勢いよくドアを閉めて家を出た。課題と財布とスマホだけを持って。




 あのまま、駅前のネットカフェに一晩泊まった。他の誰もいない個室に籠って課題を終わらせ、コーヒーを飲みながらネットサーフィンをして過ごした。多少周りの音は聞こえてくるが、誰も自分のやることに口出しをしてこない。なんて快適なんだ。そう思うのと同じくらい構って欲しそうにする人がいないことに物足りなさを感じた。


 勝手なことを言ってしまった、ひどいことを。頭を抱えて後悔した。彼女だって死にたくて死んだ訳じゃなかろうに。もっと生きたかったに違いないのに、死んだ人間には関係ないなんて言ってしまった。


「…帰ろう」


 一度家に帰って、謝ってから課題を提出しに行こう。善は急げ、だ。

無気力な店員に見送られながら店を出て、家に向かって歩きだす。あんなところにカフェがあったなんて。黒猫がまだ開いていない肉屋の前で鳴いている。普段は自転車で通る道も、歩いていると違う雰囲気に感じて新鮮だった。


「あら、新聞屋さん」


 アパートまであと少し、というところで自宅の前の花壇に水やりをしていたおばさんがそう声をかけてきた。


「いつもありがとうね。お家はこの近くなの?」

「はい、あそこのアパートです」


 少し先に見えるアパートを指す。いつもならこういった会話には付き合わないが、なんだか今日は話したい気分だった。昨日あまり会話をしなかったからだろうか。


「あそこ、殺人事件があったところじゃないの!知ってるの?」

「紹介してもらったときに聞きました。可哀想ですよね、まだ若かったのに。殺された女性。」


 そう言うとおばさんはぽかんとした。


「違うわよ!殺されたのは男性よ!」

「えっ?」

「あの部屋に住んでいた男性が、ストーカーの女に殺されたのよ!」


 待って、頭が追い付かない。


「殺して、女は自殺したの。無理心中よ」


 じゃあ、彼女の首の生々しい紐の痕は。


「か、帰りますっ」


 冷や汗が止まらない。まさか、そんなことは。全速力で走って、玄関を開けた。ワンルームのドアの前、彼女は笑顔で立っていた。




《おかえりなさい、何してたの?》




 新聞の端っこに『貧困大学生の遺体発見』と書かれた記事があった。


「…やっぱり連れてかれちゃったじゃんか」


 自転車に新聞を積み込む。乗り手のいなくなった一台がぽつんと置かれていた。


最後までお読みいただきありがとうございました!

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