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1話 一日一万字、感謝の執筆活動!!

 俺は自由だ!!

 アテクシは小説家である。収入はまだない。


「なぁんでだよおおおおぉぉ!!」


 とりあえず、ノートパソコンの前で藤原竜也ばりに叫んでみる。マジ意味不明なんですケド。昨日のアクセス6人って何これ?何これコレクションだよこのハゲ。そうだ。真由子、行こう。


「このハゲえええぇぇぇ!」


 再び叫ぶ。今度は豊田議員であった。このペットボトルや菓子の袋が散乱って言うか産卵してんじゃね?ってくらいの汚部屋の中心で、愛を叫ぶ。いや愛じゃないし恋でもないけど。


 そう言えば、愛って何なんですか?


「ハルエ、うるさいよ!静かにしな」


 下階より響く怒声。母であった。これも愛?あれも愛?あれモアイ?なんで愛しい一人娘をモアイみたいな顔面に産んだのですか、母上様?


「すまねえ。ちょっとあれだ、PMSなんで許してちょんまげマーチ」


 アテクシは静かにドアを開け、形式的な謝罪を済ませておいた。優しい母。こんなヤベー娘を、28年も面倒見てくれる母。




 ……嗚呼、母に恩返しがしたい。だから、それにしても金が欲しいっ……!無論、ワシは持っておる!ネタを、文才を……!


 ガチ涙が出てくる。アラサーやでワイ。何やっとんねん。もぅまぢ無理。ツイッター上でリスカしたフリしよ。アテクシはスマホを拾い上げた。無論、これも親の金である。


「……え、毎日1万字?マジ卍?」


 アテクシは思わず呟きと、屁を漏らしてしまっていた。


 くさっ。


 ちょ、これあかんやつや。窓を開放して換気しつつ、一応パンツを膝まで下ろして確認。うん、ギリギリ耐えたようだ。流石アテクシの括約筋。


 廊下に出てトイレに籠り、再度スマホを確認。


「毎日1万字を半年続ければ、デビュー確定……だとォ!?」




 内容はこういうことだ。物書きには人生経験も文学的素養も大して必要でなく、ただ1万字という物量さえヒリ出し続けることが出来たなら、誰でもプロになれる。金が入ってくる。


 金。金。金。無職として恥ずかしくないのか?便器の中心で、アテクシは自問してみる。


「羞恥心など、とうに忘れたドン!」


 何故かワンピースより太鼓の達人みたいになってしまったが、今まさに決意は固まった。


 アテクシには時間がある。タイピング速度もある。そして、溢れんばかりの独創性があるッ!


「今までクオリティに拘泥しとったのが失策やったんや!必要なのは質ではなく、量!


猿や!アテクシは文字を打つ猿になるんや!!」




 アテクシは決意した。必ず、かの邪智暴虐の「小説家になろう」を制覇せねばならぬ。なろう王に、アテクシはなる。


「キャオラッッ」


 アテクシのタイピングは音速を超える。ちょっと全力で叩きすぎてエンターキーがぶっ壊れたが、また拾い集めてリサイクル。




 ……ハルエ、28歳、夏。


 己の学歴と経験に限界を感じ、悩みに悩み抜いた結果、アテクシがたどり着いた結果は、感謝であった。


 自分自身を飼い殺してくれた両親への限りなく大きな恩。自分なりに少しでも返そうと思い立ったのが


「一日一万字、感謝の執筆活動」!!


何も気にせず、何も考えずキーボードを叩く。


 一連の動作を1000字こなすのに当初は約1時間、一万字を打ち終えるまでに、初日は12時間以上を費やした。


 打ち終えれば、倒れるようにパンイチで寝る、起きて打つを繰り返す日々。


 2ヶ月が過ぎた頃、異変に気付く。


 一万字打ち終えても、日が昇っていない。


 5ヶ月を超えて、完全に羽化する。


 感謝のタイピング1万字、1時間を切る!!


 代わりにエゴサーチの時間が増えた。


 ネット上にアップし終えた時、アテクシの文章は、読者を置き去りにした!!




 ……いや、アクセスは増えたよね間違いなく。では感想欄を見てみようではないか諸君。


「ゴミです」

「うんこ」

「幼稚園児」

「猫がタイピングしたんですか?」


 続いて評価だ。


「文章評価 1.3」

「ストーリー評価 2.1」


 むしろ、これに1以外の数字を入れた奴の脳内どうなっとんねん。


 さて最終話のダイジェストを紹介してみよう。




「最強対無敵、剣技のぶつかり合い!


キィンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンガギィギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン、ザグッ!!


『ぐあっ』


 左腕を落とされ、思わず声をあげるゴリゴリゴーリラモアイ。しかしその眼は死なず。


『まだまだぁッッッ!!』


キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガキィン!!!」




 どうだろう、この作品。ツイッターでも軽くバズるレベルだ。


 その全てが罵詈雑言、もしくは「ここまで振り切れるの逆に凄い」みたいな意見。


「なぁんでだよおおおおおおぉぉッッッ!!!」

「ハルエ、いい加減にして。近所に聞こえてるから!」




 いや、逆に考えるんだ。バズっちゃってもいいさ。そう考えるんだ。今、アテクシは注目されている。まだ陽は沈まぬ。セリヌンティウス。


 いや、まだ陽は沈まぬ。大事なことなので2回言いました。

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