表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

第九話 じゃんけんとスライム part3

「はぁぁ……」

 シロノの負けという結果に、頭を抱えた。いや、違うな。

「俺って、そんなに信用ないんだな」

 心から『チョキを出さない』と誓ったのに、彼は俺が『チョキを出す』と読んできた。グーを出したシロノに俺のパーが勝ったというわけで――。

「だって、だってだって! 僕にトラウマを植え付けた奴だよ! 信じられると思う⁉」

 いや、ギルドのあれはシロノが席にいたことに気づかなかったことが、悪いと思うけど……。

「つーか、本当に信じられなかったんなら、チョキを出せばよかっただろ」

 俺は賢くない。だから、勝とうとする。そして、俺の手はグーとパーしかない。

 単純な話、|パーを出すに決まっていた《・・・・・・・・・・・・》。

 シロノがチョキを出せば、パーを出した俺は負け。チョキを出せば、俺が約束を破ったとしても引き分けだ。

 つまり、負けはなかった……はずなのに。

「勝ちたかったんだもん……」

 ということで、裏を読んだシロノの負けだ。

「この勝負、シロノに滅茶苦茶有利にしたはずなんだけどな……」

『チョキを出さない』それは初手だけじゃない(・・・・・・・・)

 つまり、俺はグーとパーしか出せなかった勝負を自分で作り上げたんだ。あげたのに……!

「何その顔⁉ 軽蔑してる? してるの⁉」

 そりゃあ、するだろ。……はぁ。

「いや、まさかとは思うけど。それを分かってて、わざとグーを……いやごめん。忘れて」

「どうして、途中で止めちゃうの⁉ 最後まで言ってよ‼」

 スライムを触りたくない俺を気にして、わざと負けたのかと思ったけど。それはさすがにないか。

「聞こえてるからね! 嗚呼、ひどい!」

 ひどいのはどっちだよ……ったく。

「勝負だし、頑張れよ」

 じゃんけんがメインじゃない。スライムを素手で狩る人を決めるじゃんけんなんだ。

「……ねえ、キラ君? 提案があるんだけど」

「ん、なんだ?」

 もじもじし始めるシロノは、氷で作った剣を作り、手に持った。

「これで、やっても――」

素手で(・・・)って言ったはずだぞ」

 ああ、俺はちゃんと言った。自信をもって言おう。言った!

「で、でも……せっかく武器があるんだし……ねっ?」

「ねっ、じゃねえって。頑張れよ、そこは」

 背中を押すが、駄々をこね始めた。

「イヤだよ! だって、あれ絶対、感触気持ち悪いじゃん! しかも殺さないといけないって……どんな罰ゲームなの⁉」

「じゃんけんで勝てば、よかった話じゃん」

「真顔で正論言わないでくれます⁉ その通りなんだけどね!」

 分かってるんなら、いいだろ。

「じゃあ、頑張れ。俺は応援しかできないから」

「あの……ちょっとは手伝っても……やりたかったら、やってもいいんだよ?」

 チラチラこっちを見ながら言われても、

「やらねえよ。俺だってやるの嫌だよ」

「うぅ……分かったよ。やってやるよ!」

 やけくそ気味だが、覚悟は決まったようだ。

「……震えてんねぇ」

「えっ、ふ、震えてないから!」

 いや、確実に震えてるから。足ガクガクしてるから。見栄張るなって。

「あっ、もしかして武者震いってやつ?」

「だから震えて――そ、そうそう。武者震い、武者震い。いやぁ~早くやりたいなぁ」

 ……そうか。

 俺は静かに見守ることにした。

 シロノは一番近いスライムに近づき、左拳を振り上げた。

 再確認、と振り返った彼は俺と目を合わせるなり、肩を落とした。

 拳がスライムに当たると、それからなんとも言えない音を出し、その場に止まった。

 数秒シロノも止まり、再び拳を握る。

 スライムは貧弱で。たった数発殴るだけで、光を帯びて消えていった。

 さっきまで見栄を張っていたシロノからは想像つかない台詞が聞こえた。


「……なにこれ…………おもしろい……かも…………」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ