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第七話 じゃんけんとスライム part1

 閉じていた眼を開けると、そこは薄暗い階段下ではなく、別世界。

 木が無数に生えている森の中だ。木々のすき間から白い光が射しており、森全体が白と緑に染まっている。

 大自然に囲まれた中、足元に魔法陣があった。

『帰る時はここに立てば、いいんだって』

 ほぉ、なるほど。

『じゃあ、やばくなったら逃げれるってことか』

『そうことだね。ま、極力モンスターを倒してほしいみたいだけど。次来るときに転送された目の前にモンスターが居たら、困るからって言ってたよ』

 それもそうだな。その作戦は命が危ないときに使おう。

 俺たちは目標モンスターを探しながら、木々を縫うように歩く。

 あっという間に森を抜けてしまった。

『ねえ、抜けちゃったよ?』

『スライムのいる場所って知らないのか?』

 う~んと声に出しながら、思い出そうとする。

 思い出したようで、バッ!と顔を上げるシロノ。

『スライムの特徴はジメジメしたうす暗いところに集まりやすいよ!』

 そうか……そっか。

『戻るか』

『そうだね』

 目の前は日に照らされた影一つもない草原が広がっていた。

 スライムの特徴とは真逆の環境だ。

 すぐに見つかるかと思っていたが、これは面倒だ。見た感じ、この森は大きい。

 それに魔法陣から離れれば、迷子になる可能性が高まる。

 歩いてきた方向を気にしながら、振り返った――


 ――その時。

『あれ、スライムじゃね?』

 草原の中に水色の小さい丸いものが見えた。

 俺も驚いたが、一番驚いたのはシロノだった。

『えっ⁉ どうし――いやいや! スライムが不得意の環境だよ! 日に当たってたら、干からびちゃうって――……ホントだ。いるね』

 だよな。

 別にシロノの情報を疑ってるわけじゃない。むしろ信じてる。

 けど、事実は違った。まあ、生きてたらよくあることでしょう!

『ちゃっちゃとスライム殺して、帰ろうぜ。とりあえず、今日の晩飯代と朝飯代。あわよくば、昼飯代も稼ごうぜ!』

『お腹空いたぁ! ご飯食べたいよぉ!』

 俺とシロノはスライムに向かって走り出した。


 ※※※


「「…………」」

 言葉を失った。思考も止まった。

 俺は〝これ〟をどうにか理解しようと、一から整理を始めた。

 いま目の前にいる〝これ〟は見た目通り、スライムだ。

 水色の体をした小さな丸いモンスター。

 大きさは膝より少し下。小さいとは言えないが、大きいとも言えない中途半端の大きさだ。

 次に動きだが……。

 最も分かりやすい例えは『毛虫』だろうか。身体を伸ばしては、縮める。これの繰り返しで進んでいる。

 とてもゆっくりで、特にそれ以外思うことはない。

 ……うん。こいつの一番印象――悪いところがね。ちょっと……だいぶ嫌。

 身体を伸ばすときに「ニュチョ」と何とも言えない音を立てている。

 さっきも言ったが、動きがゆっくりだからこの音は気にならない。

 ああ、一匹ならな(・・・・・)


「文句言っていいよな? 気持ち悪ぅ……」

 周りに二十ほどの数が音を奏でながら動いている。……っるせー。

「ねえ、ほんとに早く終わらせちゃお」

 そうだな……。

「じゃ、キラお願いね」

 おう、任せ…………

「おい待て」

 おかしいだろ。任せろ言っちゃったけど、おかしいでしょ!

「えっ? 何が?」

 キョトンとするシロノ。

「何がじゃねえ。なんで俺がやらないといけないんだよ。どうして⁉ おかしいよな!?」

「そう?」

「えっ、俺がおかしいの……?」

 だって、なんか知らないけど俺がこいつらを殺らないといけなくてて、押し付けて……。

「おい、押し付けは止めろ。ここは公平にじゃんけんで決めよう」

 俺だって触りたくない。見た目から察しが付く、感触が気持ち悪いんだろう。シロノだって、俺と同じことを思ってるんでしょう。

 勝てば、殺らず。負ければ、殺る。簡単な平等で決まる理由(・・・・・・・・)だ。

「確かに君が言ってることは間違いじゃない」

 だろ?

「けど、それには大きな欠点があることに気づいてる?」

 大きな、欠点?

 じゃんけんは平等。相手の思考を読めるのなら、話は別だけど。

 ……あっ。

「おい、まさか」

 さすが心を読める野郎だ。何も言う前に首を振っていた。

「いやいや、やらない。やらないって。いい? 僕はずっと心の声が聞こえるわけじゃないよ。君が僕の話を聞かなかったときのように、意識を外せば、心の声は右耳から左耳にすり抜けていくの。誰かさんみたいに」

 ……こいつ、プランクトンの説明の時に俺が話を聞いてなかったことをまだ恨んでるのかよ。根に持つタイプか、めんど……

「えっ? 何?」

 笑顔で迫ってくる圧に一歩引いてしまう。

 ……面倒だなんて、えへへ。そんなぁこと、思ったことないですはい。

 やべえ、次から気を付けない……とッ! なんでもない!

 俺の必死の抵抗に呆れたようで、ため息をついた。

「ま、君がそういう人だってことは知ってるんだけど。で、欠点は思い付いた?」

 だから、欠点はお前が心を読め――

「…………」(話を聞け、の笑顔)

 はい、心を読むことじゃないですね。ちゃんと話聞いてたよ。

 しかし、それじゃないってことはどういうことだ?

 どうせ心を読んでいたんだろう。分かっていない俺にため息をついた。

「あのね、一番の問題児がいるじゃん。そのじゃんけん、ルクロも参加するんだよね?」

 えっ? どうしてルクロも参加することが欠点なんだ?

「だぁから! 今、ルクロ寝てるんだよ!」

 …………察した。なるほど、理解した。

 もうマグマ一面になる、思い出せれない悲劇を繰り返したくない。

「二人でやるか」


 もう逆に清々しいくらいに思えた。

 ルクロ起きんくていいよ。


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