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第一話 サイコパスと殺気に満ちた弟たち


 君は悪魔のことをどう思う?


 人類語でノートに書いた素朴な疑問。その疑問は子供の好奇心に似ている。

 ただ気になるから。自分に都合の悪い答えが返って来ようとも関係ない、純粋な疑問。

 ペンにインクを付けて、その文字の下に書き込む。


 悪魔のことは良く思わないかな


『いや、嘘だね』


 たった一言、手を握られ、俺の思考を止めた。

 知っているナニカのはずなのに、知らない。

 その声に聞き覚えがあるはずなのに、知らない。

 忘れちゃいけないものを忘れたような……。そう例えるなら。

 起きたときに夢を見ていたような、けど内容を思い出せれない、あの感じに似てる。

 楽しかったような、悲しかったような、そんな曖昧(あいまい)記憶(ゆめ)…………


 そこで俺はぷつんと切れた。それはまるで寝落ちしたときのような感覚に似て


   ※ ※ ※


 ここは脳内。多重人格者だけが見れる世界。

 白に染まっているドームの中。その中なら思えば、何でも出てくる世界。

 そこに住む三人の人格。

 外からの干渉はできず、見ることさえできない閉じられた世界。

 彼らはそこで『兄弟』として住んでいる。その日常の話である――




 人間 それは生まれたときから才能を持つ種族 大抵の人間はそれに気づかない

 だが、察したとき、巨大な力を扱う種族

 獣人 それは生まれたときから戦闘能力に特化している種族

 初めから、個の力を理解している種族

 精霊 それは生まれたときから魔法を扱える種族

 プランクトンの扱いに特化している種族

 獣怪 それは生まれたときから獣人以上の戦闘能力を持つ種族

 獣人と似ているが、人型ではない種族


 魔族 それは生まれたときから才能を持つ種族 大抵の魔族はそれに気づく

 人間と似ているが、他の種族と共存を望まない種族




 古代文字をなぞりながら、現代語に訳していく弟。

 すごいなぁ、と感心しながら彼の後ろ姿を見守った。

 最後の文字に触れたとき、俺は声をかけた。


『相変わらず、すげえな。さすがシロノだ』

 シロノは振り返って、俺と目を合わせた。

 輝く白い髪と肌。青い宝石のような、ぱっちりとした瞳。性別は男だが、女に近い容姿。いわゆる、おとこの娘というやつだ。

 彼は誇るのかと思いきや、はぁ……と深く息をついた。

『あのね、今のご時世。これを読めるの当たり前だからね!』

『そうなの?』

『そうだよ!』

 また深くため息を吐いた。そっかぁ……そういうものなんだな。

『じゃあ、あの人はどうなんだよ。きっと読めないと思うけど』

 俺は空中に浮かんだ布団を指した。丁寧に言えば、布団の中で寝てるもう一人の弟を、だ。

 シロノはその布団を軽蔑した目で見ながら、

『あぁ……ぁれは別だよ。っていうか、あんなのと比べられたいの?』

『嫌です』

 自分の発言に付け加える。

『嫌だけど、あいつだって読めないと思うんだよ。比べられるの嫌だけど』

 ぽかんと口を開けて、表情を変えないシロノ。少ししたら、我に返ったようで口を動かす。

『……すごい「イヤ」って言うね。まあ、分かるけどね』

 共感してくれたのはうれしいけど、(これで君も、共犯だね☆)と内心思った。


「……さて」

 シロノは分厚い古代文字が書かれた本を閉じた。

 席を立ち、元の棚に戻す。その時、ふと隣の本の表紙が目に留まった。それは『魔法辞書』と書かれたこれも分厚く、そして大きい本だ。辞書の名は伊達ではないようだ。

「魔法……」

 ボソッと呟き、それを見たまま『これも読んでいい?』と問いかけてきた。

 さすが兄弟。通じ合ってんね~、と思いつつ、

『いいよ。俺も気になったし』

『ん。ありがとう』


 さっきと同じ席に戻り、辞書を開いた。外見から察していたが、年季の入った本だ。所々汚れが付いている。

 シロノはそれに気づかず――というか、夢中になっていて、それどころじゃないって感じだ。今回は現代語の本だけど。さっきのとは違い、隙間なんてないほどページの端から端までびっしりと文字で埋め尽くされていた。

 文字飛ばしをしないよう、指で文字を追いかけていくシロノ。

 俺も興味あるって言ったけど、これ見たら読む気になれないって……。

 改めて、シロノのすごさに驚いた。


 ある程度、読み進めたシロノは呟いた。

『……へぇ~。氷結魔法。プランクトンの動きを止めるイメージで、一点に凝縮……あっ、ホントだ。できた』

 本を右手で抑えて、左手には魔法で作り出した豆粒ほどの大きさの氷がある。少しすると、その氷は水色の光になって消えていった。

『なあ、シロノ? そのぷらんくとん?っての、なに?』

『えっ?』

 振り返ったシロノの表情はまるで「知らないの?」とでも言うかのような顔。

『…………知らないの?』

 言われたわ。

 予想はしていたけど、実際言われたらこぉ……傷つく。

 俺は小さくコクリと頷いた。再び目があった時、彼の瞳の奥に闇があるような感じがした。

 言われる前に謝ろう。そう決意した。

『……ごめんなさい。勉強したことなくて、ごめんなさい(泣き)』

 まあウソ泣きですけどね。さすがのシロノでも、これは見抜けまい!

『…………』

 さあ! 俺を慰めるがいい! 我が弟よ!

『……プランクトンってのは空気中にある肉眼で見れないほど小さな生き物のことだよ』

 …………あっれ~? おっかしぃな……?

『それを操作して、魔法を――』

 ど、どうして慰めて……いや、まずどうして心配してくれない⁉ 無視⁉ まさかの無視⁉ うわっ、ちょっとこれは本当に泣いちゃ、泣いちゃうなぁ……。

 チラッ。またチラッとシロノの顔を見る。一切こっちを見てくれない。

 これがガン無視というのか……悲しいなぁ…………


『――ってこと。分かった?』

『あっ、ごめん。聞いてなかっ――待って! 待て待て待てぇ‼』

 倒されて、シロノが覆いかぶさってきたと思うと、彼の左手にはナイフがあった。

 右手を伸ばし、彼の左手首を掴む。

『あ゛? どうして待つ必要があるの? ウソ泣きして僕の話を聞いてなかったキラ君ッ?』

 おぅ……バレてた。

『バレバレだって。君のウソ泣きって、わざとらしいんだもん』

 ォうマジか……そっか、わざとらしいか……そっかぁ。じゃあ次は、自然な感じで泣いて――

『ねえ、またウソ泣きしようとしてない?』

 …………。

『は? なになになに? 僕を疑ってるの? ちょっとシロノさぁん! 信じてよぉ~僕ぅそんなことしないよぉ』

 これは俺の悲痛な叫び。弟に信じられなくなった兄の叫び……。

『キラって、なんか……ううん。なんでもない』

『何それ気になるやつぅ!』

 そう言うと彼が持ったナイフがどんどん近づいてくる。


『とりあえず、刺されよっか』

『とりあえずじゃねえ! お前が置けよ! とりあえずさあ‼』

 俺も力を入れて、必死に抵抗する。

『なに⁉ 「刺されてもいい」だって⁉』

『そんなこと一言も言ってねえぞ⁉』

 おいおい、急にどうした? おかしいのはいつものことだけど、今日は一段おかし――

『言った! 「シロノのナイフで俺の内臓を出してください」って言った‼』

『お前の耳はどうなってるんだよ⁉ そんなサイコ発言してねえし言ったことねえし言いたくねえから言わねえよ‼ そんなこと言うから今ちょっと想像しちゃっただろ‼』

『僕も想像しちゃったよ‼ 結構グロイ‼』

『なに自爆してんだ! じゃあやめとけ! 手から力抜け! そしたら俺も力抜くから‼』

 おい待て! なんで力が増してるんだよ⁉ おかしいだろって‼

『キラの内臓見たくないけど、刺したいのぉ!』

『お前が一番サイコパスじゃねえか‼ やめろこのサイコ野郎‼』

『誰が野郎だよ⁉ 僕は女の子だって! 言ってるでしょッ‼』

『男だろうがッ! いい加減、自分の性別理解しろッ‼』

『理解してるよ! コレだって付いてるしね!』

『ソレを俺に押し付けんのやめろ変態‼』

『だ……だれがへんたいだって! そんなこと言ったら、キラだって押し付けてるじゃん!』

『お前のせいだろうがァ‼ お前が上に乗るから当たるつーか退けよいい加減さァ‼』

『それはいや。だって、退いたら刺せれないもん』

『真顔で言うな変態‼ っていうか、人を刺したいんなら、ルクロ‼ ルクロを刺して来いよ‼』

 ルクロは空中で寝てる弟だ。

 寝てるということは無防備。身体能力じゃ、この三人の中で一番だ。真っ向勝負したら、やられるけど、寝てる今なら。

『ってことで、刺してこい!』

『刺したいのはキラだからァ!』

 やべえ。ホントに変な性癖(こじ)らせてるな、これ。

『ちょっとま……』

 上から体重をかけられてるせいで、腕が痛くなってきた。やばい、これ本当に死ぬやつ……


『ぉお前らの方がいい加減にしろッッ‼ ぅるっせェエんだよッッ‼』


『『…………』』

 怒号が俺とシロノを止めた。

 上を向くと、さっきまで寝ていたルクロが眉間にしわを寄せて、怒っていた。

『オレの睡眠邪魔しやがって……ただじゃ済まねえぞ』

『…………おう』

 やべえなこれ。ルクロが怒った時は辺りをマグマに染める。冗談抜きで、ガチで。

 そのマグマは、ただのマグマじゃない。モンスターに化けて襲い掛かってくる。

 それに対抗する手段なんてなくて。たとえ、壁を作っても溶け、武器を作っても溶け、何もかも溶かす語彙力なくてごめん。「やばいやつ」と思ってくれたらいい。

『……ねえ、キラ。提案があるんだけど』

『奇遇だな。俺もだ』

 ルクロを怒らしたことは何回もある。だから、対処法は見つかってる。

 シロノは俺の体から退いてくれて、さっきまで向けていた殺気はなくなった。(代わりにルクロの殺気があるんだけど)

 今にして思うと、シロノの殺気はまだかわいい方だった。

 ルクロの殺気は足を笑かすほどだ。何回も体験してるはずなのに、まだ慣れない。いや、慣れちゃいけないのか?

 マグマが地面から湧き出してくる。肌が焼ける感触を感じながら、俺はシロノに。


『『犠牲になって(くれ)』』


『『……………………(ニッコリ)』』

 同じセリフを同時に口にし、シロノも俺も口元が緩んでいた。

 暑さのせいか死を前にして頭がおかしくなったのか、もしくはその両方のせいか。

 理由があるのか分からない。そんなのを気にする時間があるなら、今はシロノを犠牲にする方法を考えろ!


『さあ、二人とも焼けろ』


 再びルクロを見ると、彼はマグマで作った、顔はドラゴン、体は蛇、大きなヒレで体を動かしている奇妙な生き物を宙に浮かせて、こっちを見ていた。

『ぉっとこれは?』

『死ぬパターン? 二人仲良く?』

 もう感情は恐怖なんて忘れたようだ。反対に笑いが込み上げてくる。

『とりあえず、逃げよっか』

『そうだね! 逃げよう!』

 アハハ(笑)。結果は知ってるはずなのに、どうして逃げてるんだ、俺たち(笑)。

 楽しいと感じられた。アドレナリンが湧き出してきて、全力で逃げられないものから逃げようとする、命乞いが。


『《熔焔幻獣(マグス・ベット)》ッッ‼』


 その後の記憶はない。

 気づけば、俺たちは「ギルド」と呼ばれている建物の前で座り込んでいた。


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