【300字】朝霧に隠した想い
藤色の空にかかる電線までが、遠い。
アスファルトの敷かれていない近道を全速力で駆け抜けていく。
朝露に濡れた雑草がローファーに飛び散って汚れてるけど、あとでこっそり拭いておく。その時に前髪も化粧もしっかり直して、制汗スプレーを浴びて。同じ制服の、アイツだけが乗ってくる電車に間に合うように。
屋根のない駅に、霧をまとった一両編成の電車が滑り込んできた。
「おう、おはよ」
「あ、おはよ」
心の中で繰り返す。奇遇だね、今日もいるね、いつも一緒の電車だね。
心の中だけで。そりゃ一緒だ。これに乗らないと次は昼。
お互いにイヤホンをして、会話することもない。
ふたりぼっちの静かな朝に、イヤホンから片思いの歌が聞こえてきた。