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桜子さんのそんなに怖くないお話

拾ったビー玉

作者: 秋の桜子

 ビー玉を拾った。意味はない、落ちてたのと色が昔飼っていたネコの瞳に似てたから……何気なく拾いポケットに入れて、出社をした。


 ポケットの中に、コロンとしたビー玉。昼休みに陽にかざして見ると、きらきらと光る瞳の様、ただそれだけなので、再びポケットにしまうと……忘れた。あるどうでもいい出来事。


 *****


 ついてない、インフルエンザかよ、一人呟き、ワンルームマンションの部屋で、床についている。


 猛スピードで仕事中に、崩れる体調、思わずデスクに突っ伏してしまった、午後2時の事。


 ……おい!即座に帰れ!うつすなインフルエンザ!病院に行ってこい!と子持ちの上司が、異変に気がつくと血相変えて言ってくれた。


 はぁ、そういやお子さんインフルエンザとか、おっしゃってましたね、ありがとうございます……すまん、残り頼むわ、と隣に後をまかせた。


 はい、ではお言葉に甘えまして、と残りの仕事を同僚に預け、ふらふらと、その辺りの病院行くと……やはりインフルエンザの診断。


 家に帰り横になると動けなくなりそうなので、その場で、職場に連絡をいれると、規定にしたがって。お大事に、と休みを貰うと……どうにかこうにか部屋にたどり着き、寝込む事になった。


 僅か数日と、わかっているけど辛いなぁ……ベッドの回りには、脱ぎ散らかしたスーツが散らかっている。


 パジャマに着替えたかったけれど、ウィルスが猛増殖中、気力もなく布団の中は、ティシャツ一枚を着たっきりの姿。


 ここ数日忙しかったので、部屋の掃除もろくに出来てない……昨日食べた、おつまみのカワハギの匂いが漂ってる。何か嫌だな、空き缶も転がってるし……


 はぁ、病気になると、何故にそんな事ばかり気になるのか、このまま死んだら……うん、元気になったら、掃除しよう。


 力なく掛け布団を引き上げながら、痛む関節に、嘆きつつ寝返りをうつ。


 は、あ、口の中が、熱の為にネハネバとすると共に、嫌な臭いを含む気持ち悪さ。


 ………寝よう、起きてたら辛い、と目を閉じた。

 しばらくは、ため息をつきながら、テンテンと、堪え忍んでいたのだが、やがて……ことんと、眠りについた。



 ――キ、テシ……ヒタヒタ、ピチョン、ピチョン、ヒタヒタ、ヒタヒタ、ピチョン……カラカラかー!ダダダ!



 息苦しい闇の中で……音がする。水道?キッチンのか?え?え?風……窓……ベランダ……ダダダ?



 ――テシテシ、ガサガサ……カサカサ……クチュクチュ……ヒタヒタ、ヒタヒタ……カシカシ、ヒタヒタ……カラカラ!ダダダー!



 足、音か?なんだ、ペットなんて……昔実家で、ネコを飼ったきりだ、ぞ……今仕事があるから、飼えないし。



 ガシン!チャッ、チャッ、チャッ……トス、テシテシ、テシテシ……カサカサ、バス!ズザザザァー!



 おい、何?と、ゴクリと、息を飲み込みたいところだけど、カサカサに乾いている為に、音だけが火照った体に響く。何か飲まないと、薄く目を開くと



 夜が訪れていた。



 え、朝?朦朧としている意識の中、ひょいと何かが……何かが、な、に……



 ト……スン……



 え?え?え?今……足元に、飛び乗った?って、な、に?『何が』乗ったの?



 起き上がって、確認中したいのだが、高熱と関節の痛みに、襲われている夢うつつな世界な今、気のせいかと思う自分がいる。



 フス、フス……キシ、キシ……



 は?近づいて来て、る。何が?何が来てる?変な夢をみて、る、な……現実?


 どろどろと意識が堕ちていく、目を開けるのもめんどくさく、夢と思いたい自分、しかし今を知りたい自分。


 軽い音が足元から近づいている。どうする、このまま寝るのか、それを確認するのか、どうやら留まってるらしい。


 布団の沈んでいる感覚がかすかにする。


 視線を感じる……


 電気を点けたい、灯りが欲しい……携帯は、床かよ!どーするの。力を振り絞り、掛け布団を引き上げる。


 クッ!とした抵抗を感じた。いる。何かベッドの足元に、重石になってそこにいる。



 フ、ス、フス……



 来るな、おい、わけのわからんモノ……嫌いなんだよ。近づいて来るなよ。



 グールグールグール……キシキシキシキシ……トス、ガサガサ!ガサガサァー!ズザザザァー!カタカタカタカタ!ガラガラガラ!ゴン!



 はい?降りた?降りた?布団を引くと抵抗がない。その代わり闇の中で、暴れる音が響いている。



 クチャクチャ、クチャクチャ……ガシン!ベチャッ!チャッ、チャッ、チャッ、デジ!



 咀嚼の音、ガシン?意を決して、目をそちらに向けても、暗闇の部屋、視力が下がってるのか、全体に薄ぼんやりとして、確認がとれない。


 は、あ、と繰り返す息が浅い、熱い、湿ったこもる温度。耳に届く、聞こえる、他の機能は落ちているのに、聴覚だけは鋭くなっている気がする。


 眠りたい、しかし耳に届く音がそれを妨げる。



 ズリズリ、ズリズリ、テシ、テシ、テシ……



 く、来るな、来るな、くるな、近づいて来ている、来ているのがわかる。痛い、起き上がれない、熱のせいか動けない。


 怖いんだよ、怖いんだよ、近づいてくるな、



 ピロリーン!



 うわ!てメール音……近づくそれが止まる、助かった……ねよ、寝よう、はあ、と息を濃く吐く。



 ……チャッ、コトコト、コトコト、シリシリシリ…ガ!ゴト!スザァ!シリシリシリ、チャッ!ゴト!



 ……しかし状況は、許してくれない、何かが、闇の部屋で暴れている。薄れ行く意識、どうにかしたい、でも身動きできない体。ヒタヒタ再び近づく音。



 ヒタヒタ、ヒタヒタ、ヒタヒタ……ズサ!ジャ!



 ボ!ボス!ン!



 ぐ!ふ!うおお!イ、イテー!おい、な、なに、なに、な、くるな、くく、来るな!


 布団に潜ろうと、引き上げ様としても動かない、近づいて来ている。体を踏んで、重い、重い、熱のせいか凄く重い!



 ズン、ズン、ズン……フンフンフンフン、フスフスフス……



 湿った息が顔にかかる、魚の匂いか、生臭いそれが顔にかかる。



 ザリ、ジョーリ、ジョーリジョーリ……



 ひっ!目を開ける、しかしぼんやりとした視界には黒い影、


 それが頭を上下に動かしている。舐める動きが目に入った、ザリザリとした感覚がぼんやりと伝わるが、よく分からない……そして、


 そこで限界が来たのか、パタリと、意識を失った。


 どうでもいい、そう思った……



 *****



 ふぁー、なんだ?変な夢をみたような?それにしても、最近の薬って凄いな、あちこち痛いし、ふらふらするけど熱は下がってる様な?


 仕事は解熱3日、診断書持ち込みだから、2日程は休めるな、冷たい風が入ってくる。


 気持ちいいけど……あ!ベランダ開いてる。少し開けて行ったんだ、部屋の中埃っぽいから……



 うーん、何か飲もうと、背伸びをした時、枕元にぬくりとした毛玉の気配。




 見上げると……隣の白いペルシャネコの、ミランダちゃんが、丸くなりお休みになられていた。



 ソシテ、室内は、彼女により暴虐無人に荒らされていた……



 ……携帯が、部屋の片隅にぶっ飛んでいた。



『終』























































































タイトルの、ビー玉には意味がないのであった。何故にビー玉を彼は拾ったのか、昔飼っていたネコを思い出したのだろう、彼はネコが好きだったのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] 途中まで、本当に怖かった…… でも途中から、あ、妖怪?かと思ったのに…… リアルだった~(。´Д⊂) でも可愛いから許されちゃうのかな。 カワハギの匂いに釣られちゃったんだねー。 だから…
[一言] 俺はビー玉とちゅーるで召還されるのです。 ってアホか!(おい 猫はよく暴れますねえ。猫の運動会
2019/03/06 19:35 退会済み
管理
[良い点] ドキドキしながら拝読させて頂きました。 [気になる点] インフルエンザの検査は発症後直ぐは陰性な件。 下らない横槍すいません。 [一言] 家に帰ってからの主人公の心情、実に共感しました。…
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