支遁7 謝万転がされる
皇帝陛下からの招聘を受け、
都にやってきた支遁。
かれが、会稽に帰ることになった。
そこで時のセレブがこぞって征虜亭、
謝安さまが建てたという屋敷に集う。
この時蔡謨さんの息子、蔡系は
かなり前、支遁の近くに席をキープ。
遅れてやってきた謝万は、
やや遠くに座ることになった。
そこに蔡系、所用ができ、席を立つ。
おっいい席空いたやん!
謝万くん、さっそくその席に移動。
いやいや……。
所用から戻ってきた蔡系さん、
自分の席に謝万が座っていたのを見る。
するとその着物をひっつかみ、
地面に引きずり倒した!
えっ。
謝万くん、
帽子が脱げ落ちてしまうのだが、
衣類、冠を直すと、別の席につく。
へーぜんとしており、
特に怒ったところもない。
改めて謝万が席を決めると、蔡系に言う。
「きみは奇人だな!
ぼくの面目が丸つぶれだよ」
蔡系は答える。
「まぁ、そんなもの
初めから考えていないしな」
それだけを会話すると、あとは二人とも
いつもどおりに振る舞うのだった。
支道林還東,時賢並送於征虜亭。蔡子叔前至,坐近林公。謝萬石後來,坐小遠。蔡暫起,謝移就其處。蔡還,見謝在焉,因合褥舉謝擲地,自復坐。謝冠幘傾脫,乃徐起振衣就席,神意甚平,不覺瞋沮。坐定,謂蔡曰:「卿奇人,殆壞我面。」蔡答曰:「我本不為卿面作計。」其後,二人俱不介意。
支道林の東に還ぜるに、時賢は並べて征虜が亭にて送る。蔡子叔は前に至り、坐は林公に近し。謝萬石は後に來たり、坐は小しく遠し。蔡の暫し起たば、謝は移りて其の處に就く。蔡は還ざば、謝の在りたるを見、因りて合褥を舉げ謝を地に擲ち、自ら復た坐す。謝は冠幘を傾脫し、乃ち徐ろに起ちて衣を振りて席に就かば、神意は甚だ平らかにして、瞋沮を覺えず。坐の定むるに、蔡に謂いて曰く:「卿は奇人なり、殆ど我が面を壞したり」と。蔡は答えて曰く:「我れ本より卿が面を作さんと計りたるを為さざらん」と。其の後、二人は俱に意を介さず。
(雅量31)




